第8話森の世界とサラリーマン➆

 あれ、ここはどこだ? 目の前が真っ暗だ、まだ夜なのか?

 確か、リリアに謝って、それで、リリアと一緒に旅立つことを決めて、それから?

 そこからの記憶が全くない。

 勢いで旅に出るなんて言ってしまったが、早まったかな、熱くなりすぎて勢いで言ってしまった。まだなんだか体が熱い気がするし。今更なかったことにとかできないよな流石に。

 まぁ、でも、いいか。こんなチャンスは二度とないだろうし、きっと、これからは自分に正直に生きていける気がする。だってもう、社会のルールとか、常識とか、そんなものはないんだから、ポジティブに行こう、ポジティブに。少し落ち着きを取り戻し、俺は違和感に気づいた。体が、全く動かせないのだ。

 あれ? まさか、縛られてるのか?

 え? え? 何これ、どうゆうことだよ?

 急に、体の芯が冷たくなるような、そんな感覚に襲われた。額に冷汗がにじむ。いてもたってもいられず、闇雲に体をくねらせたが、手も、足も完全に縛られている、きっと俺は今、横たわった巨大なミノムシのような状態だろう。

 くねらせる度に、筋肉痛で体が痛かったが、じっとしてなんていられなかった。

 口には、さるぐつわのようなものがされているようで、叫ぼうにも、むーむーとうなる事しかできなかった。 


「お、やっとおきたみてぇだな。おーい、罪人が起きたぞ皆の衆!!」


 野太い声が聞こえた。

 罪人、という言葉が気になった。え、罪人って、もしかして、俺? 

 一層激しく、身をよじったが、きつく縛られた縄が自分の肉に食い込むばかりだった。


「むー! むー!!」

「黙ってろ。これから、尋問が始まる。なに、別に取って食おうってわけじゃないさ、ただな、尋問というからには、それなりに問い詰めることになるってのは、覚悟しておけよ? 亜人さんよ。」


 尋問!? なんだ尋問って!? 俺は、いったい何をされるんだ!? 覚悟しなきゃならない事なのか!?

 全身から汗が噴き出した、呼吸も荒くなる。畜生、こんなの拉致監禁でしかも傷害罪だぞって、そんな常識ここにはないんでした、そうでしたー!!

 パニックになりすぎて、考えがまとまらない。しかし、考えるんんだ、なぜんこんな状況になったのかを。

 俺の最後の記憶では、確か、リリアが泣き止むまで抱きしめていたはずだ。柔らかかったし、いい匂いがしたから、そりゃもうよく覚えている。って幼女相手に変態か!俺は!! 


「お、来たか。」


 野太い声の主がそう言った。確かに、思考に没頭していたせいで気が付かなかったが、大勢の足音が近づいてきていた。そして、一瞬足音が止まったかと思えば、ぎぃ、っと、扉の開く音が聞こえた。


「起きたかね。」

「はい、先ほど、起きましたよ。念のため、まださるぐつわと縄は、つけたままですがね。」


 この声は、村長だ!!

 そう気づいたとき、俺は、ひたすら助けを求める言葉を発したが、全て、うめき声に変わってしまった。


「リオ殿、まぁ落ち着きなさい。これからワシらは、リオ殿には今、ある疑いがかけられておる。」

「わんをうふぁふぁいふぁふぉ。」


 なんの疑いだよ。と、言ったつもりだったが、全く声にならなかった。しかし、村長は、俺の言葉を理解してくれたようだ。


「誘拐犯です。」

「ふぁ!?」


 誘拐!?なんだよ誘拐って、この状況、どう見ても俺が誘拐されてるよねこれ!? 


「とにかく、場所を移しましょうか。」

「むー!むぅー!」

「おい、大人しくしねぇか。」 


 俺は、どうやら、野太い声の男の肩に担がれたようだ。腹が圧迫されて、少し苦しい。大の大人を軽々と持ち上げられるのだから、こいつも村長と同じくらいのマッチョなのだろう。下手に機嫌を損ねて怒りの鉄拳を食らえばあっという間にお陀仏だ。ここは大人しくして様子を見よう、村長に話さえ聞いてもらえば大丈夫なはずだ、と心の中で必死に自分を安心させようとした。そして安心させる過程で気づいてしまったのだ、俺は、今、トイレに行きたいということに。

