【第24回】Liam Stewart - Unhappy Life -

タイトル:Liam Stewart - Unhappy Life -

発売日:2084/12/10

発売元:Liam Stewart


世界のあらゆる低評価なゲームをレビューしていくレビューサイト「The video game with no name」、第二十四回目となる今回は、2084年発売、ゲームに一生を捧げた男「Liam Stewart - Unhappy Life -」の紹介です。


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参りました。身体の震えが、止まらなくなってしまって。


ゲームを遊んでいたら、突然ですよ。急に指が動かなくなったと思ったら、全身がガタガタ震えだして。勝てるはずだったゲームは見事に逆転負け。それまでが一方的な展開だったこともあって、調子に乗った相手からは罵倒が山ほど送られてきました。たかがゲームに熱くなって…。ご丁寧に、記憶データ形式で送信してくるんですもん。「もうゲームを遊ばない方が良いと思うよ」、だ、そうで。悪意の残響がズキズキと、今も脳内にリフレインしています。


ゲームを遊んでいれば、馬鹿にされるなんて珍しい話でもありません。とかくゲーマーってのは、相手を屈服させたがる人種ですからね。貧乏人に引きこもり、童貞、機械、クソジジイ。ゴミ・クズ・カスに社会のお荷物、猿にジャップに工作員。こちらがアジア人だと分かったら、ブッダがファックされている映像を送り付けてきた奴もいましたか。今となってはどれも良い思い出ですが…、歳をとってから、どうも心が弱くなってしまって。悪意に晒されると、たまに頭痛が止まらなくなるんですよ。


今回は煽りは…、いくらなんでも酷過ぎる。頭痛もさっきから全然止まりません。罵倒されるならいざ知らず、まさかゲームをやめろと言われるだなんて。流石にそれは、酷過ぎるじゃありませんか。貧乏人に引きこもり、童貞、機械、クソジジイ。現実がどれだけ酷くても楽めるのがゲームだと、同じゲーマーなら分かっているはずなのに。そんな場所から、お友達を追い出そうとするだなんて。病気で震えているのか、怒りで震えているのか、最早それさえ分からなくなってきました。


あー…、痛い、頭が。嫌な記憶ばかりが蘇ってきますよ、本当。


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身体が震えて動かなくなるというのは、脳停止によくある病状の一つなんです。脳が急激に衰えていくせいで、サイバネティクスとうまく連携が取れなくなるんですよ。前にも同じような事はありましたし、パーツさえ再調整すればすぐに震えは収まるんですが…。今回はちょっと、時期が悪い。なにせ世の中はもう年末じゃありませんか。世の人々は忙しくしているわけで、寂しい年寄りのゲームライフなんかに構ってくれるわけがありません。最悪、年明けまでパーツの再調整は難しいでしょう。


悔しくて仕方がありませんが…、現実は、煽った野郎の言う通りになってしまいました。あー痛い、頭が痛い。こんな身体じゃ復讐はおろか、満足にゲームを遊ぶ事さえ出来やしない。私は今、ゲームを遊ばない方が良い身体なんです。病気なんだから、大人しく寝ていた方が良いに決まってる。「もうゲームなんか遊べる身体じゃないんじゃないですか~?」と、何も知らない他人から小馬鹿にされていると言うのに…!悔しいかな、まったく反論が浮かんできやしない。


今はベッドで横になって、昔遊んだゲームの記憶を脳にインストールすることで、なんとか暇を潰しています。ああクソ!全ては奴の言う通りなってしまった!哀れも哀れ、不幸な人生ですよ。身体はゲームが遊べないのに、脳はいまだにゲームを遊ぶことに執着していて!ゲームを遊んだ記憶を思い出して、現実の自分を誤魔化しているというんですから!実物のゲームを遊びもせずに、ゲームを遊んだような気に浸るのは馬鹿げていると。私はかつて、そう思っていたはずなんですがね。


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ゲームを遊んだ記憶を保存するのは、私の悪い癖でして。記憶データを管理する商売が始まったのは、侵襲式BMIの普及と同じくらいだったと思うので…、大体2080年代前半くらいからだと思います。もう、かれこれ40年ですか。40年もの記憶データを、私は保存してきたことになる。当時は何の意識もありませんでしたが…、今から思うと、心のどこか奥底で。ちょうど今日のように、いつかゲームが遊べなくなる日が来ることに、私は、怯えているのかもしれません。


