ヒデヨシの最期

第45話-ヒデヨシの最期


かつてヒデヨシと呼ばれた男は、今はもういなかった。

…いや、正しくは違う。

かつてヒデヨシと呼ばれた男は、ただの男へと変えられてしまった のである。




深層心理研究会が追い求めた異能力、若宮 蘭のそれは、完全な「心理掌握」であった。










中村 椿は、名古屋を愛していた。

それは、久屋 錦がそうであるように。

それは、米田 豆子がそうであるように。

それは、若宮 蘭がそうであるように。


しかし、その純粋すぎる愛が故に、狂気に近い愛が故に、手段を選ばず 数多の人間を名古屋に呼ぼうと考えたのである。





若宮 蘭が与えた心理は、名古屋を愛する心と、人を愛する心。

愛する心。それは、他を認める心でもあるのだ。



ヒデヨシは、もういない。

警察も、ただの男のためには動かない。


従うべく相手を失った警官たちは、それぞれの居場所へと帰っていく。

戦いは終わったのだ。



勝利の味を噛み締めながら、久屋 錦と米田 豆子は、若宮 蘭の元に歩を進める。


「フラリエ、よくやったね。ちゃんと勝ったんだよ。」


「私は、ココの言う通りに動いただけだよ。」


盲目の少女は、親友の伸ばした手を掴み、立ち上がる。



「お疲れ様。二人共よくやってくれた。私と八熊君だけでは掴めなかった勝利だよ。」


「いえ…助けていただいて、ありがとうございました。」



そんなやりとりを交わしながら、久屋 錦は虚ろな表情の中村 錦に目をやる。

先程まで、人を殺そうとしていた人間には見えない。

社会生活に疲れた、ラッシュ時の東山線に乗るサラリーマンのような目だ。


「中村 椿くん、一緒に来てもらえるかな。」


無言で頷く男を連れ、一行は隠れ家としていたBARへと戻った。

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