 運ばれ始めて数分、どうやら、今は、階段を下りているらしい。地下に、連れていかれるのか? 一体何をされるんだ? 誘拐犯って、一体なんのことなんだ? と、気を抜けば今にも漏らしそうだから、とにかく思考を巡らせていた。いや、逆にこいつの背中で盛大に漏らしてやろうかとも思ったが、仮に無事でいられたとき、俺の羞恥心が無事ではなくなるため、耐えることにした。むしろ、これから始まるであろう恐ろしい尋問より、この襲い来る尿意をどうしたらよいか、そのことの方が第一に考えるべき議題なのではないだろうか。生まれてこの方、公衆の面前で排泄行為など行ったことがない俺にとって、この状況は、さながら生まれたてのバンビが初めて大地に立ち上がるような、そんな状況ではないだろうか。いや、そんな感動的な物ではないな、フフッ。

 いい感じに、尿意から気をそらせそうだったが、野太い声の男の肩が、俺の腹に一際強い振動を与えた。


「ふぐぅぅぅ……。」

「なんだ、こいつ。急に大人しくなったと思ったら変な声出しやがって。もうすぐ着くから我慢しやがれ。」


 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。今のはまずかった、大丈夫か俺、漏れてないよね? パンツとか汗でびしょびしょすぎてよくわかんないんだけど。もうすぐっていつだよ! 早くしろよ! 早くしてくださいよー!

 扉を開ける音が聞こえた、そして俺は、無造作に降ろされ、椅子に座らされた。今回は、確実に少し漏れた。ああ、もう駄目だ、もう、終りだ。


「むぉー! むぉー! ふぉいれ! ふぉいれー!」

「おい、さるぐつわを外してやりなさい。」

「はい。」


 村長の言葉に野太い声が返事をした。そして、俺の後頭部の結び目をほどいた。


「トイレにいかせてくれぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!」



 さるぐつわが外れると同時に、俺は、叫んだ。

 自分の尿意に負けないように、ほとんど空っぽの体力を振り絞って、力の限り、喉を震わせた。

 俺は、寂しがっていたんだ、一人で漏らすことに。そして恐いんだ、漏らした後一人になることに。

 さっきまでの俺の気持ちは、今の俺の気持ちとほとんど同じだった、けど、唯一違うのは、自分が漏らしてしまってもしょうがないと思ってしまうほど、思い詰めていたことだ。

 でも、その考えは間違っている。自分が漏らせばいいなんて、そんなの誰も喜ばないはずだ。少なくとも、俺は、悲しむ。


「早く! もう、もう限界なんだああああ!!」

「急いで縄をほどくんじゃああ!!」


 俺の断末魔と村長の怒声にも似た叫び声が地下室にこだました。


                  ◇             ◇            ◇


「ふ~~~。」


 間に合った。

 石造りのトイレの前に立ち、俺は、全身の緊張が緩むのを感じた。


「おい、早くしねぇか。」


 野太い声の男がトイレの外で待機しているようだ。


「もう少し待ってくれよ。あんたも男ならわかるだろ? 我慢しすぎてキレが悪いんだよ。」

「汚ぇ奴だな。レオさんを待たせてんだ、さっさと済ませちまえ。」


 レオさん? ああそういえば村長の名前ってレオナルドだったっけ。すっかり忘れていた。


「ずいぶんと村長さんを慕ってるみたいだな。」

「当然だ、なんせあの方は、俺たちに筋肉の素晴らしさを教えてくださった神様みてぇな人だからな。俺の親父達の代から体を鍛えることの素晴らしさをみんなに教えたわけよ。電撃なんてちゃちなもんとは違う、鍛え抜かれた己の肉体こそ、美しさと強さを兼ね備えた究極の武器なのさ。」

「え……ここの人達はみんなそういう思想なのか?」

「全員じゃないが、まぁでも、ほとんどそうだな。女も子供もみんなトレーニングに励んでるぜ。」


 なんてことだ。リリアの言っていた通り、ここの人達みんな脳筋だった! 

 しかも、その原因が村長だったとは、しかし、それって種族として正しいのか? 


