Middle Phase 7 ~長銃兵~

 死闘が繰り広げられた路地から五百メートル離れたビルの屋上。『長銃兵マークスマン』は手のひらに載せたボルトとナットを、猫のあごを撫でるように弄びながら双眼鏡で獲物の様子を眺めていた。

「大当たり、ですわ」

 望遠レンズの向こう側で銀髪の少女が左胸から血の華を咲かせ、吹き上がる赤い花弁は瞬く間に紅の炎へ姿を変えてゆく。

 その姿を満足げに見やって『長銃兵』はインカムに向かってささやいた。

「あとの始末は、あなたにお任せしますわ」

「ケケケッ! おいおい、ひでえな。アレを撃つのは、もうちょっと先のはずだろ?」

「あら? 『議長』は仰ったわ。臨機応変に対応しろ、と。だからこそ今、あの子を撃ったのよ。あなたも見たでしょう? あの間抜けな顔」

「……ま、アレが例の傭兵セルの秘蔵っ子だって言うなら、俺たちの敵じゃあねえな」

「私もそう思うし、貴方もそう思う。皆もそう思うでしょう。ならば議論を挟む余地は必要ない」

「違いねえな。残りの奴は俺がいただくぜ。お前は高みの見物を決め込みな」

「そうさせてもらうわ」

 『長銃兵』はインカムを切ると、再び双眼鏡をのぞき込んだ。

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