記憶の中にあるゲームは、本物のゲームとは全く違う。それは自分でもよく分かっているはずなんですが、そうとは分かっていても、なんとなく、記憶の保存を止めることが出来ずにいるんです。ホラ、古いゲームはドンドン壊れていくじゃありませんか。何かゲームが壊れるたびに、そのゲームを遊んだ時の記憶を脳にインストールして、本当に遊んだような気分に浸ろうとして…。結局、「本物の体験に比べたら、記憶は色褪せて見えるよなぁ…」と、落胆してしまう。


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人間の記憶は、楽しさを正確に保存しておけるようなデータフォーマットではないんです。実際に遊んでみたゲームに、記憶の中のゲームは絶対敵わない。例えば、今日紹介しようと思っていたゲームなんかがその代表例ですよ。なにせこのゲーム、プレイ体験を記憶に残すことすら出来ませんからね。これはなかなか珍しい形式のゲームでして、単純にゲームって言うよりかは、データフォーマットとしては「記憶」そのものと言った方がいいのかもしれませんが。


このゲームのタイトル…「Liam Stewart」は、そもそも実在した男性の名前でしてね。このゲームはゲームというより、そのLiam Stewartの一生分の記憶データを、ゲームとして成り立つように編集しているだけのデータなんです。ゲームの発売日は2084/12/10。Liamの誕生日は…2014/12/25だったと思いますので、ちょうど70年分の人生にあたる記憶、ということ。私は本作をクリスマスセールの70%オフで買いましたけど、だいたい…350ドルくらいの人生でしたね。


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Liam Stewart


2014/12/25、アメリカ合衆国ミシガン州フリント生まれ。好きなものはゲーム、嫌いなものは孤独。口数は多いが性格は内向的。長所は他人に甘いところ、短所は自分にも甘いところ。スクールカーストは最下位で、モテない冴えない出来損ない。貧乏人に引きこもり、童貞、機械、クソジジイ。ゴミ・クズ・カスに社会のお荷物。豚にトラッシュにトロール野郎。長く生きてはいるけれど、何かを生み出せたわけでもない。まぁ、一言で言えば、どこにでもいる駄目な男でした。


彼の幼い頃からの夢は、ゲームクリエイターになることでした。駄目人間だった彼が唯一人に誇れるところがあったとすれば、それはとってもとってもゲームが好きだったという事で。彼はその生涯を通して、夢や希望にあふれたゲームが大好きで仕方がありませんでした。彼はいつしか「自分もゲームを作る側の人間になりたい!」という夢を抱くようになったのですが、残念ながら、彼はゲームクリエイターにはなれませんでした。ハッキリ言えば、才能が無かったのです。


賢くなければ体力もない、社会性もなければ金もない。ないない尽くしの彼の人生にとって、ゲームクリエイターになることは、決して手の届かない夢の職業でした。楽しいゲームを遊んでは、いつかは自分もこんなゲームを作ろうと夢見て。夢を見ていただけで、結局特に何もせず。ただただ毎日ゲームだけを遊んで過ごして。そうこうしている内に、あっという間に70年の時が経ち。気付いた時には、生涯ゲームを遊んでいただけの、孤独な老人になり果てていました。


全てを持たない若者が、ついには若さまでをも失った。もうここまでくれば、ゲームクリエイターになることなんか夢のまた夢。彼もようやく大人しく、消費者として死ぬ人生に甘んじるだろう…と、思っていたのですが。残念ながら彼は、夢のゲームクリエイターになることを、この歳になってもまだ諦めていませんでした。どうしても自分は、ゲームを作って他人に楽しんでもらいたい。彼には最後に一つだけ、ゲームを作るために利用出来る財産が残っていたのです。


自分の、記憶ですよ。


記憶データの売買がはじまった2080年代前半は、まだ「記憶を売る」という行為への抵抗が社会に色濃く残っていた時代でした。この当時は「記憶を売ると脳から記憶が無くなってしまう」みたいな誤解がまかり通っていたので、幸せな人生を送ってきた人々に限って、記憶を売ることを怖がったんですよ。一方の彼は既に70歳、これから脳は衰えていくばかり。彼にとって記憶とは、大事にしたところですぐに呆けて無くなってしまう財産でしかありませんでした。


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唯一の知人から金を借り、記憶編集ソフトを購入した彼は、自らの一生分の記憶を「ゲーム」にするための編集作業にかかりました。とは言え、彼はゲーム開発に関しても記憶編集に関してもズブの素人でしたから、出来上がった記憶データは…まぁそれは酷い出来栄えで。記憶と記憶を手作業でくっつけ、思い出を継ぎ接ぎにしているだけ。バグった記憶の塊で、最初に脳にインストールした時は…、私も、しばらく頭痛にうなされた記憶があります。