「電撃のトレーニングとかはしないのか?」

「そんなもんしねぇよ、せいぜい体に纏わせるくらいだ、しかもそんなのは練習しなくてもできる。」


 ああ、だから、リリアくらいしか電撃のコントロールができないのか。

 けど、みんなそんな思想なのに、どうしてリリアは電撃のコントロールができるんだ? それに特別体を鍛えているようにも見えなかったし。


「なあ、どうしてリリア……村長さんのお孫さんは電撃のコントロールができるんだ?」


 考えたって答えはでない。とりあえず聞いてみることにした。


「ああ? ああ、それはな、村長の息子さんが原因なんだ。」

「リリアの父親が? でも、たしかリリアがまだ小さい時にいなくなったんじゃ?」

「小さいって言っても、あの子が30歳の頃だぜ、物事の分別なら十分についてる頃だ。」


 あ、やっぱり、実際の年齢に合わせて精神年齢も成長するものなんだな。


「あの子の父親は、筋肉反対派だったんだ。」

「え。」


 てっきり、息子も筋肉崇拝主義かと思っていた。生卵とかごくごく飲んじゃうような感じの。


「あいつと俺は幼馴染でな、あいつとは……、ライアンとは、昔、よく一緒に森の中を探検したもんだ。」

「そうだったのか。」

「ああ。あいつも、昔は俺たちと一緒に体を鍛えてたのによ、急にこんなのはエルフのあるべき姿じゃない、電気の扱いを発展させるべきだー、とかなんとか言いだして、それからぱったりとトレーニングを辞めちまって、電撃の研究をだとかよくわからねぇ事をしだしたんだ。」

「村長とか、周りの人は止めなかったのか? 研究することを。」

「そりゃ止めたさ。けどな、あいつは一度心に決めたことは、意地でも曲げないやつだったからな。それにレオさんも温厚な人だから、あまり強く言ってなかったようだし。そんなだから、あんな病弱な嫁さんをもらうことになるんだ。」

「ああ、確かリリアの母親って……」


 病で、亡くなってしまったんだったか。


「そうだ、もっと丈夫な女を選ぶべきだったんだ、あいつならどんな女だって落せたのによ。頭はよかったかも知れんが、死んじまっちゃ、意味がねぇ。」

「なるほどな、そうして二人の間に生まれた子がリリアで、二人の教育のおかげでリリアは電撃のコントロールができるんだな。」


 そして、リリアは、この世界では異端なんだな。

 集団の思想と違う思想、違う常識を持った個人。

 そんなの、生きずらくて仕方がないだろうな。俺のいた世界だって似たような事はしょっちゅうあった。けど、あの世界は、様々な考えが認められる世界で、同じ考えを持った人たちで集まることも簡単だったし、違う思想の集団から離れることも簡単だった。

 しかし、この世界はどうだろう。

 こんな森ばかりの、限られたコミュニティの中では、そんな簡単に集団から離れられるわけがない。モンスターの出る森で、たった一人で生活することなんてできるはずないんだ。

 そうなる可能性もあったのに自分の考えを貫いた、リリアの父親はさぞ立派な人なのだろうが、俺は好きになれないな。

 そのせいで、リリアが、集団になじめなかったんだとしたら? 子供を親の勝手で振り回すなんて最低じゃないか!

 気づいたら俺は、手が震える程、拳を強く握っていた。

 あれ、なんで俺、こんなに熱くなってるんだ? 


「ま、そんなとこさ。……おいおい、どうしたんだそんなに怖い顔して。今度は腹でも痛いのか? もう、これ以上待てねぇぞ。」

「なぁ、最後に一つだけ教えてくれ。」

「あ? なんだよ?」

「リリアの父親が失踪した理由って、なんだ?」


 そう、ずっと心に引っかかってことだ。

 なぜ、病弱な妻と、独りぼっちの娘を置いてどこかに行ってしまったのだろうか。


「それは、誰にもわからねぇ。本当に突然いなくなっちまったんだ。ただ、あいつが、いなくなる前日に、妙な事があった。」

「妙な事?」

「ああ、女神様がこの世界にいたらしいんだよ、亜人が来てたわけでもねぇのに。」

「女神って、ミザリーか? 緑色の髪の。」

「名前まではわかんねぇけどよ、確か黒髪だったって話だぜ。まぁ、見たやつもほんの数人しかいないから、ほんとかどうかは知らねぇけどな。」


 間違いなく、リリアの父親、ライアンは、その女神から簡易転移の玄関ミニ・ポータルを受け取っているな。

 でも、どうして、なにも言わずに行ってしまったんだろう。

 言えない理由があったから?

