思わぬ助っ人
「えぇぇぇ!?」
『警察官だと!?』
駐輪場に響き渡るぐらいに修也とエルは声を張り上げる。それは無理もないだろう。犯人も手紙を渡した人物が、まさか警察官なんて思わなかったに違いない。
「あの、嘘じゃないですよね?」
「はい、本当です。まあ、交番勤務の下っ端ですが。今日はたまたま非番だったんです」
『しかし、それにしては雰囲気というか、警察官特有の匂いが感じないな』
「こら、エル」
「いえ、いいんです。本当の事ですし、友達にもお前は本当に警察官なのか? と言われるぐらいですし」
あはは、と苦笑を飛ばす姫川。
「上司にもお前はもっと飯食って筋肉を付けろと言われ、柔道の組手ではいつも簡単に投げられてます。僕なりに努力はしているんですが、警察官としての実力は本当にないんです。そのせいで、周りからは『最弱の警察官』なんて呼ばれたり」
そう言うと姫川は落ち込み、目から光が失われ始めた。
やっべ、何て声掛けたらいいか分かんない……。
警察官と言われたものの、修也の目から見ても姫川は警察官っぽくなく映っていた。見た目からすれば、どこかのIT企業にでも勤めている風貌だ。
この落ち込み具合から、普段の勤務で良い所が無いのだろう。励ましの言葉でも掛けてやりたいが、どこを捉えて言えばいいのか見つからない。
『ふむ。たしかにお世辞にも姫川さんは警察官には見えないな。だから犯人も気付かなかったんだろう』
おおい、エル! 何追い打ち掛けてるんだよ! ここは励ます所だろ!
「はは、やっぱそうですよね。僕は警察官には向いてないですよね」
『いや、貴方は警察に必要な人間だ』
「えっ?」
エルの言葉に姫川が視線を戻す。
『たしかに警察という人間は屈強な肉体が必要だ。しかし、そのせいで怖いイメージを持ってしまうのも事実。住民から近寄り難い存在になってしまいがちだが、貴方のような人間はそれを緩和してくれる。特に、交番勤務ではそれが重要な要素にもなるんだ。勤務中、声を掛けられる事はないか?』
「あ、はい。よく子供達や高齢の方からは挨拶されます」
『そうだろう。貴方には親しみやすい雰囲気がある。ただの挨拶かもしれんが、その一つ一つが周りに安心を与え、助けになっている。そして、それは今私達に最大の助けになってもいる』
「と、というと?」
『今言ったように、犯人は貴方を警察官とは気付かなかった。一緒に行動していても、同情して協力しているようにしか見られないだろう』
そうか。犯人は油断するかもしれない。それに、姫川さんなら隙を見て警察に連絡も出来るし、仲間からの連絡なら迅速に動いてくれる。僕達にはメリットの方が大きい。
『すまない、姫川さん。先程は断ったが、是非協力して欲しい』
「も、もちろんです! お願いしたのは僕の方ですし、見事犯人を捕まえて上司を驚かせてやります!」
落ち込んでいたのが嘘のように、姫川は俄然やる気に満ち溢れ始めたのか握り拳を作っていた。
『よし。では早速三人でここをくまなく調査するぞ』
「よっしゃ!」
「分かりました!」
エルの合図に修也と姫川が返事をし、調査を開始した。
***
調査を始めて三十分。
三人は集まると各自で見つけた物を持ち寄った。
「アイスの棒。チラシ」
「ヘアピン。パンの袋。パチンコ玉」
『靴下に煙草の吸い殻……ゴミばっかだな』
見つかる物は手掛かりとは言い難い物ばかり。結果的には駐輪場の清掃に終わってしまった。
「まったく。どんだけゴミが落ちてるんだよ。ポイ捨てするなよな~」
「このヘアピンは千鶴さんの物では?」
『いや。千鶴はヘアピンをしていない』
「そうですか……」
「ゴミしか見つからなかったけど、現場調査ってこんなに大変なんだな」
『私達のはまだ序の口だ。鑑識が入れば髪の毛一本見つけるつもりでやるんだぞ』
本当に鑑識に来て貰えれば結果は違っただろうが、それは無理な話だ。まだ警察に連絡するわけにはいかない。
「他に何かないですかね?」
「目に見える物ではこれで全部です」
「そうですか。でもどれも手掛かりではないですよね」
姫川の言う通り、千鶴の居場所を特定する物は見つからなかった。
いや、まだ何かあるはずだ。父さんも言ってただろ。現場には必ず手掛かりがある!
修也は一人再び地面に伏して手掛かりを探し始めた。
「二階堂さん。ここは切り上げて周囲に聞き込みをした方がいいのでは? 女の子を連れた人物がいなかったかを」
「でも、きっとどこかにあるはずなんです。千鶴の場所を示す鍵が」
「そうは言っても、もう目に付く物はないですよ? これ以上は透明な物を探す様なものです」
「いや、あります。まだどこかに隠れた可能性も――」
突然、修也の動きが止まった。
透明な物を探す? 待てよ、そういえば……。
姫川の言葉である可能性を思い付いた修也は、ポケットからある物を取り出した。
「二階堂さん。それは?」
「ただの小型ライトです」
「ライト? そんな物を出して何を?」
修也は質問に答えず、自分の体で影を作りながらライトで地面付近を照らし出した。すると……。
「あった!」
修也の声にエルと姫川が近付き覗いてみると、そこには淡く光る点があった。
「こ、これは?」
「光るペンです」
「光るペン?」
「普通には見えないけど、このライトを当てると光るんです」
この課題を決めるくじの前に千鶴と話した内容を思い出し、もしかしたらと思って試したが見事に当たった。
『そういえば、千鶴とそんな事を話していたな』
「うん」
「じゃあ、これは千鶴さんが残したもの?」
「間違いないです。きっと千鶴は連れて行かれれながらこれを垂らしていったんです」
「えっ? 千鶴さんは襲われたんじゃ?」
『いや、襲われた事に違いないだろうが、おそらくナイフか何かを突き付けられながら連れて行かれたんだ。無理矢理だったり気を失わせて担いで行ったらどう見ても怪しい』
「た、たしかに」
修也がさらに別の地面を照らしていくと、光は点々とどこかに続いていた。
「これを辿れば千鶴の場所に行き着く!」
『よくやった、修也』
「行きましょう」
修也達は光を頼りにその場を後にした。
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