オーマイゴッド

 課題を設けられる土曜日を向かえ、修也はペアを組んだ千鶴と正門に歩いていた。


『また二人で取り組む事になるとはな』

「そうだな」

「前回の下着泥棒でも一緒にやったしね。なんとなく自然にペアを組んじゃったよ」


 ホームルーム後、生徒達はペアの相手を探しに駆け回り始めたが、修也と千鶴は即行でペアを組んでいた。


『千鶴は別に修也じゃなくてもよかったんじゃないのか? 今回は選抜が懸かっているんだ。ペアの相手なら他にもいただろう?』

「なんだよ、それ。まるで僕じゃダメみたいじゃないか」

『ダメ以外の何がある?』

「んだと、こら」

「ああ~、修也以外は考えられなかったよ」

『なぜだ?』

「えっ? だって、エルちゃんがいるから。エルちゃんは二階堂名探偵の使い魔だからすっごく頼りになるし、困った時は色々教えてもらえるし」

「……僕は?」

「修也はおまけに決まってるじゃん」


 僕の存在価値はどこに……。


 修也は近くの木に手を当て下を向く。


『何してる、修也。行くぞ』

「早く課題をもらわないと」


 修也を傷付けているという悪気を一切持たない二人。そんな二人の後を修也はすごすごと付いていく。


 正門に近付くと、長テーブルにの椅子に座る橘先生の姿が見えた。その前には何組かの生徒もおり、順番に箱に手を突っ込み何かの紙を引き出している。どうやらあれに問題が書かれており、くじの形で課題が決められるようだ。問題をもらうため、修也と千鶴も列に並ぶ。


「どんな問題だろうね」

「ハズレは引きたくないな」

「どっちが引く?」

「僕はいいや。なんかヤバそうなの引きそうだし」

『その方がいいだろう。修也はくじ運が悪い』

「ほっとけ」

「じゃあ、私がやるね」

「頼むよ。あれ? 千鶴、その胸ポケットにあるペンは何?」


 千鶴の胸ポケットに見掛けないペンが刺さっているのが見え、修也は尋ねてみた。


「ああ、これ? 光るペン」

「光るペン?」

「うん。面白いんだよ、これ。紙に書いた時は文字が出ないんだけど、ライトを当てると文字が浮かび上がるの」


 そう言って千鶴はメモ帳を取り出してそのペンで文字を書く。たしかに何も印字されていなかったが、ライトも取り出し当ててみると『探偵』という文字が浮かび上がった。


『ほう。ルミノール反応みたいなものか』

「そっ。今、一部の生徒の間でノートとか使って秘密の情報交換とかしたりして、人気になってるんだよ」

「へ~、たしかに面白いな」

「私、ライト二本持ってるから修也に一本あげるよ」

「いいの? サンキュー」


 お礼を言いながら修也はライトを受け取ると、それをポケットに仕舞った。


 そんな他愛もない話をしてしばらく待っていると、修也達の順番が回ってきた。


「よ~し、私のゴッドハンドの見せ所ね!」


 肩を回して気合いを入れると、千鶴は勢いよく手を箱に突っ込んだ。


「う~ん……これじゃないな……こっち……は違うな……え~と……」

「羽賀、さっさと引け。後がつかえている」


 手を入れて一分程だろうか。見かねた橘先生が促す。後ろを見ると、修也達が来た時以上の列が成していた。


「よし、これだ!」


 腕を高々と上げ千鶴が一枚を引き出し、それを橘先生に渡す。


「ほほう。これは」


 紙の中身を見た橘先生がそう溢す。その顔には笑みが浮かんでいた。


「先生、問題は?」

「おめでとう。君達は当たりだ」

「えっ!」

「当たり! やった!」


 当たりと聞いて喜ぶ二人。しかし……。


「喜べ。お前達は


 ……うん?


