05-16 陽動
まだ血の匂いが濃厚に残る、
「お前、
五斗米道どものいっちゃん前、大将に向けて、寄奴ァ言う。
そこにいたんなァ、
「きさま、
改めて見ると、他の奴らたァ違い、ボロこそ身にまとってみても、そこはかとなしに気品がある。
「あんた、もしかして将軍だったのか?」
「
「抜かしてろ」
大負けしたってえのに、ずいぶんとスッキリしたツラでいやがる。そいつが妙に、寄奴の癇に触る。
「こっから先、お前に待ってんなあ、どう頑張っても死だ。なら、話せ。知ってっこと、洗いざらいだ。そしたら、せめて己が楽に殺してやる」
「それは手間が省けて良いな! だが断る! とは言え、せっかくの旧知との再会だ! 一つだけは先に教えてやろう! 我らが長く暴れれば暴れただけ、この国にもたらされる被害は拡大する! 突き詰めて言えば、我らが目的なぞ、これ一つよ!」
言って、また姚盛ァ笑った。
たァ言え、実際に余裕綽々でいられたんなァ、姚盛くれェのモンだったが。
後ろにふん縛られてる五斗米道どもァ、こうべを垂れ、がっくりと肩ァ落としてやがる。
殺せるからこそ殺されることに怯えねェ、って辺りか。ただ何にもせず、殺されるだけの身の上になっちまや、いやでも先のことを考えちまう。
「言っておくがな、奴らを締め上げてみたところで、何も出てはこんぞ。奴らにあるのは、憎むこと、殺すことだけよ。劉裕、貴様はそんな奴らに残されたよすが、殺すこと、を奪ったのだ。なんともまあ、酷な男よな?」
「
吐き捨てるみてェに、寄奴ァ言う。
言いながらも寄奴ァ、どうにもピンたァ来ねェでいた。
戦ってみりゃわかる、いくら奴らが死を恐れねェったって、こっちがその気になりゃ、狩り尽くせねェほどのこともねェ。
そもそも、孫恩だってわかっちゃいるはずだ。多少の搦手があったとこで、晋軍ァそうやすやすたァぶっ倒れねェ。
ならなんで、こんなアホみてェな戦いを仕掛けてきた?
他にも、ひっかかることがある。
姚盛ァ、きっといい将なんだろう。なら手前ェの死についても、さほど惜しんだりもしねェんだろう。
だが、手前ェのやるべき事も果たせねェで、こうもあっけらかんとしちゃいられるか?
逆に考えてみる必要がある。
例えば、姚盛のやるべきことが、もう終わってたとしたら?
そうやって考えた時、寄奴ン中でふと引っ掛かってくるモンがあった。そいつァ一回目の会稽、劉牢之将軍の天幕に呼び出されて聞かされた、孫恩からの手紙――将軍の勇武は
どこまで勝ち目があんのかも怪しい、っが、それでも挑んできた、五斗米道ども。
なら奴らが、本当ァ勝ち目のある所を狙って攻めてきてたとしたら?
考え込む寄奴に、姚盛がにやりと笑うのと。
――孫恩軍、
この辺で、話ゃァ我らが
寄奴んトコにその報せが届くのと、
おかしいよな?
命令の出所ァ、南郡。武昌よか、さらに長江を遡ったところ。まず、そこにまで情報が行き届かなきゃ、
なら、考えられんなァ、一つ。
桓玄と、五斗米道が示し合わせてた、ってこと。
ついでに言や、その後ろにゃ嫌でも
己づてで、てんやわんやと桓謙が指示出しすんのを見て、寄奴ァ猛烈に考え込んでた。
どこに向かうべきだ? いくら建康が狙いだっつっても、下手に京口広陵を残しときゃ、やつらが攻め上った時に、ケツから喰い叩かれるんなァ分かり切った話のはずだ。なら、間違いなく、占領、くれェのこたァする。
だから寄奴ァ、すぐさま隊を編成し直した。
急ぎ京口に戻る隊と、海塩を引き続き守らせる隊と。
併せて劉牢之将軍にゃあ、使者を飛ばす――京口に急行する、ってな。
「長く暴れれば暴れただけ、かよ! よく言ってくれたもんだな!」
徒歩のやつらに合わせ、最速で北上する。
家族の顔が、近所のやつらの顔がちらつく。
無事でいてくれ、そう、願うっかねェ。
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