寄り道3

朝が涼しくなり、夏の終わりが感じられるようになってきた9月上旬。

ベット脇の窓から入り込む風にひやっとさせられ、ぼくは目を覚ました。

寝苦しかった夏の日が嘘のようなさわやかな目覚めであった。

それにしても、涼しい風が吹く中、薄い布団に包まれることのなんと幸せなことよ。

プール上がりの心地よい気分に匹敵するであろう。

もうひと眠りしようと孝は目をつむりかけた、その時。


「こーううう!おーきろー!!」


来た。

来てしまった。


べりっと音がしそうなくらい勢いよく布団が俺から引きはがされた。


「沙智ーおまえ今日何曜日か知ってる?」

「うん!土曜日!」

「ちなみに今何時?」

「時刻は今、6時を指していま〜す!」

朝からなんてハイテンションだ。

「寝る」

「あぁ〜やだ、待って!」

再び寝ようとする俺の布団を沙智が必死に引っ張る。

仕方なく寝るのを諦めてやる。


沙智はベットの端に腰掛け、顔を覗き込んできた。


「ねえ、孝は将来何になりたいの?」


ああそういう事か。

察するに、昨日配られた進路調査が原因のようだ。

「ふーん、お前でも悩んだりするんだ。」

冷やかしてやると、沙智 少し慌てた様子を見せた。

「あ、当たり前でしょ。大事なことだし…!」

「…それに一緒の高校行きたいし…」

何やら最後の方はごにょごにょと聞こえづらくなってしまった。


「ふーん?昨日も帰ってすぐゲーム始めた誰かさんが、ね?」

「んぐ…」

効果はバツグンなようだ。


「俺の夢は昔となんも変わらんぞ。知ってるだろ?」

「そっか…じゃあ、進路はやっぱ桜庭高校…?」

桜庭高校とは、俺と沙智の家がある住宅地を抜けて真っ直ぐ行った所にある県内屈指の進学校である。


「まあ、そうなるな。お前は?」

「ううう…私も…」

「は?」

勉強苦手の沙智からするとなかなか厳しい高校のはずだ。


「沙智こそ、将来何したいんだよ。」


少し笑って沙智は、ひみつとささやいた。






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散歩道 乃莉麻木 @mmts630

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