 言えない理由って?

 そもそも、どうして他の世界に行く必要があったんだ?

 うーん、わからない事が多すぎる。


「おい! もう流石にまちきれねぇぞ! 行くぞ!」


 考え事をしている事などお構いなしに、野太い声の男は、俺の腕をがっと掴み、村長たちのいる広間まで引っ張っていった。


「痛い痛い! もうちょい優しく引っ張ってくれ!」


 ぽいっと、小枝のように俺は放り投げられた。

 当然、小枝なら痛みは感じないだろう、いや、感じていたとしても痛みを訴えることはしないだろうが、俺は訴える。大人げなかろうと、痛いもんは痛い。


「いってぇー。もう少し優しくしろよ、俺は、お前みたいに頑丈じゃないんだ。」

「そんな事しらん。体を消えろ。」


 野太い声の男はそういうと、いきなり上着を脱ぎだした。

 いや、この男だけではない、村長を含め、屈強な肉体をした男たちが全員半裸の状態で俺を囲んでいた。

 まさに、肉の壁というのがふさわしい光景が眼前に広がっており、その威圧感は凄まじいものだ。

 何故かみんな、ランニングでもしてきたのか、滝のように汗が流れていた。


「それでは、これからリオ殿の尋問を始める。リオ殿これから、あなたにひとつ、質問をします。正直に答えてくだされば、酷いようにはしませんぞ。」

「え……質問って、なんですか。」


 村長の目つきが鋭すぎてこえぇ。


「昨晩、ワシの家を破壊し、リリアを誘拐しましたな?」

「は?」

「5秒与えましょう、正直に答えてくだされ。5。」

「いや、え?」

「4……3……」

「いや、違う。違う違う! 俺じゃない! あれはリリアが飛び出していっただけであって……」

「嘘をつくな小童ああああ!!」


 村長の怒鳴り声に体がすくむ。


「皆の衆! この不届きものを囲めぃ!」

「「「オッス!!」」」


 村長の言葉が合図になったのか、俺を囲んでいた男たちが、突進してきた。


「ひぃっ!」


 次々と、男たちに抱きつかれていく。

 その厚く、熱い胸板が、俺の顔や体を強く強く抱きしめた。

 おしくらまんじゅうのような状態だ、かなりハードな。


「うああああああああ!」

「「「ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ。」」」


 むせかえる程の、男たちの熱気と汗の臭いの中で、俺は昨日見た星空を思い出していた。

 ああ、あの景色、もう一度見たかったな。今度は、きっと、感動できるだろうな。


「やめー!!」

「「「ウィーッス!」」」 

「はぁー、はぁー。」


 たっぷり3分ほど筋肉に圧迫され、俺の意識は飛びかけていた。

 こんな苦痛が、この世にあったなんて。


「リオ殿、嘘はいけませんぞ、嘘は。なんせ昨日の夜、森の中でリリアを抱きしめたまま寝ているリオ殿を発見したからの、あれは、連れ去っている途中に電撃で意識を失ったといったところでしょう。」

「ち……違う……。」

「まぁ確かに、それだけではなんの確証もありませぬ。むしろ、飛び出したリリアを追い掛けたとも見れる。」


 その通りだよ!なんだよ、気づいてるならこんな事やめてくれよ! と、心では全力で叫んだが、声に出すほどの気力がなかった。


「しかし、発見後家に連れ帰ったリリアに事情を問い詰めたところ……。」


『リリア、一体何があったんじゃ? 今回ばかりは、さすがに度が過ぎておるぞ。』

『……』

『リリア。』

『あいつの……せい。』


「と、顔を赤らめながら言ったんじゃああああああ!!」

「なんじゃそりゃああああ!?」 


 あまりにもわけのわからない理由のせいで、失われた気力が少し戻った。

 それと今の状況となんの関係があるんだよ!? 