しかしいくらバグった記憶の塊であったとしても…、彼にとってそのデータは、夢にまで見た「自分が開発したゲーム」で、「自分の人生の思い出」そのものでした。自分が開発したゲームも、自分の人生の思い出も。人間、どちらも贔屓目に見てしまうものじゃありませんか。何百回ものテストプレーを経て、自分の人生の出来栄えに改めて満足した彼は、「私の幸福な人生の記憶を販売します」と銘打って、自分の人生を350ドルで販売し始めたのです。


無名の素人開発者のゲームとは言え、当時は少しばかり話題になったような覚えがあります。なにせ70年分の記憶が350ドル、今考えてもめちゃめちゃ安い。採算度外視、記憶のダンピングですよ。一年を5ドルで売るほど人生を安売りした人間は、いまだかつて見たことがありません。その上彼は生まれも育ちもアメリカ人。裕福な国の人間から「私の幸福な人生の記憶を販売します」と自信満々に言われて…、興味を抱かない人間はいませんでした。


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Liam Stewartの遊び方は、非常に複雑です。「遊ぶ」という意識を止めて、「思い出す」ことに専念しなくてはいけないからです。


まず最初に本作を脳にインストールすると、Liamが自分の記憶をデータ化する寸前の記憶を、思い出すことが出来るでしょう。思い出す限り…、部屋は散らかり放題散らかっていて、とにかく、小汚いところに彼は住んでいました。口の中には人工肉のケミカルな味がこびりついていて、身体中に成人病予防のナノマシンデバイスがついていたような覚えもあります。体格は…デブ。それも貧乏で不健康なタイプのデブで、お世辞にも、清潔感は無かったはずです。


しかし当の本人は荒れ果てた生活は気にもしておらず、ゲームクリエイターになれる事に心底喜んでいたようでした。思い出すだけでも顔がニヤついてしまうような記憶ですから、それは間違い無いと思います。とは言え、お金も無ければ家族もいない、健康でもなければ若くもない。そんな孤独な老人が、今更ゲームクリエイターになりたがったのは非常に不思議な話で…。プレイヤーの皆さんには、彼の行動がさっぱり理解が出来ないかもしれません。


そこで、Liam Stewartの人生に少しでも興味がわいた皆さんは、ちょっと意識を集中してみてください。何故彼はここまで孤独なのか、何故彼はここまで貧乏なのか、何故彼はここまで不健康なのか。おそらく皆さんは…、すぐにその理由を「思い出す」ことが出来るでしょう。人生を後悔していると、その原因となった過去を勝手に思い出してしまう事があるでしょう? このゲームは、そんな人間の習性を逆手にとって、人生を振り返る事で謎解きをさせようってゲームなんですよ。


「Liam Stewart」というゲームは、人生の追憶です。Liam Stewartという男の記憶を辿り、思い出を過去にさかのぼっていき、「なぜ彼がゲームクリエイターになりたがったのか」の答えを探すアドベンチャーゲーム…とでも言えばいいんでしょうか。もちろん、人生なんて説明がつかない事ばかりですから、全ての記憶を振り返ったところで、人生の全てに答えが出るってわけでもないのですが。まぁ、アドベンチャーゲームには、謎が残るのがお決まりですから。


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見ず知らずの男の人生にプレイヤーが興味を持てるかどうかは…横に置いておくとしても。「思い出す」というゲームシステムが面白いのは、間違いありません。先ほど私は「意識を集中してみてください」と言いましたが、意識を集中するだけでは…忘れた記憶はなかなか思い出せませんよね? 忘れた記憶を思い出すには、意識を集中する、プラス、思い出すキッカケを自分で作る必要がある。それこそが、このゲームの攻略法なんです。


ゲームをはじめて最初に気になるのは…、例えば、「何故Liamの部屋は薄暗いのか」なんていかがですか。これはちょっと頭をひねれば理由が思い出せるので、試しにご自身の部屋を薄暗くしてみてください。ネタバレになってしまいますけど、カーテンを閉めてみるのはいかがですか。…どうです? 窓の外で、誰かが笑っていた記憶を思い出したでしょう? ズバリ、正解です。彼は近所の人の目が嫌だったから、カーテンを閉め切っていたんですよ!


