2 広陵擾乱
02-01 宗族内訌
叫ぶより、止めたほうが早えェ。
寄奴に
「が……っ!」
「情けねえな、ひとを殺ろうって奴が」
脇腹に蹴りを一発、そんで手前ェの帯をほどき、ふん縛る。
「おいおっさん、怪我ねえか?」
「あ……いや、大丈夫だ」
いきなり殺されそうになったとこを、いきなり助けられたんだからな。オッサンにしたって、そりゃ目を白黒するしかなかったろうぜ。
見りゃ刺客とおぼしき連中の一人ァ
「おいおい無忌、そいつが頭目だったらどうすんだよ」
にやにや顔の寄奴に「うっ、うるさい!」って何無忌が返す。
「こうも粗末な闇討ちなら、誰を締め上げたところで変わらん!」
「だといいが、ねぇ?」
「っく……!」
寄奴と何無忌が戯れてる間に、まだ死んでねェ二人を魏詠之がまとめてふん縛り上げてた。
「お前ら。戯れは、ことが済んでからにしろ」
何無忌で遊ぶ寄奴にせよ、うっかり失態をキメた何無忌にせよ、魏詠之のこの正論にゃ返す言葉もねェ。寄奴は軽く肩をすくめ、何無忌は「むっ……ぐ……!」ってあわあわしてた。
それ以上の茶々は入れず、魏詠之はオッサンに向き直った。跪き、頭を垂れる。
「粗野な連れの無礼、ご
ソツのねェ口上を前に、ようやくオッサンは少し冷静さを取り戻したようだった。魏詠之の言葉に対して「う、うむ」って頷いて、その後ろに控えてた青年貴族どのに目配せ、耳打ちをする。
その貴族どのは、まだ少し動揺の色を残しちゃいた。
が、それでもオッサンをよけさせ、しっかりと寄奴らの前に顔を見せる。
「貴公らがおらねば、我らは
へえ、と寄奴が小さく感心した。
お貴族さま、しかも司馬姓ともなりゃ、どう考えても半端ねェご身分のお方だ。そんなお方にもかかわらず、努めて、こちらと同じ立場に立とうとなさってた。
命を狙われるようなお立場で、しかもその気になりゃ、簡単に手前ェらを締め上げられるような奴らを前にしてんだ。仮に取り乱してたとしたって、決して笑われるような状況じゃねェってのにな。
その様子を認め、ようやく司馬休之どのの緊張が少し緩んだみてェだった。が、すぐさま顔を引き締めると、寄奴らの方に向く。
「慌ただしくなりそうだな。改めて礼の場を設けたい。貴公らの名を伺ってもよろしいか?」
己か?
あの場にゃいなかったぜ。後で話すが、もうこの頃にゃ
三人ァちょくちょくつるむようになった。そんでお互いの夢なんか語ったりした。寄奴ァ戦場で成り上がってやると、何無忌ァ
休之どの、それから王謐のオッサンを刺客から護ったのは、そんな呑みの帰り道の事だった。
にしたって、いくら刃傷沙汰を防いだっつっても、ひとを殺しちゃ当然お調べもお
で、お調べがあった日の夜。寄奴らァ司馬休之殿のお屋敷に招かれた。
「
休之どのの杯に酒を注ぎつつ、魏詠之が問う。
対する休之どのは「うむ……」って言葉を濁しなすった。
そんで、魏詠之に目配せをする。
「それにしても、魏詠之どの。貴公が注ぐ酒は、実に美味だな」
あ? って前のめりになりかける寄奴を、何無忌が抑える。「いいから黙って聞いてろ」って、寄奴をして有無を言わさせねェだけの強さで言い切った。
「朝廷で振る舞われるのは美酒ばかり、と伺いますが?」
「風評ばかりが先走りしているものも多くてな。幻滅を禁じ得ぬこともあるよ」
ふむ、と魏詠之が一息つく。
「では、
「ほう、貴公の舌にそれほど叶っていると?」
「誠に」
こん時、寄奴ァ相変わらず二人のやり取りの意味を分かってなかった。まァ後でいきさつを聞いたら聞いたで、「何でそんな回りくどい事してんだよ」って苛ついてたんだけどな。
「良き酒に巡り逢い、良き酔いにたゆたいたいものだ。それに引き替え、過日味わった
ぴく、と何無忌もその酒の名前に反応した。
――季預。
そいつァ、休之どのの
ただ、誰が黒幕か、なんてな突き止めたところで大した意味ァねェ。軽々しく動いたとこで、相手ァ簡単にこっちの動きを握りつぶしちまえる。どころか、「誰に命を狙われたか」なんて話が洩れたら、あっさりこっちを潰すことだって出来る。それほどの相手だった。
だから、その名前を直接言うわけにはいかなかったんだ。
当時の帝、
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