第43話-みえるおわり。
私服警察官から連絡を受けたヒデヨシは、またも渾身の一撃を回避された。
やはり、白鳥 八熊は未来が見えている。
確信したその瞬間、ヒデヨシは逃げる素振りを見せない白鳥 八熊から大きく距離を取った。
背後から現れたのは、久屋 錦だった。
ヒデヨシは久屋 錦に斬り掛かるが、それすらも躱される。
しかし、視認されているようには見えない。
深層心理研究会での研究の結果、他人に影響を与える異能力を発現するためには、必ず相手に触れる必要がある。
つまり久屋が異能力者で、ヒデヨシに何かをするつもりだとしても…当たらなければ、どうという事はないのだ。
斬撃を繰り返しても、久屋はゆっくりとした動きで回避を続けた。
気付けば、白鳥 八熊の姿もない。
人通りの少ない池下の路地。
奇怪な動きで見えない斬撃を躱す男を見て不思議に思ったのか、通りすがりの若者が声をかける。
「あの、どうしたんですか?」
「あぁいや、ちょっと酔っ払ってね。大丈夫だから放っておいてくれ。」
不思議そうに久屋を見ながら、男は歩き出す。
男が見えなくなったら、今度こそ久屋を殺そう。
そう思い、すぐ近くで息を潜めていたヒデヨシは、何かが皮膚に触れた感触と共に思考停止した。
ただの通行人かと思っていた、見覚えのない男の手が、ヒデヨシの手に触れていた。
ヒデヨシは「視認できる状態」に戻され、更にもう一度の「能力の発現」もできないことに気付く。
「やったね、触れた!ばっちり見えるぜ。」
そう言って喜ぶ通行人…だった男は昨夜、BARに偶然立ち寄ったオタク、神戸 灘 だった。
「神戸くん、能力が消えただけだ、油断するな!」
久屋 錦が叫ぶと同時に、ヒデヨシは男に斬り掛かる。
回避できない間合い。死を覚悟した神戸は、HDDを破壊せずに死ぬ事を酷く後悔した。
その斬撃を止めたのは、白鳥 八熊の放った銃弾であった。
数万回にも及ぶ今日を過ごし、ようやくヒデヨシの能力を封じる事に成功。
そこから更に、数万回にも及ぶ今日を繰り返し、この斬撃を止めることに成功した。
天文学的な確率でしか命中しないなら、その回数の「今日」を過ごす。
白鳥 八熊の終わりの見えない今日は、今終わりを迎えたのだ。
「…さぁ、後はお願いね。」
精神的な疲れからか、その場で目を閉じ眠りについた白鳥 八熊の意思を継いだかのように、久屋 錦と神戸 灘は、ヒデヨシの日本刀を奪い、抵抗できないよう 地面に抑え込む事に成功する。
作戦は、順調である。
しかし、ここからはアドリブ…というか、未知の領域だ。
何せ、白鳥 八熊ですら初めてたどり着いた未来である。
抑え込まれたヒデヨシを助けるためか、数人の警官が集まり、久屋 錦たちを取り囲む。
久屋 錦は、地面に抑え込んでいたヒデヨシの手から、ヒデヨシの力を奪い取っていた。
人の深層心理に作用して発現する という事は、深層心理が深ければ深いほどに、その能力を奪うのに時間がかかる…。
しかし、久屋からヒデヨシを開放しようと警官たちがそれぞれの手を伸ばしたその時、能力の奪取は終わった。
そしてすぐに、隣の神戸 灘に能力を与える。
ヒデヨシをその場に残し、自らを透明に変えた神戸 灘と その力で透明になった久屋 錦は、足音を殺して警官たちをすり抜け、池下の路地を後にした。
駒は全て揃っている。
チェックメイトだ。
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