部屋にジャンクフードのゴミが散乱していた記憶も、実際にジャンクフードを食べてみると簡単に理由が思い出せますよ。いやむしろ、自分で料理を作ってみた方が思い出しやすいかな。自炊した料理を食べると、それが不衛生な感じがして…、吐き気を催した記憶が蘇ってくるでしょう? ゴミを手がかかりに記憶を辿るのも面白いかもしれません。ゴミを集中して見ていると…、幼い日の彼がゴミだらけの部屋に住んでいた過去まで、記憶が遡れますからね。


彼が不健康な理由は多岐にわたりますが…。もう何を見たって記憶は溢れてくるでしょうから、初めての方も心配しなくて大丈夫ですよ。空を見れば同級生にいじめられた思い出が、海を見れば女から激しく嫌がられた思い出が、大地を見れば人に騙されて泣いた思い出が鮮明によみがえり。彼の不健康なライフスタイルの謎は、あっという間に解かれてしまうことでしょう。そこまでいけば、ようやくチュートリアルが終わったくらいですね。


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このゲームが低評価になった理由は、一つしかありません。

「不幸な人生を幸福な人生と称して売るのは詐欺だ」と、みんなが怒ったからです。


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今も昔も人間が求めるのは、幸福ですよ。Liam Stewartの一生だって、「幸福な人生」だと称されていたから、みんな350ドルも出して購入したんです。しかし当のLiamが誇りに思っていた「幸福な人生」と、プレイヤーが想像していた「幸福な人生」は、残念ながら、同じものではありませんでした。Liamは自らの人生を幸福な人生だと思っていたようですが…、彼の記憶を買った人達からすれば、ゴミ同然の記憶を掴まされたようなものでした。


Liam Stewartの人生は、お世辞にも華やかなものではありません。分かりやすく言えば、貧乏人に引きこもり、童貞、機械、クソジジイ。ゴミ・クズ・カスに社会のお荷物。豚にトラッシュにトロール野郎。幸せな記憶だと思って彼の記憶を買った人間の大半は、孤独にゲームだけ遊んでいるだけの彼の人生に、衝撃を覚えました。こんな不幸な人生をよくもまぁ、幸福な人生と嘘をついて売りやがったなと。人々は、烈火のごとく怒り始めたんです。


彼の記憶を買った人々が、彼の記憶に一体何を期待していたかって…。それは幸福ですよ。幸福とは、裕福だったり、人から愛されていたり。往々にしてそういう時に用いられる言葉ですから。裕福な暮らしを追憶できると期待していた貧乏人は、「貧乏人が人生を幸せとか見栄をはるんじゃねーよ!」と怒り狂いましたし。人からの愛を追憶したいと願っていた童貞は、「童貞が人生を幸せとか嘘つくんじゃねーよ!」と怒り狂いました。


とは言え、Liamの人生が劇的に不幸だったかと言われると…、ありふれた不幸な人生にすぎませんでしたから。ゲームとして面白いかと言っても、そこに大した目新しさがあるわけでもなく。Liamの人生に対して、「ゲームでお涙頂戴物をやるのなら、せめて餓死してからにしろよ」とか、「電子ドラッグ漬けで人殺しとか、そのレベルの貧困でないとゲームとして楽しめない」とか。彼の人生の味気なさに、ゲームとして怒っている人々も少なくはありませんでしたね。


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彼の人生は、面白く無さ過ぎたんです。


まず第一に、人生のどこにも盛り上がりどころがない。両親が離婚して父親に引き取られた幼い彼は、家で孤独にジャンクフードを食べて育ちました。結局、楽しい記憶はゲームを遊んでいた記憶くらい。学校に入るといじめが始まり、スクールカーストが上の連中からいいようにこき使われて。ゲームを貸してあげるつもりで何本も盗まれて。結局、楽しい記憶はゲームを遊んでいた記憶くらい。行きたくもなかった大学は、居心地が悪くなって中退しました。


社会に出ても相変わらずで、失敗を押し付けられては自主退職を繰り返し、振り返って楽しいような記憶は特に無し。ゲームとしての本作は、「なぜ彼がゲームクリエイターという夢を追いかけたのか」を謎解くゲームとして販売されていましたが…。病気、貧乏、孤独、抑圧。探せば探すほど、不幸な人生の原因となった悲しいトラウマが見つかるばかりで。謎を解くというよりは…、ひたすら、人生の言い訳を聞かされているようなゲームでした。


そして第二に、Liam Stewartは親しみやすいゲームキャラクターでもなかった。彼は人生で数多くの女性に恋をしたのですが…、その時の彼の行動が、まぁどれもこれも、みっともない。彼の記憶を思い出している間は、一人前のラブストーリーにも感じられるのですが。一度彼の記憶から意識が離れてしまうと…、もう、駄目なんです。客観的に彼の行動が理解できてしまって。その行動の寒々しさに、身の毛がよだって仕方が無くなるんですよ。


