第31話-錦という場所

錦にある私の隠れ家は、とあるビルの二階

この界隈に無数にある居酒屋の中の一つであった。

ここのマスターとは、昔からの顔馴染みだが…マスターとの経緯は、また別のお話で会うときに話すことにしよう。


20代前半の女性2人に、未成年の男1人と…もうすぐ50を迎える私。

傍から見れば異質な組み合わせの四人かもしれないが、そんな事を気にする輩は、夜の錦にはいない。

夜の錦は煌びやかな反面、異質さで溢れている。


「…さて、改めて自己紹介をしようか。私は久屋 錦だ。探偵のような事をしている。」


「私は米田 豆子、ココです。」


「私は白鳥 八熊です。先生の助手です。」


フラリエ…と呼ばれた少女は、俯いたままだ。

無理もない。実の母が殺されてから、まだそう時間も経っていないのだ。

しかも、今度は自分が狙われている。


「どうして、私たちを助けてくれるんですか?」


そう切り出したのは、ココと名乗る少女だった。


「君は、ヒデヨシ…という名を知っているか?」


「えーと…戦国大名の?」


「いや…若宮 桜を手にかけた者の名だ。私たちはずっと奴を追っている。」



私は2人に、ヒデヨシのこれまでの動きや、私たちのこれまでの動きを説明した。

彼女たちはそれを、怖がることも、疑うこともなく聞いた。

若宮 桜を守る事ができなかった理由も、洗いざらい真実を話した。


異能力には様々な制限がある。

例えばタイムリープは、触れた事のある相手にしか発現しないのだ。



それらを聞いた2人は、目の前の現実と辻褄が合うかどうか、確認しているのか…少しの沈黙。



そして次に口を開いたのは、意外にも若宮 蘭だった。


「あなたは先程、予知夢を与えてくれたのは そこの…八熊さんだとおっしゃいましたが、私は父が死ぬ夢を何度も見ました。あなたの言うタイミングでは、説明がつきません。」


それは私にとっても予想外の事だった。

異能力者というのは、世の中にそう多くいる訳では無い。

この話が本当ならば、彼女は「私たちが力を分け与える前に」既に予知夢の能力を得ていた事になる。

そうなれば、ヒデヨシが彼女を狙う事にも納得する。

…しかし、予知夢は基本的に「身内か自分の死」以外の未来はランダムにしか見られない。


八熊くんのように、もう一つの能力があるならまだしも…、ヒデヨシがそこまでして狙うような能力ではないはずだ。


「…すまない、それについては私も説明できない。ただ一つ言えるのは、元々君も八熊くんと同じ力を持っているのかもしれない という事だけだ。」



運ばれてきたハイボールを流し込み、私は一息ついた。


「あぁそれで、若宮 蘭さん。八熊くんに力を返してやってくれないかな。ココさんの力はそのままにしておくから。」


「はい。どうすればいいですか?」


「手を伸ばして、私が少し触れれば それで終わりだから。」


躊躇う様子もなく、彼女はすぐに手を差し出した。

私は手の甲で、そっと触れる。

刹那、身体中を走り抜ける衝撃。圧倒的な悪寒。

驚きと恐怖を隠せないまま、私は咄嗟に彼女に触れていた手を離した。

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