長い不況が出版業界にもたらした、ある業界とよく似たテクニック

 どうも、ここの運営はカクヨムをコミケのようにしたいと言っていたらしい。

 確かに、それが成功するならユーザーがユーザーに返済を行う機能は満たされることになる。ユーザーの「これが欲しい」という気持ち、これが実は情報としての価値が物凄く高い。突き詰めると、これだけが答えと言っていいほどに。

 コミケにはそれが渦巻いている。

 カクヨムがコミケになれるかどうかも、ユーザーがユーザーに返済をできるかどうかも、実は必要な条件はほぼ同じで、しかも、そのマスト一つのみしかないといっていい。

 その唯一のマストを満たせば、他の何を捨てても目的は達成される。

 逆に、そのマストを満たせなければ、他になにを得ても決して目的は達成されることはない。

 そのマストとは――

「需要と供給の少ないほうを多いほうに合わせる」

 これだけである。

 これをし続けるだけである。

 しかし、それができるかどうかは別だ。


 コミケの規模が拡大し続けているのは、それを支えて動かすエンジンが規格外に強力だからではない。大部分が自重で動いているからこそ、どれだけ大きくなっても重くて動けないということがないのだ。

 なのに、カクヨムはレビュー担当というエンジンを持つことを選択してしまった。自走能力を得ることと引き換えに、本物のコミケとなることはほぼ不可能になってしまったのだ。

 と同時に「ではカクヨムは何になるのか?」もほぼ決定している。


 カクヨムは、そもそも自然な力、いうなれば水が自重によって流れるような力を動力源とはせず、自分で水をくみ出すという最悪の形態を採用してしまった。

 それには膨大な維持費がかかるとともに、それが自然な力ではないことによって真実味が欠けてくる、要するに「うさんくさくなってしまう」という強烈な特性を抱えることになる。

 つまり、作られた情報である「価値のない“すごい”」に騙される情報弱者のみしかターゲットにできないという弱点を抱えてしまうのだ。

 これはまるっきり、サギで金を稼いでいる集団とまったく同じ弱点なのだが、なぜその手法を選んでしまうかというと、なんとそれは弱点ではなく、その手法で売り上げが出てしまうからだ。


「表紙の絵に騙されて買ったライトノベルがまるっきりつまらなかった」という一昔前に猛威を振るったような、「誰かを騙して金を払わせる」という手法において、なぜ「真実味のある“すごい”という声」よりも「うさんくさい“すごい”という声」のほうが数字を出せる効果的な広告になってくるのか。

 実は、そこには巧妙なギミックが潜んでいる。


 ネットや紙面で「明らかにサギ師だよなこいつ」という絵面を見たことはないだろうか。

 サングラスで顔を隠し、マフラーで口元を覆い、いかにも「ワタシ詐欺師です!」と自己紹介しているかのような男が語る、うまい話。

 もちろん、それらが詐欺であることはいうまでもないが、こういった疑問を抱いたことはないだろうか。

「もっと上手に騙したほうが儲かるんじゃないの?」

 それもそのはずで、上手く騙す業者と、明らかに詐欺だとわかる業者なら、上手く騙す業者のほうが儲かり、そういう業者や手法のほうが増えていくだろうと思えるからだ。

 しかし、怪しい業者ばかりがいつまでも詐欺を続けていられる。

 これは、なぜだろうか?

 実は、サギというのは「いかに騙される人間を選別して、まともな人間を排除するか」がカギなのである。

 考えてもみればわかることで、この詐欺師たちに最後まで騙されて金を払い、騙されたということにも気づかず、警察や役所にも相談せずに、その後もただ平々凡々と日々を過ごしてくれるような特殊な人間などそうはいないのである。

 その重要な“カモ”を一般市民から無作為に選んで探したとしたらどうだろうか。しかも、長い時間をかけて騙しの言葉をかけたり、手続きについての説明をしたりしなければ、カモなのか普通の人間なのかの判断がつかないとしたら、そのカモを引き当てるのに一体どれだけの時間と労力を必要とするだろうか。

 それ以前に、一般人を相手にそんなことをしていたら、すぐに敵を増やしてネガティブな情報が出回ったり、お上に通報されたりで、詐欺企業のほうが潰されてしまう。

 では、そんなことにはならない安全かつ美味なハイパーレアキャラであるカモさんとは、どこに生息しているのか?