毎日のように意中の女性のSNSを確認しては、彼女の好きなゲームを自分も好きなフリをする。彼の記憶を思い出しているときは…、それは淡い恋心の様にも感じられるのですが。冷静になって考えてみれば、こんな下手くそなすり寄り方もありませんからね。意中の女性に強引に近寄っては、好きなゲームの話を一方的にまくしたてる。彼の記憶を思い出しているときは…、それは熱い恋心の様にも感じられるのですが。冷静になって考えてみれば、こんなの迷惑行為に過ぎませんからね。


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そして第三に…、彼の記憶を脳にインストールしてしまうと、時々無意識のうちに、彼の記憶を思い出してしまうことがあるんですよ。道路を眺めれば、喧嘩に負けて這いつくばった記憶を。ビルを眺めれば、職場で濡れ衣を着せられた記憶を。目を閉じていても、叱られて思わず目を閉じてしまった記憶がよみがえってきて。強く覚えているような記憶だと、思い出すときに激しい頭痛まで引き起こして…!彼の記憶を通して見る世の中は、何もかもが悪意の塊に見えて仕方がない!


なにせLiamの人生は、他人から馬鹿にされるばかりの人生でしたからね。このゲームを遊び始めてしまったら、どんな悪口を言われても、頭痛と共にその悪口にちなんだ彼の暗い記憶が蘇ってくる。逆にどんな褒め言葉を言われたとしても、頭痛と共にその褒め言葉にちなんだ彼の暗い記憶が蘇ってくる…。本作はゲームですから、思い出すことそのものが攻略なので。一体何をきっかけにLiamの記憶を思い出してしまうのか…、実際に攻略してみるまで、予想もつかないんです。


唯一ゲームを遊んでいる時は、酷い頭痛に悩まされずに済むんですが…。それもそれで、あまり、気分が良いものではありません。幸福な記憶よりも不幸な記憶の方が、より強く脳に残るって言うじゃありませんか。おそらく彼は、楽しくゲームを遊んでいたんでしょう。そしてゲームを楽しく遊んでいたからこそ…、幸福な記憶は、相対的に、脳には強くは残らなかった。まるで彼の記憶自身が、彼の人生の大半は不幸だったんだと、そう証明しているように思えますから。


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Liam Stewartの人生をめぐり、ネットはちょっとした騒ぎになりました。


誰がどう見たところでLiam Stewartの人生は不幸。不幸としか言いようが無い人生なのですが、それを開発者に言える人間は、誰一人としていなかったからです。本作を思い出したプレイヤーの大半は、「こんな不幸な人生を幸福と言って売るのは詐欺!ちゃんと誰かが開発元に文句を言うべき!」と息巻いてはいましたが…、結局のところ、それを言ってしまえる人間は一人もいませんでした。


だってこのゲームの開発者とは、つまりLiam Stewart本人なんですよ? 本人に「私の人生は不幸でした」と認めさせたところで、ただ、虚しいばかりでしょう。彼に訴えて「Liam Stewartの人生を幸福と称するのは詐欺罪に当たる」と証明して、誰が幸せになれるのか。「貴方の人生は不幸なので修正してもらえますか?」とお願いしたところで…、過去が変えられないのは、分かりきったことじゃありませんか。


「お前の人生はゴミクズ同然だ」


私の認識としては、これはゲーマーにとっては「こんにちは」に準ずる挨拶だと思っていたのですが。人生を否定する台詞として使うには…、あまりに、重すぎる言葉でした。「私の人生はゴミクズ同然でした」と相手を屈服させて気持良いのはゲームの中だけであって、死にかけの年寄りに「私の人生はゴミクズ同然でした」と理詰めで認めさせたところで、気の毒なだけで、何にも、楽しくはありません。


当の本人が「私の人生は幸福だった!」と信じ込んでいると言うのに、一体誰が、それを否定出来るって言うんですか。この不幸な人生が、Liam Stewartにとっての幸福な人生だったと言うのなら。彼の人生を生きていない私達に、彼の人生が不幸だったと言えるわけがないじゃありませんか。実際の人生を生きもせずに、他人の人生を生きたようなつもりになるのは、どう考えたって、馬鹿げてるんですから。


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Liam Stewartの人生は、ゲーム中、彼の人生最初の記憶まで遡ることが出来ます。


