金色の民

@zzzuke

第1話「勤勉少年の悔い」

 僕の青春は図書館にあった。いや、この高校では「自反室」と呼ぶんだっけか。

勉強スペースと読書スペースが一体化し、巨大な図書館のような作りになっている。

その一部に「自反室」という自習スペースがある。流石、清峰高校といったところか。そして、その隅で僕は一人黙々と勉強に励んでいる。


 僕の青春は自反室にあった。この「自反」は校是の「自反而縮 雖千萬人 吾往矣」から由来しているのだろう。自分で自分を振り返ってみて、なにもやましいところが見当たらなければ、相手が千万人いたとしても立ち向かっていけ、という意味の孟子の言葉だ。吉田松陰もこの言葉を格言としている、有名な漢文の一節だ。


しかし、誰の人生に於いてもやましい部分や反省するべき点はあるものだ。自反した結果、我が人生に一片の恥なしと言えるのであれば、その者の人生は酷く薄いものであるか。単に文字通りの「恥知らず」、厚顔無恥な性格なだけだろう。


そんなことを考えながら、自反室にて、自らの歩みも自反してみると、あらゆる過去が目の前に立ち現われてくる。思い返してみれば、僕は入学してからこれまで、ひたすら勉学に打ち込んできた。


そう、この「自反室」で。自反室から見える窓先の庭では、ソフトテニス部が日々練習に打ち込んでいる。時に僕は、「そんなコトをしていても、大学に合格するための、何の足しにもなるまい」と自らに言い聞かせ、更なる勤勉努力・質実剛健に努めてきた。他の生徒諸君も、多種多様な部活に所属し、各々の青春に放課後を費やしてきた。


その中で僕はといえば、自反室皆勤賞。「自反室の主」と自他ともに呼ばれる存在となっていた。お陰で勉学の成績に頭を悩ませたことはない。日々の努力の賜物であろう。こんな私に悔いは無い。無いはずなのだ。だがしかし。何故であろうか今。


第二学年の4月。僕は自反室にて「自反室の主」たる僕を非常に非常に後悔したくなっていたのだった。

 

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