Feeling confident:予測と確信
「……なぁ、アイツ何者なんだよ!」
「俺が知るわけないだろ……。第一深く追求しないほうがいいって本人がおっしゃられてるんだ。黙っていることに越したことはないだろう」
そういいながら、俺は前を歩く少女の姿を見る。
先ほどまで後ろを歩いていた少女はいつの間にか俺たちの前に出て歩みを進めていた。その歩みの速度は地味に早く、大の大人である俺たちが早歩きで歩かなければいけないほどだ。
そんな歩みで大体数分程度すると、今回の目的地が見えてくる。
立派なレンガ造りの建物だ。第四区画の兵舎のそれとは規模がまるっきり違うそれは、見ていてただただ圧倒される程。その兵舎から出入りする人間も第四区画の比ではない。
「……でっけーな」
「ええ、何せここは医療系の研究の最先端。施設が大きくないと研究もできない分野だし、施設が多いと、それにつれて人員も多く必要になってくる――っていう寸法よ」
「詳しいんだな」
「当然よ。私はここに住んでるんだから」
……流石にそれは嘘だ。この区画に住む女性など、医者を含めてだれ一人いなかったはずだ。それに軍規によって、女性の住む場所は男性兵舎からかなり遠くに作られる決まりになっている。
俺が訝しんでいると、少女はいつの間にかこちらを見ていた。空色の瞳がまるで俺の心を見透かすように輝いている。
「……詮索するなら、相応の覚悟をもってすることね。私と、それに関する情報は甘くないわよ」
「……肝に銘じておく」
そうだけ言って、俺はこの軍本拠地にある『レプトール病院』が存在するであろう方向へと向かう。少女もそれに続き、すこしだけぼーっとしていたハヤトは乗り遅れる。
この第八区画の軍本拠地は、兵舎の規模からわかる通り、凄まじく広い。第四区画も十三ある区画の中でもそれなりに大きいといわれる面積はあるが、この区画と比べると確実に見劣りする。
それだけ面積が広ければ、当然だが迷うこともままある。最初にここに就任した兵たちは、新兵教育で初めにこの施設の構図を頭に叩き込まれるが、俺たちみたいな外部からの人間はそうもいかない。
「……あれ、ハヤトは?」
「ああ、あのお茶らけた男ね。さっき催したみたいで、便所に向かってたわよ」
「それは今から、大体何分前の話だ?」
「四分前の話よ」
俺はともかく、アイツは一回もここに来たことがないはずだ。大丈夫なのだろうかと少し心配するが、道は新兵に聞くなりなんなりすればすぐにわかる話だ。少しだけ安心する。
「……はぁ、やっぱり広すぎるのよね、ここ。なんか馬車とか導入してくれないかしら」
「運営上無理な話だろう……。でも、この広さだとそのボヤキに同意しかない」
「貴方もそう思ってたのね。いいわ、なかなかに見どころのある男じゃない」
「ただ一回意見に同意したからって、見どころ云々を語られちゃあ、何となくかたなしだな」
「いいじゃない。女っていうのは同意してあげると喜ぶ生き物よ。あなた、顔はそこそこ渋くていいんだから、そういう術を身に着ければ、いつか女にも――」
「――女は、俺のそばにいる女は、アイツ一人でよかった。もういらない」
俺はそう言って、大股で歩き出す。苛立ちを地面に当たるように、強く強く地面を踏みしめる。
「……何よ、唐突に怒りだして」
「どうせここだけの縁だ、お前には関係ないことだよ」
「さぁ、どうでしょうね。案外運命っていうのは数奇よ。何が起こってもおかしくないのよね」
「……何が言いたい」
「これからもお世話になるかもね、ということよ。ヴィオラ・レーシュテイン第二位将官」
なぜ俺のフルネームを、と言おうとしたが、隣にその少女はすでにいなかった。そこにあったのは、その少女のものと思わしき地面を踏み砕いた跡と、少しだけ舞っている砂塵だった。
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