ゲームの「ラストシーン」にあたるその記憶は…、彼が3歳の時、離婚して家を出ていく寸前の、母親に抱かれていた時の記憶でした。彼は律儀に肖像権を守ろうとしたのか、自らの母親の顔を塗りつぶしてしまいましたから…。彼女がどういった人物だったのかは、プレイヤーである我々には絶対に思い出すことは出来ないのですが。なんとなく、暖かで、柔らかで。彼にとってはかけがえのない記憶だったんだなということくらいは、我々にも思い出すことが出来るでしょう。


何分古い記憶なのでハッキリとは思い出せないんですが…、母の胸に抱かれた幼いLiamは、彼女から優しい言葉をかけられていたような覚えがあります。まぁほとんどは陳腐な言葉で、「あなたは特別な子なの」とか、「誰からも愛される子になるわ」とか、「なんでも一番を目指しなさい」とか、後のLiamを知っていると寒々しくなるような褒め言葉ばっかりだったような気がするんですが…。記憶の途切れ際、最後の最期くらいで、確か…、彼は母親からこう言われているはずなんですよ。


自分の持っているオモチャを、母親にあげようとした時のことだったはずです。


「貴方が楽しみを、お友達に教えてあげられる人になるのよ」


そしてこのセリフが聞こえた瞬間、脳が裂けそうなくらいの頭痛が襲ってくるのと同時に、脳内では無理矢理「スタッフロール」が流れ始めます。およそ3分くらいの事ですから、耐えてください。スタッフロールは無料のフォントで、Liam Stewart、Liam Stewart、Liam Stewartの名前ばかりが並びます。ようはこれ、思い出せる限り最後の記憶にたどり着いた時にゲームのエンディングが流れるよう、Liamが無理やりお手製の記憶データを脳にねじ込んできているんですよ。


記憶データのフォーマットに従って彼がでっちあげただけのデータですから…。まともに脳内に保存できるような記憶ではなくて、思い出そうとすると吐き気がして止まらなくなるんですが…。必死になって唇を噛んで耐えていると、最後の最後、Liam本人からのメッセージを思い出すことが出来るので、興味がある方は是非耐えてください。まぁ、ネタバレでもないし、言っちゃってもいいのかな。最後の言葉は「Thank you for living」です。


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Liam Stewartというゲームのラストシーンはそんな内容ですから、このゲームに明確な終わりというものはありません。ゲームとしては一応、「なぜ彼がゲームクリエイターになりたがったのかを記憶をもとに読み解く」という目標があるのですが…。よくあるアドベンチャーゲーム同様、このゲームも確たることは何も言ってくれず、その解釈は各々のプレイヤーに委ねられています。まぁおそらくは…、Liam本人にも、理由なんてよく分かっていなかったんじゃないかなと思いますが。


Liamは自らの不幸な人生を呪っていて、自分の人生をゲーム化することで他人にも同じ不幸を味あわせたかったのだと言う人もいます。こんな不幸な人生が世にあることを社会に知らしめるため、一種のプロパガンダとしてゲームを作ったと考えた人もいたようですね。まぁ当の本人が何も答えは示しませんでしたから、本当のところは分かりませんが…。ゲームレビューとして格好をつけるために。私が、「自分によく似た」男であるLiam Stewartの人生を分析するならば…。


Liam Stewartにとってゲームとは、おそらく他人と喜びを分かち合う唯一の手段だったんじゃないかなと、私は勝手に、彼の事を思っています。


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「貴方が楽しみを、お友達に教えてあげられる人になるのよ」という母親の言葉通りに。彼はまぁ…、なんと言ったらいいのか。良く言えば純粋無垢な、悪く言えば馬鹿なお人よしで。彼の記憶をたどる限り、「自分が楽しみを他人に伝えるという行為」に、一種の…、使命感のようなものを感じている人間に思えました。女性に無理矢理ゲームをプレゼントしようとしたり、他人にゲームをだまし取られても平然と喜んでいたり…。そのほとんどは、相手には伝わってはいなかったようですが。


私も似たようなゲームマニアですから、彼の気持ちは何となく分かるんです。たまにいるんですよ。消費者でいる自分に、耐えられなくなっちゃう人間が。何を生み出す能力があるわけでもないのに、自分が何かを生み出せるような気がいつもしていて。でも結局は…、自分に能力が無いことは自覚しているから、人一倍悪意には敏感で。人から悪意を向けられるくらいなら、何も生み出さない人生の方がよっぽどマシだと。そう思っていたはずなのに、耐え切れなくなっちゃう人間が。


