第24話

「ッ!」


鋭い音がして身体ごと蹴り飛ばされる。

青龍はすぐさま体勢を立て直し、武器を構える。

あの神社で目の当たりにした時と力量は変わらないどころか、増しているように感じる。


自我を失った彼はあの上品な立ち回りに加え、力技も織り交ぜてきているのか。


以前の面影が微塵も見られない。

あの気品に満ち溢れた金色の瞳は、獲物を狙う獣の目に変貌している。


朧は地を蹴ると一瞬で青龍の目の前まで間合いを詰めてくる。


「朧・・・!お前は、妖の光だろう!」

激しい連撃をかわしつつ、青龍は応戦する。

刃がぶつかり合い、火花が散った。


「妖を救えるのはお前だけだ。そうだろ!?」

瞬間、朧の瞳に僅かだが動揺が見えた。

すかさず武器を翻し、柄で朧の鳩尾を突く。


「ぐ・・・ッ」


朧は砂煙と共に地面に転がる。

青龍はすぐさま刃を向けるが、

朧はびくともしない。


「・・・・・・」



「・・・ククッ」

突如巻き起こった吹雪と共に、無数の鋭い氷の刃が飛んでくる。

「!くそっ」


なんとか腕で庇うが、数カ所切れたのかもしれない。

しかし、吹雪で感覚の麻痺した肌は痛みを感じない。


それどころか、体を動かすことすら難しい。


(しまった・・・!)


ここまでかと覚悟を決めた時、背後から一陣の南風が吹き込み、刃を消し始めた。

振り向くとそこには以前庭先で見た少女が淡い光に包まれ立っていた。


辺りが段々と暖かくなり、身体の感覚も戻ってくる。



「ちっ・・・姉さんか・・・相変わらず、優しいんだね」


叢雲の気配が消えると同時に、少女が朧へと歩み寄っていく。

警戒する朧の前へ跪き、頬へそっと両手を添えると、僅かに朧の瞳に光が戻り、若干の苦しそうな表情はあるものの、ゆっくりと口を開いた。


「・・・・・・貴様、もしや・・・」

「はい、朧尊様。私は恋歌、叢雲の姉です」

少女は亜麻色の髪を揺らし、丁寧に頭を下げた。


「朧は・・・呪いが解けたのか?」

「・・・あの子の強力な呪いは解けません。勝手ながら、一時的に効力を弱めさせていただきました」

「・・・感謝する、恋歌よ」


恋歌は頷くと、立ち上がって俺達をゆっくりと見回した。

「・・・朧尊様、四神の南様。どうか、あの子を・・・叢雲を止めてください。もう私では、どうにもならないのです。あの子は私のために、手の届かない所へ行ってしまった・・・現世に生み出された、私の写身を追って・・・」

「丙のことか」

「あの子は・・・丙というのですか」

「なあ・・・教えてくれ。丙は何故生まれたんだ。お前たち姉弟に、何があったんだ」


恋歌は辛そうに顔を背ける。

が、しばらくしてまた俺に向き直った。


「・・・そうですね、お願いしておきながら、事情も話さぬなど、失礼なことはできません」

「・・・」

「聞いて頂けますか。私とあの子の、この村の悲劇を・・・」

「ああ」


すると暖かい風と共に、辺りが光に包まれた。




(続)

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四神 燈想 @spica_alt

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