第1章 王の戴冠式 その3

「隊長、現在フォーレルの森の西辺りにいます。もうじき目標の合流地点に到達します」

「分かった、ベル」

「ヘルズ、目標が確認できるか」


 監視役のヘルズは望遠鏡をのぞき込む。


「まだ、見せませんや、ちと早すぎたか向こうが遅れてるのか」

「わかった、そのまま監視をしろ」

「了解」


 ヘルズは飛竜の高度を上げて周囲を探る。


「テミーシャ、ホルンは先行して周辺の地理を確認、地形を把握しろ」

「はいな!」

「ああ」


 テミーシャとホルンは飛竜の手綱を扱い部隊を追い抜く。


「マリーナとフィルテナはこの辺周辺に爆薬を仕掛けろ、足止めに使う」

「残りは私と一緒に森の中で待機、ここに奴が来たら一斉に飛び出し、爆薬で足止めをしたら一斉に仕掛けろ」

『了解』


 兵士達は声をそろえて返事をした。

 マール一団は平らな平地に陣営を組み、敵が現われるのを待った。


「前方、五百メートル近くに敵影を確認! やや西に寄りながらこちらに向かってきております!」


 監視役のヘルズが陣営の上空にて声を上げる。


「了解した! 全員飛び立つ準備をしろ! これより作戦を開始する」


 待機をしていた兵士達はマールの一喝を聞き、飛竜に又借りマールと共に空へと舞い上がった。

 ヘルズの顔を向けているほうにマールは目をやった。

 木々を薙ぎ倒しながら迫る影、それはまるで巨大な大蛇だった。


「あんな怪物、見たことがないな」

「作戦を変えますか?」

「いや、予定通り作戦を実行する。 マリーナとフィルテナ! そっちの準備はできているか」

「いつでもどうぞ!」


 マールの言葉にフィルテナが答える。


「テミーシャ! ホルン! 目標を爆薬が仕掛けた場所まで誘導させろ! 目標が爆薬で動きを止めた瞬間に一気に残りの兵士達で息の根を止める!」


 テミーシャとホルンはうなずき、巨大な大蛇に向かって飛び立つ。

 大蛇の上空辺りまでくるとテミーシャは飛竜の背中に乗せた荷物から火薬袋を取出し、導火線に火をつけた。

 火が消えないよう低空まで移動して大蛇の耳元に落とす。

 丁度、導火線から火薬に火が移り、大蛇の耳元に炸裂する。

 それに驚いた大蛇は慌てて軌道を変える。

 だが、軌道を変えた矢先にホルンが再び火薬袋を大蛇の耳元に炸裂させ、大蛇は一目散に逃げ出すように走りだした。

 大蛇は木々を擦り抜けてテミーシャ達を振り切ろうとするが簡単に追いつかれ、火薬袋が耳元で炸裂する。

 それもそのはず、爆発から逃げように走りだしていこうとする方向は木が特に密集した地形なのだ。

 木々に動きをとられている間に追いつき、再び火薬袋を炸裂させる。

 正常な判断ができないように、そして大蛇が知らぬ間に誘導された場所はマリーナとフィルテナが仕掛けた爆弾の巣窟なのだ。

 マールが手をあげた瞬間、爆弾の巣窟に連れ込まれた大蛇に一斉に火が灯された矢が放たれる。

 地面から次々と爆弾が炸裂してついに大蛇は動きを止めた。


「攻撃よーい!」


 マールを始めとする兵士達は手槍を掲げ、大蛇の上空に円を描くように隊列を組む。


「つづけ!」


 マールが先頭をきって大蛇に急降下する。

 大蛇が肉眼ではっきりと確認できる程に近づいた瞬間、手に持った手槍を全力で投げ放つ。

 手槍は風を切り、大蛇に骨を砕きながら食い込む。

 それに続くように兵士達の何十という銛が次々と降り注ぎ、大蛇は断末魔の叫びを挙げて地面に倒れこんだ。


「やったか」


 何度も大蛇の上空を旋回してみるがピクリとも動く気配がない。


「アステルとバンガスは私と同行して敵の沈黙を確認、ベルは上空にて待機、何かあった場合は私に構わず攻撃を仕掛けるように」


 ベル、アステル、バンガスはうなずいた。

 マール達が降下しようとゆっくりと高度を落としているとテミーシャがマールに近づく。


「ねえ! ねえ! 私も降りちゃダメかな。 あの蛇って普段見かけるのとは変わっているって言うか。 なんというか。 違うんだよね。 面白そうだし、いわゆる興味本意ってやつかな。 いや、たぶん」


 マールは軽くため息をつく


「別にいいけど、ホルンと一緒ペアなんだからホルンがいいならかまわないよ」

「やりぃ!」


 テミーシャは嬉しそうな声を挙げ、ホルンを呼ぶ。


「ねえ、一緒に同行してくれるでしょ」

「しません。絶対に、あなたの思いつきで行動しているといつも大変な目に遭うことが多すぎます」

「いいじゃん。 そんなこといわずにさぁ」

「はぁぁ、隊長の許可は下りているし、分かりました。同行しましょう」


 ホルンは渋々テミーシャ要求に応じることにした。

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飛竜遊撃隊 大王さん @daiousan

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