-1章-フラリエ

1.フラリエとの日常

第4話-よくあるひみつ


フラリエ…若宮 蘭は、生まれつき目が見えない。

昔から隣に住んでいた事もあり、いつも一緒に遊び、過ごしていた。

社会人になった今も、休日にはこうして2人で出かけることが多いが、やはりその中でも気付くことは多い。


つまり一言で言えば、「私にとっての当たり前が、フラリエにとっては違う」のである。

加えて私は、二千年を超える「今日」を過ごしている。

「今日」は、名城公園から電車に乗り、セントラルパークで買い物をする。

主な予定はそれだけなのだが、私にはその後の展開も見えて…いや、知ってしまっている。

読者の皆様にネタバレを提供しないよう語る事で精一杯なのだ。


「今日、あんまり喋らないね。機嫌悪いの?」


…おっと、黙りすぎていた。

こういう小さい事の積み重ねで、時間が戻るのだろうか…。


「いや、ごめんごめん。モーニングどうしようかと思ってさ。」


「そうだね。栄に着いてからの方が沢山あるよね。」


「うん。コメダは定番すぎるし…」


正直、ここの正解は見えない。

名古屋には喫茶店が無限にあるし、市内のコメダ珈琲店の店舗で魔法陣が描けるどころか大体なんでも描けるくらいの店舗数がある。

休日の朝には、パジャマで来店する家族もいるくらい、名古屋には喫茶店文化が根付いているのだ。


「よし、コンパルにしようか。」


「うん。連れていってね。」


コンパルとは、大須商店街に本店がある喫茶店である。

モーニング以外にも、エビフライサンドなどの軽食メニュー(決して軽くはない)も充実していて、根強いファンの多いお店だ。

栄駅から少し歩くと、コンパルの見慣れた看板が見えてきた。


店内に入ると、落ち着いた空間が広がっていた。

私はこの、昔ながらの喫茶店の雰囲気が好きだ。

決してカフェではない、喫茶店の雰囲気。

カフェも良いが、名古屋の民としては喫茶店は外せない。


「私、こういう雰囲気好きだな。」


「お、フラリエもわかってくれるか。さすがは名古屋の民だな。」


「うん、見えないけど、暖かい雰囲気は感じるよ。」


「ちなみに、コンパルはアイスコーヒーが面白い形で出てくるんだ。今日は寒いから、ホットにするけどね。」


「あはは、君は、本当に名古屋が好きだねぇ。」



そう、私は名古屋が好きだ。

だから、誰よりもこの街を知っていたい。

思っていたよりも都会で、想像していたより田舎。

何でもあるけど、何にも無い街。


語るのに、多くの言葉は要らないのかもしれない。

でも、名古屋という街を見ることのできない君に、どうやってこの街を伝えればいいんだろう…。




そんな事を考えながら、私はフラリエの口にトーストを運ぶ。

美味しそうに頬張る笑顔を見て、今回も私はこう思うのだった。


…今回もまた、ダメかもしれないなぁ…。

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