第4歩

-それからはどうしたのか、私は覚えてない。

だが、気付いたら私は-私たちは帰途についていて、孝の後ろを歩いていた。いや、浮かんでいたというべきなのだろうか?


孝は私の死をどう受け止めたのだろうか。少しは寂しがってくれてたら嬉しいな。それよりも、私は今、魂だけの状態なのだろうか。本体はどこにあるのかな、やっぱり焼かれてしまったのかな。

まるで他人事のように雑念を頭を駆け巡る。


孝の後ろ姿は私に何も語りかけてこない。いつもなら、あの隣には私がいたのに。


と、孝が立ち止まった。

何か見覚えのある場所だ。ここって…


ピンポーン

インターホンを押す孝の指の先には"西川"の表札。


「はーい、どちらさまですか…って、あら、こーちゃん」

お母さんが出てきた。

「どうぞ、入って。」

お母さんはとても疲れた様子だった。私が死んで悲しい思いをさせてしまったのだろう。


孝に続いて玄関を抜けて居間に入る。孝はソファに腰掛けるようお母さんに促された。思わず私もその隣に座ろうとするが、ソファについた手が物をすり抜けてしまい、勢い余って後ろに転がる。


あぁ、私、死んじゃったんだった。


お母さんは氷のたくさん入った麦茶を差し出しつつ、孝の向かいに座った。

「ごめんね、わざわざ来てもらっちゃって。」

母がやはり疲れた様子で言う。

2人は、陰りそうになる表情を無理やり明るくしてぎこちなく会話を始めた。


聞くところによると、私は事故に遭った後散歩に出ていた老夫婦に発見され、病院に運ばれたようだ。

しかし、病院についた頃には私の息の根は絶え絶えで、医師による処置を受けたる前に私は命の火を消したそうだ。

お母さんはいつの間にかその目に涙を浮かべていた。

「昨日、あの子の部屋に入ったの。絶対入るなって言われてたのにね。そしたら机の上のノートに気づいたの。思わず読んじゃって…どうしても孝くんに持っていてもらいたくなったのよ…」

母は孝に見覚えのあるノートを差し出す。


あ、あれは……!!私の日記帳…!

と言っても、気が向いた時にしか書かないから毎日書いてないので日記帳と言えるのかどうか定かでないが。


「どうか、少しでも読んであげてほしいの。お願い…孝くんだけはあの子のこと、忘れないでいてあげて…」


遂にお母さんは嗚咽をあげて泣き出してしまった。

私の事故のことでずっと気を張っていたのが和らいで、涙腺もゆるゆるになってしまっていたのだろう。


いつも仕事終わりでイライラしていて冷たかったのが嘘のようだ。

背中を丸めて嗚咽するお母さんは小さく、今にも壊れてしまいそうに見えた。


…私、こんなに愛されていたんだ


孝は慌てて母の背中をさすり、落ち着くまで様子を見てくれた。


何も出来ない私の代わりに。


事故の日の朝、あれが母との最後の会話となるとは想像もしなかった。

じんわりと目頭が熱くなった。

すごく悔しい。


-もう少し話せることもあったでしょ


お母さんをなだめてくれる孝の優しさが身に染みて嬉しく感じられる反面、すごく羨ましく感じられた―

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