-3章-深層心理研究会

サンプル

第32話-002の過去。

若宮 蘭は、生まれつき目が見えない。

それは親友である米田 豆子も、本人すらもそう思っている事だが、実は少し真実とは違う。


若宮 蘭は産まれて間もない頃、とある研究会に所属していた父親の研究室に運ばれた。

本人にその頃の記憶はないが、至って健常な女の子だった。


「深層心理研究会」という施設で、いわゆる異能力を研究していた父親 若宮トオルは、娘に研究途上のとあるサンプル薬を注射した。

安全性には絶対の自信があったそのサンプルは、娘に対して取り返しのつかない後遺症を遺した。


しかし、そのサンプル薬は紛れもない成功品だった。

若宮 蘭は人智を超える力を開花させた。


しかし、その力はあまりにも大きすぎた。

若宮トオルは、その力を目にした時に確信する。


「この力が組織に知られれば、娘は戦争の道具にされるに違いない。」


若宮トオルは、このサンプルに対しての抗体を作るべく…いわゆる解毒剤の調合をはじめた。

異能力を抑えることができれば、娘にこれ以上の危害が及ぶことはない。



非凡な才を持った彼は、誰にも見つかることなく その解毒剤を調合してのけた。

彼は再び娘に注射を施す。



…数日待ってみても、異能力が発現しない事を確認し、彼はサンプルの報告書にこう書き記した。

「サンプル002 視力欠損有り。能力発現は無し。失敗。」



娘の視力を奪った事を責め立てられた彼は、妻と子と離れて生活することになる。

しかし、それでいいのだ。

若宮トオルは人として、親として許されざる事をした。

これで娘に危害が加わらないのなら、それが一番いいのだ。




かくしてサンプル002は、失敗作として保管庫に格納された。

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