従姉が赤ちゃんを連れて来た

 従姉のお姉さんが、赤ちゃんを連れてやって来ました。まだ首も座らない小さな男の子。可愛いものですね。私にもあんな時期があったのでしょうか。いやあったんでしょうけど。

「奈子ちゃん、抱っこしてみる?」

 とお姉さんに言われましたので、注意深く彼を抱き上げます。私の膝の上で彼は不思議そうな顔をして、母親の方を見つめていました。

 ああ、どうして赤子はこうも愛くるしいのでしょう。

 私の疑問に、かつて我がサークルの先輩はこう答えました。「周囲からの援助を受けやすい個体が生き残った結果だろう」と。ロマンの欠片もない答えだと思いました。

 また、こんなことも言っていました。「ただ人間の赤ちゃんというのは興味深い存在だね。一人ではまず生き残れない。人間が文明を発展させたのは、赤ん坊を守るためだったからかもしれない」と。

 哺乳類の中で、人間ほど無力な状態で生まれてくる動物はあまりいないでしょう。まともな移動能力を手に入れるのにどれほどかかることか。

 そんな無力な赤ん坊を外敵から守るためには、集団の協力が必要になります。サバンナや森の中で男女二人で赤ちゃんを育て上げるのって、相当難しいと思いますし。

 黎明期の人類は赤ちゃんを守るためにも社会性を発達させたのではないかと、先輩はそう言っていました。これはちょっと素敵な説だと思います。

 私はそっと赤ちゃんの頭を撫でます。額のあたりを撫でるとその柔らかさがわかります。赤ちゃんの頭蓋骨というのは、まだ骨の隙間が閉じられていないそうです。

 赤ちゃんの脳は成長の余地があるということですね。人類の特徴の一つは脳容量が大きいことですが、そのために産道を頭が通り抜けるのが困難なのです。

 なので、まだ成長しきっていない段階で産んでしまうのですね。その分子供の成長にも時間がかかるのでしょう。


「確かに君は、興味深い存在だね」


 私が小さく呟くと、彼はやっぱり不思議そうな顔をしています。ああ、可愛いなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る