世の中には、才能があって、努力家で。自分の楽しみを創作物として生み出して、他人に伝えられる能力がある人間がいるんですが。そんな人間はまぁ、本当に一握りの存在で。多くは彼や私みたいに、何を生み出せるわけでもない消費者として死んでいきます。自分で何かを生み出せるわけではないんですけど…、それでもなお、自分の楽しみを伝えられた時に、誰かが喜んでくれた幸福感が忘れられなくて。いつの間にか、自分の好きなものを他人に勧める方向へと、行動がすり替わってしまう。


誰かが作ったゲームに、自分が一番最初に楽しみを見つけたような気になって。

好きなゲームに自分の存在を重ね合わせて、勧めたくなっちゃうんですよ。


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私の場合は…、ゲームを作るなんてまっぴらごめんですから。今もこうして、このゲームレビューサイトを細々更新し続けているんですけど。彼の場合は、おそらく、諦めきれなかったんじゃないですか。おあつらえむきじゃないですか。オモチャを渡した母親が、喜んでくれたことが忘れられなくて。いつかは自分もゲームクリエイターになりたいと、ずっと心にくすぶっていて。ついには、自分で作れもしないゲームを作ってしまった。なんだか、そんな気がしてならないんですよね。


ゲームクリエイターっていう仕事は、「自分の思いついた楽しさ」を他人に教えてあげる職業じゃありませんか。Liam Stewartの人生は、他人に馬鹿にされて辛い思いをした記憶ばっかりですけど。それよりは少ないかもしれませんが、楽しいゲームを遊んだ記憶もたくさんつまっています。彼からしてみれば…、楽しい人生を他人に教えようとするのなら。ゲームクリエイターと名乗るのが、一番自然な選択肢だったんじゃありませんかね。


まぁ、Liam Stewartは実在した人間ですから。こんなゲーム的な考察をいくら続けたところで、開発者によるキャラクター設定なんか彼は存在していないわけで。こんなこと、考えるだけ無駄だとは分かってはいるんですが…。まぁ、良い奴だったんだと思いますよ。本当に。ちょっと他人の気持ちが分からないだけで、何時も他人を気にかけていて。毎日をオドオドしながら、それでもヘラヘラ笑って生きている。私の記憶の中の彼は、そんな人間でしたから。


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本作は、このサイトで取り上げた他のゲームと比べると、広く社会的に低評価を受けたゲームという訳ではありません。他のゲームに比べて評判が良かったという訳じゃないんです。ただ単に、そこまでの騒ぎにはならなかったんですよ。


そもそも本作を買う時点から、1年5ドルの価格設定を見て「これは何かある」と警戒しない人はいませんでしたし。買ったプレイヤーは確かに怒っていはいましたが、それでも記憶売買のコミュニティでネチネチと陰口を叩くくらいで。Liam Stewart本人に伝わってしまうかもしれない場所で、表立って「お前の人生はゴミクズ同然だ」と言えるような人間はいませんでしたから。思いのほか、本作の悪評は世間に拡散されなかったのです。


しかし、Liam Stewartという人間は。自分に能力が無いことは自覚していて、人一倍悪意には敏感な人間でした。ゲームを遊んだプレイヤーが、なんだか歯切れが悪いのを見て。彼は、自分の幸福な人生が、他人から見れば不幸な人生なんだということに、すぐに気が付いてしまいました。生産者になるという事に覚悟が出来ていなかった彼は、悩み、苦しみ。そして結局いつものように、誰にも気づかれぬうちに、何も生み出せない消費者に戻る事を決意しました。


販売開始が2084/12/10のことでしたから…、クリスマス前にはもう、変わっていたんだと思います。このゲーム、実はもともとは「Liam Stewart - Unhappy Life -」なんて名前のゲームじゃなかったんですよ。40年前のたった二週間の間だけは、「Liam Stewart - Happy Life -」ってタイトルだったんです。「私の不幸な人生の記憶を販売します」って売り文句も、本当は「私の幸福な人生の記憶を販売します」だった。変えちゃったんですよ、全部。人に言われたから。


彼は自分の人生を、「不幸な人生だった」と認めてしまいました。貧乏人に引きこもり、童貞、機械、クソジジイ。ゴミ・クズ・カスに社会のお荷物。何も生み出せない消費者に過ぎない人生だったと、自らを、認めてしまったんですよ。


ゲーマーの大半は、彼が自分の人生を不幸だと認めてくれたことに、非常に安堵を覚えました。誰だって、他人の人生を不幸だと断言するのは嫌なものですからね。自らすすんで人生の不幸を嘆いてくれるのならば、わざわざこちらから屈服させる手間が省けるというわけで。ゲームを遊んで怒り狂っていたはずのプレイヤー達も、「不幸な人生と認められちゃったら仕方がないな」と、最後はみんな笑って、このゲームの事を許してくれました。