 そう、「いかにも詐欺師といった絵面に何の違和感も覚えず、本当にうまい話だと思い込んでしまうようなちょっとヤバい層」の中にだけカモは存在しているのだ。

 だから、そういった層の人間とだけ関わりたいのが詐欺グループの本音なのだ。うまい話を怪しんで周囲に警鐘を鳴らしたり、ましてや警察に通報するような一般人は、最初からお断りなのである。

 結果として「胡散臭いものを並べたほうが売り上げが出る」という現実が「騙して儲ける業界」には強大な力を持つ法則として成立してしまうのだ。

 一般人なら声を上げて非難し、あるいは鼻をつまんで遠ざかるようなものに対して、まったく何の違和感も覚えないような、はっきり言ってしまって、リアルで一般人と横に並べてしまえば一目で劣っているとわかる、特別な人間。

 情報操作によって売れないものを売りつける詐欺業界では、まず、その特別な層を選別するための仕組みが必要なのだ。


 さて。

 運営にとって、カクヨムを広告塔にしたいという考えはもちろんあるのだろう。トップにどどんと載せた書籍を買ってもらいたい、あわよくばその書籍の広告の費用まで押し付けたい。

 そうなれば、これまで実際に成果を上げてきた手法を真似することになるが、その手法の中には、

「いかにも無価値といった内容や単語に何の違和感も覚えず、本当に“すごい”ものだと思い込んでしまうような層」

 を選りすぐるための仕組みが内包されているのである。

 もちろん、それがただ、これまで「売れない本を売る手法を探し続けてきた」という過程で成功した手法を真似ているだけで、カクヨム運営がその仕組みに気づいていないという可能性も十分にある。

 だが、カクヨム運営がそこまでのことを理解してようが、していまいが、そんなことは消費者には関係がない。


「内実の価値を伴わず、うさんくさいだけの情報を前面に出したほうが、なぜか批判もされずによく売れる」

 ということを長年の経験からはっきりと理解して、そのための仕組みや人材を用いているということさえ確認できれば、もはやそれをカモ層以外の人間が相手にする理由などないのである。

 もちろん、内実の価値を持たないコンテンツなど、そんなものはカモ以外には売れなくなっていく。やがて業界は衰退し、一般の人間には見向きもされなくなるだろう。そのことに警鐘を鳴らす声があったとしても、売り上げによって支配された業界内部には届くはずがない。


 カクヨムから、多くの人が去っていった。

 カクヨムはなぜ彼らを追いかけないのだろうか。

 いや、もしかして追いかけたかもしれない、だがそれよりも、さらに突き放す臭気のほうが強かった。


 カクヨムがなろうとしているのは、コミケではない。

「カモがコミケだと思い込んで金を落とす場所」

 これが本当にカクヨムがなろうとしているものだ。

 そのためには、うさんくさいレビューに騙されず、カクヨムが間違っていると指摘し、そこから去ろうとするまともな人間などは邪魔なだけなのだ。

 そうなっていくことに運営自身が気づいていなくとも、選んだ手法から最終的に行き着くたった一つの姿がそれなのだ。


「こんなものがなぜ売れるのか?」その本質が理解できない編集者たちの作り上げた出版業界が、やはり同じように「こんなものがなぜ売れるのか?」が理解できない詐欺師たちの世界とほとんど同じ形態を取り始めており、それにより業界の衰退に拍車がかかっていることから、『売り上げの数字だけから未来に続く道を選び取ることはできない』という、はっきりとした根拠が得られただけでも、実に有意義なカクヨムでの時間だったと思える。


『数字しか見てないんじゃ駄目』

 根拠もなく、このような奇麗事が持ち出される場面の裏には、数字が読めない人間のやっかみが含まれているだろう。

 しかし、同じ綺麗な言葉に根拠までもが加わるとなれば、それは実にすがすがしいものだ――業界の根を腐らせる、詐欺師と同じテクニックをそれと知らずに用いる人間たち“以外にとっては”の話だが。


「“知ってゆくいとなみ”によって利益を得る者」

 そして――

「“知らぬままのいとなみ”によって利益を得るもの」


 全ては、前者にとっては知るべきことだし、後者にとっては知らないままでいるべきことなのだから。

 その違いを“理系”と、“文系”と言い分けたのだとすれば、上手く世間を言い包めたものだと関心する。

 その言葉の意味は、知ってもいいし、知らなくてもいい。


 どちらでも構わないのだ。

 資本が求めているのは思考する人間とは限らず、それを目指すことがこの世界で生きていくために有利な道である保証などないのだから。

 馬、牛、豚、鶏――彼らほど、近縁種の生き物に比べて飛びぬけて地球上で繁殖した動物たちはいない。

 自分で考える人間になりたいとさえ思わなければ、それは最も安全なで確実な繁栄への道なのだから。

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カクヨムというサイトが見えていない最強の敵 @tiro9

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