私のお仕事-Killing
第2話 小休止ーRestingー
「ひ、ひぃぃぃぃいいいッッ!?」
夜の路地裏に叫び声が反響し、ターゲットの瞳が大きく開かれる。このトラップもかわすか……適性Cにしてはなかなか優秀な察知能力と身体能力を持っているらしい。もしかすると、限りなく適性Bに近いかもしれない。
「やっぱり、経費ケチったのが間違いだったかな……。この前の適性Aの子のときに使いすぎたから、少しでも減らしておきたかったんだけど」
私に背を向けて走って逃げていくターゲットを、空中浮遊して追いかける。
かなり自分に自信が持てるようになっていたけれど、仕事意識がまだ足りないみたいだ。適性がAだからCだからって区別せずに、同じ一つの仕事って考えるようにしないと。
「ひぃ! だ、だだ誰かたすけ――」
まずい。ここで無関係な人間に介入されると後処理がめんどうだ。しょうがない、予算を少しオーバーしてしまうけれど、この際そんな悠長なことも言ってられない。
どうせこの件を片付けたら新しく予算が入ってくるし、来月分から少し差し引けばいいよね。
私は私空間から古びた杖を取り出すと、ターゲットに向けて振りかざし、トラップを仕掛ける。普段、適性B以上にしか使用しない高級品だ。
「そうそう、そのまま直進して――――今よ!」
私の声を合図に、設置したトラップが動き出す。
「え――」
驚きの表情をするターゲットにトラップが襲いかかる。そして、そのまま声を発する間もなくターゲットは動かなくなった。
「……ふぅ。手こずったけど、なんとか殺れたわね」
仕事成功を確信した私は胸を撫で下ろした。やっと家に帰れる……。
杖を私空間に再び収納し、私は転移した。
◇ ◇ ◇
「ただいまー」
「あ、お帰りなさいませ、トトリ様」
「うん、ただいまー、フェレス君。相変わらず堅いね。丁寧語使ってくれるなら、もっと楽にしていいのに」
「いえいえ、トトリ様は僕のご主人様ですから」
にっこりと笑う、燕尾服の少年。整えられた金髪がまぶしく、サファイアのような輝きを放つ碧眼は穏やかだ。
「いや、確かにフェレス君を使役して調教したのは私だけどさ、別にそれほど縛ってないよね? 結構高い自由度をあげてるはずだけど」
私は堅苦しい仕事着を脱ぎ捨て、フェレス君に裸体を晒す。今さら恥じらう必要もない間柄、フェレス君も特に気にしてない様子で私の服を拾い上げる。
「はい。その気になればトトリ様を抹殺できるくらいの自由度はいただいております。しかし、だからこそ、僕はトトリ様に心酔しているのです」
フェレス君はそのまま顔を私の仕事着に埋め、何やら身体を震わせる。
「……はぁ……すぅ……はぁ……。ああ、トトリ様の匂いが僕の身体を巡っていきます。この一瞬のために、僕は生きているのです」
「あっそ」
かれこれ数年も同じことが繰り返されると、生理的に受け付けなかったフェレス君の行動がどうでも良くなってきた。元はといえば、私が抹殺すべき悪魔――メフィスト・フェレスを気まぐれで助けてしまったことが原因だし。
まさか、あのメフィスト・フェレスがこんな変態になるなんて、調教した時には思いもしなかったけど。
「で、今日もうまく逝ってた?」
「はい。もちろんです。たとえ今日の獲物がうまく逝ってなくとも、それはその獲物が屑であるか、天界のシステムが間違っているのです。トトリ様こそが法。トトリ様こそが正義。トトリ様こそが絶対なのです」
「フェレス君、相変わらず気持ち悪いね」
「ああ! トトリ様に罵っていただけた! 今日はトトリ様に罵っていただけた一三八六回目の記念日ですね!」
「私、ほとんど毎日罵っているんだけど」
「なら毎日が記念日ですね! 毎日がこんなにハッピーだなんて、僕はなんて
恍惚の表情で、うっとりと私を見つめるフェレス君。可愛いから許す。
「そっか。今日の仕事もバッチリね。まだ転葬確認の通知が来てないけど、先に祝杯でもしようか」
「かしこまりました。では一四○年もののりんご酒をご用意しましょう」
「おねがいね。私はちょっと身体を清めてくるから」
そくさくとユルドの泉に向かう私の背後で、ウキウキと楽しそうにボトルを品定めするフェレス君が見えた。案外、私が転葬人を続けられているのはフェレス君の笑顔が見たいからかもしれない。
◇ ◇ ◇
「ところでフェレス君。次のターゲットはもう決まってるの?」
ボトルを仲良く空にし、早速明日からの仕事の打ち合わせを始める。転葬人という業務を滞りなく行うために、連絡や事務はフェレス君にやってもらっている。おかげで御帰還以来、性格が変わってしまわれたクロノス様と会話せずに済むようになった。
神候補・ニーナが何をしたのかわからないけど、やたらと早く御帰還なさったし、あれは人が変わったなんてレベルじゃなかった。クロノス様は人じゃないけど。
口調がやけに子どもっぽくなっていたし、話しやすいことは話しやすいんだけど、昔の荘厳なクロノス様を知っている私からすると違和感がある。でも、最近はあんなクロノス様も有りなんじゃないかな、と思うようになった。なにがどう変わったのか、よく分からないけれど。
「はい。……ですが、少しお休みになられては? ここ数件を立て続けになさって、御疲れでしょう?」
クロノス様のことから思考を切り替え、フェレス君に耳を傾ける。確かに、最後に休んだのは半年くらい前だ。特に、二件前の適性Aを転葬した時は疲労で丸一日気を失ったっけ。でも、永らく転葬人がいなかったせいか、数千年ぶんの仕事が山積している。
私はわずかに痛む側頭部を手のひらで隠しながら、フェレス君に作り笑顔を向ける。
「ううん、大丈夫。いま転葬人は私だけだもの。動けるなら仕事をしなくちゃ。でも、心配してくれてありがとうね。フェレス君が気遣ってくれるだけで、私は頑張れるから」
「そう、ですか。でも、無理はなさらないでくださいね? トトリ様にもしものことがあれば、僕は絶望して天界を滅しかねません」
……よし。絶対に無理はしないように気を付けよう。全力のメフィスト・フェレスが暴れまわったら、いくら全能であるゼウス様でもどうなることかわからない。
「頼むから大人しくしていてね。フェレス君が死んじゃったら私も悲しいから」
「トトリ様……」
美しい碧眼を潤ませ、フェレス君が私に抱きついてくる。ちくしょうー、なんて可愛いんだ。残忍、冷酷の権化とも謳われたメフィスト・フェレスなのに、この可愛さは反則だって!
転葬のお仕事っ! 精華忍 @oshino_shinobu
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