ノンプロット ゴーズ オン
夏日 純希
第1話 筋書がなければお尻も……
ウィルは若竹博士のお尻に強力な飛び蹴りをかました。
「てめぇ、俺のお尻に何をしたんだ!?」
ウィルは叫んだ。そして、叫んでいるウィルのお尻はぼやっとした赤色に点滅していた。まるでどでかい赤色発光ダイオードが、ズボンの中に仕込まれていて、排泄物はここから出ますよと警告を放っているかのようだった。ウィルは自分のお尻を見て怒りを自分のお尻に向かって話す。
「いや、出ないよ! いや、出るけどさ。今は出ないだって! 光るのやめてくれ」
ウィルの懇願もむなしく、お尻は約1秒間隔の明滅を繰り返していた。普通に考えれば、出る・出ないの話で明滅しているわけではないのはわかりそうなものだが、ウィルは完全に混乱していた。
「何をするんじゃ、ウィル。ワシのお尻を大事に扱ってくれんと困る」
若竹博士はお尻をさすりながら立ち上がって言った。二人のにらみ合いは続く。
ウィルはお金に困っていた。そして、治験というかなんというか、要するに人体実験みたいなものに手を出してしまった。ここは、若竹博士の研究所。何もかも贅沢なつくりで、例えば、別途なんてシルクな肌触りなのだ。大理石の床にはピッカピッカとしたから光を放っていた。それくらい、お金のあるところなら、きっと支払いもがっぽがっぽだし、安心だし、何かあってもアフターケアしてくれるだろうと、根拠のない判断をして、判断ミスをして、今、お尻が光っている。
「これはいったい何の実験なんだ」
「ははははは。聞きたいか。これはな、新型の乾燥剤の発明なのだ」
「乾燥剤ってあれか? ビスケットとかを湿気から守る、食べられないやつか?」
ウィルは困惑した。お尻と乾燥剤との関係が全くわからなかった。いや、わかる人類がいるかどうかもかなり訝しかった。
「今までの乾燥剤の欠点は何かわかるか、ウィルよ」
ウィルは首を横に振る。そして、唾をごくりと飲み込む。もしかしたら、偉大な発明の関わったのかもしれないというかすかな思いがウィルの心によぎったのだ。
「乾燥剤。その名もシリカゲル。致命的な欠陥は……」
「……欠陥は?」
「名前が暗いことだ。だって、尻が陰るんだぜ! 陰鬱すぎて涙がでるよ!! ははははは、それに比べどうだ。私の発明は。尻が陰るどころか、尻が光っておるだろ。名付けてシリテラス」
「尻照らす?」
「ノンノン。シリテラス!」
若竹博士は、ウィルの発音とイントネーションが気に入らなかったのか、外国の企業名をCMで発音するかのようにそう言いなおした。
「ということは、これは乾燥機能がついているのか?」
ウィルは当然の疑問を口にした。
「!? なっ、お前今何と言った?」
「乾燥機能がついているのか? と言った」
「しまった。ワシとしたことが、乾燥機能のことをすっかり忘れておった」
「どあほーーーー!」
その時のウィルといえば、乾燥機能がついていればいいというものでもないだろうということに気づくことさえできなかった。あほすぎるのに、お尻を光らせることには成功してしまう若竹博士にあっけにとられていたのも仕方がない。
こうして、ウィルのお尻は赤く点滅するようになった。
今日は昼から、ウェンディとの初デートだというのに。
「まさに、恋路に赤信号点滅だよ……」
と、ウィルが言ったかどうかは今も定かではない。
(続く)
ノンプロット ゴーズ オン 夏日 純希 @kenberry0728
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ノンプロット ゴーズ オンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます