Middle Phase 4 ~議長~
――放課後。
帰宅する生徒や部活動に勤しむ者たちの喧騒を聞きながら、『
初めてこの部屋に入った時、円卓にしてはあと6人足りないな、と誰かが言った。
だから彼女は苦笑交じりに答えた。
ここにあるのは長机とパイプ椅子だけだよ、と。
生徒会室と言えば聞こえは良いが、しかし会議室と言うには手狭で、広さは一般教室の3分の1程度しか無かった。にもかかわらず、歴代生徒会の資料が収められた書類棚や、去年の文化祭で使った垂れ幕が乱雑に押し込まれたポリ袋などが置かれ、空間を著しく占領している。
中でも、その大部分を占めるのは、部屋の中央で長方形を作るように集められた4台の折りたたみ式の長机と6脚のパイプ椅子だった。
厚手の遮光カーテンが窓にかけられ、外の光は入ってこない。勿論、外から中の様子が見えることもない。
定位置に――他の5脚を見渡せる位置に座ると、彼女は机に肘をついて身を乗り出し、《MPD》セルのメンバーに語りかけた。
「……遅くなってすまない。例のエージェントが行動を開始したようだ」
「本当かい、『議長』? それは例の情報屋からの
『議長』は答えない。代わりに『議長』の右隣に座る女が答えた。
「92パーセント。数学的に言えば、まず間違いない。彼女は行動を開始するだろう。すべて、読み通りさ。私の組み立てたアルゴリズムに当てはめれば、彼女の3手先まで読み通せるからな」
「ケケケ。『
「うふふ。そうでございますわね、『
下座に座る『盗賊』と、その左隣の『長銃兵』が愉快そうに笑いあう。
「ああ。今のうちなら始末も容易い。
言ったのは『議長』から見て左手前に座る『
「ケケケ。獲物の独り占めですかい、『槍兵』の旦那ぁ? よしてくれよ、そいつは無しだぜ」
「うふふ。卑しい『盗賊』の言うとおりですわよ、『槍兵』様。人知れずの狙撃ならば、この私の出番でしょうに」
だが『盗賊』と『長銃兵』は不満そうに身体を揺すった。二名とも獲物を掠め取られることを嫌うタイプだ。
「そういう君も、暴れたくてウズウズしてるのが声に出てるよ、『長銃兵』? レディなら、もう少しお淑やかに振るまいなよ」
最後の1人が皮肉げに肩をすくめる。その姿を睨めつけながら『長銃兵』は机を叩いて席から立ち上がった。
「『
「言ってくれるね。あの時は君だって賛成してたじゃないか。あの判断は
「……そこまでにしておけ、お前たち。我らのルールを忘れたわけではなかろう」
『議長』は嘆息しつつ、剣呑な雰囲気を漂わせる2名を制止した。《MPD》セルの行動方針はメンバー6名全員による合議制だが、この場においての立場は『議長』が最も強い。それを理解しているからこそ、『歩哨』も『長銃兵』も制止を大人しく聞き入れた。
「分かってるよ『議長』。だからこそ僕のような『歩哨』が必要なんだろ?」
「理解しておりますわ、『議長』。だからこそ私『長銃兵』が必要なのでしょう?」
「ならば良い。では方針を決めよう。件のエージェントについては監視を続け、可能ならば迅速に処理する――質問あらば挙手を」
5人が一斉に挙手し、各々が好き勝手に疑問を口にする。
「見せかけるならば事故か?」
「それがいい。通り魔の犯行にするには手間がかかるし、行方不明は実行条件に該当しない。死体を残すべきだろう」
「監視範囲はいつも通りだ。事故を起こすのに好条件のスポットも、いくつかピックアップしている」
「でも校内での実行は避けるべきよ。勘付かれるわ」
「勿論だ」
「だったら、この場所はどうだ? 人目につかない、人通りも少ない。《ワーディング》を使わずに仕留めれば、俺たちの痕跡は限りなく少なく出来る」
「悪くない。問題は、どうやって、この場所におびき寄せるか――だな?」
「それについては問題ない。いつもどおり私の組み立てたアルゴリズムを応用して、その場所に誘い込めばいいさ」
「あの連中から拝借したブツもあるが……万が一、奴を仕留め損なった場合はどうする?」
「――迅速な撤退。だが臨機応変な対応が求められる」
「ならば殺してしまって構わん、ということか」
「臨機応変に、な」
『議長』の返事に『槍兵』は愉快そうに笑った。同じように残ったメンバーたちも、めいめいが不敵な笑みをこぼしている。笑い声が落ち着くのを待ってから『議長』は手を打ち鳴らした。
「では、採決だ。件のエージェントについては監視を続け、可能ならば迅速に処理する。処理は事故に見せかける。場合によっては戦闘行動も認める――異議あらば挙手を」
挙手はない。満場一致の採決だ。満足感とともに『議長』は言い放った。
「よろしい。本案はこれにて可決された。皆、所定の位置につけ」
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