第8話-よくあるさいご

名古屋市中区栄

地名の通り栄えたところで、いわゆる都会である。名古屋を代表するような場所だ。

様々な想いが錯綜するこの街で、私達は今日も「今日」を生きていた。


サンシャインサカエやドン・キホーテを横目に見ながら、とあるホテルの二階にあるカフェを目指していた。

朝は喫茶店愛をあんなに熱弁したが、もちろんカフェも好きだ。大切なのは、カフェと喫茶店は違うという事だ。


絶妙な時間に来たからか、待つこともなく通された席には、携帯の充電器が備え付けられている。

フラリエを椅子まで案内した後、メニューを手に取った。


「飲み物、何がいい? 割となんでもあるよ。」


「ホットコーヒーがいいな。」


「わかった。ケーキとかもあるけど、食べる?」


「ココちゃんが食べるなら、半分ほしいよ。」


ココというのは、私の名前…ではなく、あだ名である。

8話にして、しかもあんなサブタイトルの中で、ようやく自己紹介というのもそれなりに斬新なのではないかと思ったが、よくよく考えれば何かで読んだような気もする…。

もし読んでいたとしても、今はその話は置いておこう。

ココというのは、米田 豆子(こめだとうこ)の最初と最後を取って付けられた名だが、ココ になると、某カレーチェーンすらも彷彿とさせる名前に変わるから不思議だ。


少しして運ばれてきたケーキは、天使の羽のようにフカフカのスポンジの上に、ふわふわの生クリームが乗ったケーキだった。


フラリエは甘い香りを感じ取ったのか、黙って口を開いて何かを…いや、ケーキが口に運ばれるのを待っている。

今更かもしれないが、フラリエは基本的に自分で食事ができる。

箸は苦手らしいが、本当は私の手伝いなど無くても、少なくともケーキを食べたりする事はできる。

それでもフラリエが待っているのは、きっと…そういうことなのだ。


「はい、どうぞ。」


そう言って、一口大に切られたパウンドケーキを口に押し込む。

幸せそうな顔で頬張るフラリエを、もう二千年以上も見ているのに飽きることは無い。


…思えばこのカフェのメニューも、全て食べてしまった…。

それでも通い続けるのは、このカフェに来るという選択が、「今日」を一番長く過ごせる選択肢に他ならないからだ。



何度も何度も、目の前の光景を見てきた。

でも、フラリエが今 本当は何を考えているのかがわからない。

それは定休日も調べずに、平日の月曜に名古屋に観光に来て絶望するそれに近い。

考えても考えても、「今日」の終わりは近付いているのだ。



空になったケーキの皿が下げられ、フラリエが口を開く。

「ねぇ、ココ。」


あぁ、今回もやっぱりダメだったか…

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