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ゲームとしてのLiam Stewartには70年分の記憶しかありませんが、その後も彼の人生は細々と続いていきました。とは言え、本作で人の悪意に晒された後の彼は…、側から見ていても、一気に衰えが進んでしまったように見えましたから。それからたったの数年で、彼は脳停止で亡くなりました。最後の最後まで、病室でゲームを遊びながら死んだと聞かされています。私も死に目を見たわけではありませんから、正確な事は分かりませんが。


2014/12/25、アメリカ合衆国ミシガン州フリント生まれ。好きなものはゲーム、嫌いなものは孤独。口数は多いが性格は内向的。長所は他人に甘いところ、短所は自分にも甘いところ。スクールカーストは最下位で、モテない冴えない出来損ない。貧乏人に引きこもり、童貞、機械、クソジジイ。ゴミ・クズ・カスに社会のお荷物。豚にトラッシュにトロール野郎。長く生きてはいるけれど、何かを生み出せたわけでもない。まぁ、一言で言えば、どこにでもいる駄目な男でした。


ダメ人間の彼が唯一人に誇れるところがあったとすれば、それはとってもとってもゲームが好きだったという事で。彼は生涯をかけて、他人に自分の楽しみを伝えることを愛してやまない男でした。たった一人の友人がいくら止めても、まったく言う事を聞こうとせず。ついには一生分の記憶をゲームとして売り出し、それに大失敗して体調を崩してしまいました。しかし、それでもなお。死の間際まで平然とゲームを遊び続け、担当医にゲームを勧めて嫌がられる患者でした。


友人である私が言うのもなんですが、彼はまぁ、幸せな人間でした。


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本作はゲームと言っても単なる記憶データ。それも販売の性質上、買った一回だけしか脳にインストールすることが出来ませんから。私の脳の中で、どんどんデータは忘れ去られています。呆けた年寄りの脳の中が唯一の保存場所とあっては、Liam Stewartというゲームの余命もそう長くはないでしょう。当時はそれこそ一生分の記憶を思い出すことが出来たのですが…、今じゃおそらく、ゲーム全体の一割も思い出すことは出来ません。彼の顔すら、今じゃもう曖昧なくらいですよ。


それでもなお、たまにゲームで悪口を言われると、今でも急に本作が起動することがあるんです。流石に70年分の記憶ともなると、簡単に思い出し尽くすことは難しくて。今なお、昔思い出すことが出来なかった本作の記憶の一部が、何かの拍子に急に思い出されることがあるんですよ。とくに、その思い出は悪口を言われたときに偏っていて。ゲームを遊んで相手から馬鹿にされると、同じ悪口で誰かに馬鹿にされたときの彼の記憶が、脳内に再生されてしまうんです。


今回も、そうでした。記憶の中の彼は、ちょうど今の私と同じように、「もうゲームを遊ばない方が良いと思うよ」と誰かに馬鹿にされているんですが…。彼はどうにも気が弱い男でしたから、「気を遣ってくれてありがとう」と、すぐに自分の非を認めてしまうんです。どうせ言ってる側はたいした考えもないままに言ってるだけなんですから、なんとか言い返してくれよと思うんですが…。記憶の中の彼は、それになんにも言い返そうとはしませんでした。


あ、いや、違ったかな。これは自分の記憶だった気もするな…。 あんまり古い記憶だと、彼の記憶と自分の記憶がこんがらがっちゃうことがあるんですよね…。いや、間違いなく、馬鹿にされていたのはLiamだと思います…けど。なんかしっくりこないんですけど、私だったら絶対言い返しているでしょうからね。こういう口を叩く奴は、だいたい人間性が腐ってますから。ちゃんと言い返してやらないと、悪いことをしたってのが分からないんですよ!


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あー…、頭痛が酷くなって困ります、本当。


私は心の底から、煽った野郎は絶対許さないと思っているはずなのに。そう思えば思うほど、友人が脳内に語り掛けて、「気を遣ってくれてるんだから、素直にありがとうって言いなよ」と、私を諫めようとしてきやがるんです。


一緒にするのは止めてもらいたいですよ。「ゲームをやめた方が良い」なんて言葉が、私の為を思っての言葉だなんて…。そんな、自分の人生が不幸だったと、暗に認めているようなもんじゃありませんか。ねぇ?


2115/12/25 (Article written by Alamogordo)


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