「あれは、間違いなく何らかの辱めを受けた顔じゃった。」

「「「そうだ、そうだ、この変態野郎。」」」

「いやいや、流石にその解釈は飛躍しすぎじゃないか!?」


 あ、俺って実はツッコミ気質なのかな。


「黙れぃ! 孫娘のあんな顔を突然見せられたジジイの気持ちがわかるか!?」

「知るか!! それは、俺関係ないじゃねーか!!」

「ぬぅぅ、皆の衆第二ラウンドじゃぁ!!」

「やめろおおおおお!!」


 またしても、おしくらまんじゅうが始まった。

 さっきよりも男たちの熱気が高まっているせいか、中心の温度は軽く40度を超えていそうだ。


「うあああああああ!!」

「孫娘に何をしたぁぁ!! この変態ぇぇ!!!」

「「「ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ!」」」

「何もしてねぇぇ!!」


 5分ほどたってから、ようやく解放された。


「ぜぇ……ぜぇ……」

「ふん、まだ自分の罪を認めぬというのか。」

「ち……ちが……」

「リリアのあの顔を見た瞬間、ワシは気づいたのだ、やはり、ワシは孫娘を愛していると。そして、今後、わしらの力によって、筋肉の良さを再教育するのだと!」

「「「そうだそうだ! 筋肉バンザイ! 筋肉バンザイ!」」」

「なにより、リリアがワシ以外好きになっちゃうとか、許せんのじゃぁぁ!! いつまでもおじいちゃん大好きっていわせるんじゃぁぁ!!」


 逆恨みじゃねーか!! と、心の中でツッコミを入れた。

 そして同時に、リリアは俺と、旅に出るんだ、と言いたかったが、声を出すことなど、できなかった。


「そもそも、リリアちゃんは俺たちのアイドルなんだ、それをどこの馬の骨とも知れん奴がちょっかい出しやがって!」

「「「そうだ、そうだ!」」」


 頭にバンダナを巻いたマッチョが叫んだ。

 あ、なんだ、リリアって嫌われていたわけじゃないんだ、良かった。

 この状況は、微塵もよくないけど。


「ぬおおお、もはやこの怒り、何かにぶつける他ないわ!!! 皆の衆! 第三ラウンドじゃああ!!!」

「「「うおおお、オッス!!」」」


 いかん、もはや、身構える体力すら残っていない。

 きっと俺は、次の波に耐え切れないだろう。

 すまないリリア、お前を、外の世界に連れ出してあげられなくて。


「やめてー!!」


 可愛らしい声が聞こえた。

 その声は、男たちの野太い声の中で、一際美しく聞こえた。


「リ……リア。」

「リリア! 何故ここに来た! 来るなと言っておいたはずじゃ!」


 村長の怒声にも怯むことなく、リリアは、男たちの輪に向かっていった。

 リリアがキッと男達を睨むと、さっと道を開け、そして、俺の目の前で両手を広げ、村長と対峙した。


「これ以上、リオにひどい事しないで! リオは、悪い事なんて何もしてない!!」

「リリア、しかし。」

「しかしも何もないでしょ! どうしてこんなにひどい事するの!?」


 リリアは、倒れた俺の顔を抱きしめた。

 心地よい柔らかさが、俺の顔を包む。ああ、筋肉じゃない。


「リリアが、こやつに何かされたと思ったんじゃが……」

「何もされてない、むしろ……むしろ私はリオに救われた!」


 リリアは、じっと、村長の目を睨みつけた。


「ふっ、孫娘のこんなまっすぐな言葉、久しぶりに聞いたわい。どうやら、ワシらの誤解だったようじゃな。」


 村長はそういうを、頭を深々と下げた。 


「リオ殿、申し訳なかった。」

「「「ごめんなさい!!」」」


 村長と、男達が一斉に頭を下げ謝罪した。

 もう、今となってはどうでもいい、とりあえず、風呂に入って丹念に体を洗って、ゆっくりと眠らせて欲しい。

 体が熱くて仕方がない。


「リオ、良かったね。誤解が解けて。」


 ああ、本当に良かった。ありがとうリリア、お前のおかげだよ。

 でもなんでだろ、声が出せない、なんだか目もぼやけているような。


「リオ? どうしたの? ……ひどい熱! おじいちゃん!」

「なんと! 急いで薬とベッドを用意するんじゃ!」


 そういえば、リリアのやつ、俺の事を名前で呼んでくれてるな。

 やっと、認めてくれたのかな。

 良かった。

 これから、よろしくな、リリア。

 そして俺は、またしても意識を失った。

 これで、四日連続だった。

 

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ナグラリア~in search of the Safe Haven~ @bowbow777

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