 修也と千鶴の笑みが引き攣る。そんな二人の前に橘先生が紙の中身を見せた。



【二年前に解決された連続殺人事件。その事件を自分達でもう一度解決せよ】



「もう一度解決せよ?」

「先生、これどういう意味ですか?」

「そのままだ。お前達はこの連続殺人事件を自分達だけでまた捜査し、同じ真相を導け」

「えぇ!?」

「何それ!?」


 驚く二人を無視し、橘先生が足元から出した新たな紙を渡してきた。


「ここに最初の現場が印されている。まずはそこに行け。第一の事件と次の現場への資料があるからそれを順に辿り、全ての情報を手にする。全部の事件を把握し、真相を導く。言うならば、レゾヌマンに行動を付け加えたようなものだな」

「レゾヌマンよりしんどい!」

「だから当たりだと言ったろ」

「そっちの当たり!?」


 当たりは当たりでも、悪い意味での当たりだった。


『しかし、二年前にこの近辺で連続殺人などあったか?』

「いえ。これは他県であったものを問題に組み込んだものです。その現場と似たような場所をポイントにしました」

「他県のをわざわざ取り込まないでくださいよ!」

「アホ。警察と違い、探偵に管轄はない。依頼があれば日本全国飛び回らなければならないんだぞ。むしろ、こうして他県の事件を再現したこちらに感謝して欲しいものだな」


 修也は愕然とし、その場で膝から崩れ落ちた。


 こうなったら仕方ない。図書館に行って二年前に起きた連続殺人事件を調べて、真相を知るしか――。


「先に言っておくが、各ポイントでの資料以外から事件の情報を手にした時点で失格とするからな。図書館に行って真相を知ろうとは考えないように」


 心読まれた!?


 釘を刺されて成す術がなくなった修也と千鶴。その後もいくつか説明を聞き、受付の場から離れた。


「終わった……」

「こんなの今日中に解けるわけないよ~」

「なんて問題引くんだよ、千鶴!」

「し、仕方ないでしょ! くじなんて運なんだから!」

「お前のその手はゴッドハンドじゃないのかよ!」

「ゴッドはゴッドでも、どうやらオーマイゴッドのゴッドハンドだったみたい」

『うまい』

「うまくねぇよ! 一番ダメなハンドじゃねぇか!」


 ちくしょぉぉぉ! こんなだったら自分で引けばよかったぁぁぁ!


『まあ、引いてしまったものはしょうがない。時間がないんだろう? なら、さっさとその紙に印された場所に行くぞ』


 制限時間は今日の十八時まで。現在時刻は午前八時。最高難易度であるため、一分一秒も無駄には出来ない。エルの言う通り、すぐに行動に移さなければならないだろう。だが……。


「千鶴。先に行って調べろよ」

「何で私が? 修也が行きなさいよ」

「千鶴が引いたんだろ? だったら、千鶴が責任持って先行しろよ」

「何よそれ。修也が自分で引きたくないって言うから私が引いたんじゃない」

「だからってあれはないだろ。いくら僕でももう少しまともなのを引けた」

「後からならどうとでも言えるわ。実際に引いてないくせに文句言わないでくれる?」


 こんな結果になった事に、互いに言い合っていて中々行動に移さなかった。


「はぁ~。千鶴と組むんじゃなかった。そうすればこんな事にはならなかったよ」

「はぁ? それはこっちの台詞よ。修也の悪運がこの結果を呼んだんでしょ?」

「うわ~、出たよ。自分の非を認めないで人のせいにする。最低だな」

「何ですって!」

「何だよ!」

『やめんか、二人とも!』


 終には喧嘩にまで発展し、エルが慌てて仲裁に入る。


『口喧嘩してる暇があるのか? 選抜が懸かっているんだぞ。最高難易度である以上、二人で協力しなければ解決など出来ん。そんな時に罵り合ってどうする』

「だって千鶴が……」

「だって修也が……」

『だってもくそもない。喧嘩したいなら課題が終わってからにしろ。ほら、第一現場に向かうぞ』


 エルの台詞にひとまず口喧嘩は止まり、修也と千鶴は先導するエルの後を付いていく。


「……ふん!」

「……ふんだ!」


 しかし、すぐに仲直りも出来ず二人は一度互いに顔を見るが、そっぽを向いてしまった。

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