報復ちゃん

ねむりよいこ

報復ちゃんがやってくる




 てるてる坊主、てる坊主。

 明日天気にしておくれ。


 窓辺に首吊りてるてる坊主。

 ぐったりゆらゆら宙ぶらりん。


 晴らして欲しいのはお空?

 それとも……






 ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ






 赤い布を一枚。

 川原で拾った石を包む。

 石を巻き取るように、きゅっと赤い布を絞り、石を決して逃がさぬように、紐で強く縛り付ける。石を閉じ込めた巾着袋のようなそれは、いわゆるてるてる坊主というもの。

 外から見える窓際の、カーテンレールに首の紐の端をくくりつける。

 てるてる坊主のごくごく普通の飾りかた。

 しかし、それを人に見立てると、首を吊っているように見えるのは不自然なことだろうか?


 首吊り人形に男は語りかける。


 てるてる坊主、てる坊主。

 明日天気にしておくれ。


 みんなご存じ童謡「てるてる坊主」。


 ここにほんのちょっぴりの呪いを込めて。

 またもよく聞く怪談の一節。


「この怨み晴らさでおくべきか。」


 はてさて奇妙なふたつのお馴染みの取り合わせ。男は一体こんなことをして何をしたいのか。


 まぁ、なにも起こるわけないよな。




 ……などと、諦めムードを、漂わせる余韻も与えずに、彼女はいつでも足早にやって来ます。


「はぁい、あなた。ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ、た、し?」


 またも飛び出る新婚ホヤホヤ熱々カップルの決まり文句。

 ちょっと古くさいかしら?


 くすくすくすと、少女は笑う。

 ちょっぴりシュールなギャグを飛ばして、ほんの少し得意気に。

 対する男はこわばった顔で振り返った。


 そこにいるはずのない少女が、確かにそこにいた。


 真っ赤なふんわりスカートの端をつまんで、淑女チックに一礼を送る。

 鍵の閉まった男の部屋に、いつのまにか潜り込んでいたその少女。

 

「そうです。わたしが、あなたがお望みの、わたしです。」


 そして少女は、その名を名乗る。





「報復ちゃんです。」





 男の目に浮かぶのは、恐怖かそれとも狂気か。

 一瞬ひきつった頬は、いつの間にか笑っているかのように弛み、つり上がり、いびつな三日月を象っていた。

 少女はその三日月を見て、ただでさえゆるゆるなにやけ面を更に輝かせる。


 男は少女の期待に応えるように、歪んだ願いを少女に告げた。




「復讐したいやつがいる。」




 巷では、奇妙な都市伝説が流行り始めていた。

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報復ちゃん ねむりよいこ @nenneko5656

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