第44話-尾張の見えない戦い。

チェックメイト とは、将棋で言う王手とは意味合いが違う。

チェックメイト とはつまり、敵を討ち取った という報告である。つまり43話の表現は、小説としては最大のネタバレとなる表現であり、適切な表現であるかは賛否の分かれるところである。


しかし「走れメロス」などは、タイトルを読んだだけでなんとなく、メロスが走る内容である事は予想できるし、それがネタバレだからと読まない理由にはならない。

つまり、何が起きるかを知っていても知らなくても、そこに至る過程が楽しめる内容であれば それは小説であり、物語として成立するのだ。



ただし、数多のアニメやライトノベル、漫画以外にも、文学作品に至るまでのあらゆる作品を読み漁ってきた神戸 灘はこの表現に苦言を呈するであろう。

「なぜ、チェスの話も描写も1度もない作品で、いきなりチェックメイトなんて言うんだ」と。






そんな神戸 灘は、憧れの異能力を手にした喜びと、生と死の狭間を駆け抜けた緊張感から、既に精神的に満身創痍であった。

隠れ家で待っていた2人の少女に、久屋は最後の作戦を告げる。




意外にも2人からは、緊張感を感じなかった。

絶対にできると、信じているのだろう。


これまでもそうだったように、お互いが、お互いを信じているのだ。


久屋 錦は、神戸 灘に貸与していた力を自分に戻し、そして…


若宮 蘭に、ヒデヨシの力を預けた。






米田 豆子が隠れ家の窓から外を見ると、池下の路地には、まだ数名の警官と、武装を剥がれたヒデヨシの姿があった。



「フラリエ、外に出たら、すぐ左を向いて7歩ね。」


iPhone越しの指示は、一歩間違えば大惨事を招きかねない。

若宮 蘭が死んでも今日はやり直せるが、また無限に近い時間を、白鳥 八熊が過ごす事になるのだ。


米田 豆子は、こちらからは視認できず目の見えない若宮 蘭を、警官たちをすり抜け、ヒデヨシの元に案内し、ヒデヨシの手を掴ませるよう誘導しなければならない。


しかし2000年を超える時間を、親友と共に歩んだ米田 豆子には、親友の歩幅が、今の位置が、完全に把握出来た。


見えるか見えないかが、決定的な戦力差ではない事を、教えてやる…!

それが、この1日を通しての作戦のキーとなる言葉であった。




そうして米田 豆子は、親友をヒデヨシの前に誘導する事に成功する。



「フラリエ、今目の前にいるのが、ヒデヨシだよ。」


声を出すと気付かれてしまうため、返事は返ってこない。

自らの敵を前にして、彼女は一体どんな気持ちなんだろう?



「フラリエ、いつもの私の袖の位置。そこに手がある。右手で行って。」



そう伝えた直後、ヒデヨシはその場に座り込んでしまった。

警官たちが、ヒデヨシに駆け寄る…。



若宮 蘭は自らを可視化し、同じようにヒデヨシの前に座り込んだ。



突然現れた若宮 蘭に少し驚きながらも、取り押さえようとする警官たちを制したのは、ヒデヨシ…いや、中村 椿だった。

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