おままごと
「ララちゃん、だめでちゅよ~。おのこししちゃあ。せっかくおかあさんがつくったんでちゅからね~」
三歳くらいの女の子が赤ちゃんのお人形を抱いておままごとをしていた。
女の子の役はママらしい。
わたしは二階のベランダからその様子を見て微笑んだ。
あの子はここ最近引っ越ししてきた女の子で、昼間はいつもマンション内の公園にいた。
砂場で一人、おもちゃの食器にご飯やおかずに見立てた砂や雑草を入れておとなしくおままごとをして遊んでいる。
お誕生日か何かでままごと人形をプレゼントしてもらったのかしら。お利口でいい子だもの。パパもママもこの子の将来が楽しみよね。
女の子はさっきからおもちゃのスプーンで、水で溶いたどろどろの砂を人形の口に一生懸命入れていた。
だが、人形が食べるはずもなく、顔が泥にまみれ汚れている。
あらあら、せっかく買ってもらったお人形なのに。
あれぐらいの子は物を大切にするということがまだわからないのね。
でもやっぱり子供は女の子がいいわね。あんなにかわいい遊びをするんですもの。わたしがママだったらご飯が食べられる人形買ってあげるのに。それで一緒におままごとするの。
結婚して三年経つがわたしにはまだ赤ちゃんが授からなかった。少し焦る気持ちもあるが、気長に待とうと思っている。
でも、あんなにかわいい女の子を見ると早く欲しくなってくる。
「もうっ、こぼしたりしてっ、ララちゃんはいけないこでちゅね」
女の子は怒って人形をめちゃくちゃに揺すり始めた。
あらあら、意外と乱暴なのね。
「いうこときかないこはこうでちゅよ」
女の子は人形をびたんと地面に落とした。持ち上げては落としを何度も何度も繰り返す。しまいには蹴ったり踏んだりし始めた。
あまりのひどさに、この子自身が親からこんな乱暴を受けているのかもしれないと不安になってくる。
さらに人形が育児練習用のリアルなものにも見えてきた。
そんなかわいくない人形、小さな女の子に買い与えないよね?
砂にまみれた人形の顔が血で濡れているようにも見え始め――
「いやあぁぁぁ。あんた何やってんのぉぉぉ」
突然金切り声が聞こえ、女の子の母親が倒けつ転びつ走ってきた。
砂場に倒れ込むように膝をつくと半ば砂に埋まった人形を抱き上げる。
その時はっきりと顔が見えた。人形は本物の赤ちゃんだった。青白くぐったりして、とても生きているようには見えない。
女の子はぷんとふくれっ面で、一体何が悪いのかという顔で母親を見上げていた。
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