XIV.活路

 ボクは友だちとして真琴に嘘をつき続けてもいいのだろうか。

 確かにメタリック・チルドレンだったと知られ、関係が壊れてしまうのは怖い。でもそれ以上に真琴に嫌われてしまうのが怖かった。もし嘘をついていたことがバレてしまったら嫌われてしまうかもしれない。それにやっぱり嘘をついているという罪悪感に似た感情があるのも否定出来ない。

 このまま本当のことを言わずに友だちという関係を続けて行けるのか。でも言ってしまったとしても友だちのままでいられるのか。

 ……ボクはどうすればいいのだろう。

 気が付くと視線を下げてしまっていた。真琴に本当のことを言うのか、言わないのか。まだ決められていない。答えが出ない、出せない。

 その時、ふと自分の右腕が目に入った。肌色の人工皮膚の下には機械の腕がある。


「……待てよ?」

「え?」

「ごめん! また後でちゃんと話するから!」


 言い終わらないうちに右腕の人工皮膚を剥ぎ取る。

 大事な話し中だったのはわかってる。でもそれは後からでもできる。生きてさえいれば。

 真琴とちゃんと話すためにもここを生きて脱出することを優先すべきだ。だから真琴には悪いけれど、思いついた解決の糸口を試すことにした。案の定、納得がいかないような顔をする真琴。

 ごめん。今は許して。

 心の中でもう一度謝って、ボクは作業にとりかかった。

 ボクが使っている機械義手には力加減を制限するためのリミッターがついている。それを壊せば機械そのものの力を発揮できるんじゃないのか? もしそうなら回収した棘の弾丸を使うことができるかもしれない。もちろん、いくらリミッターを外せると言っても車を片手で持ち上げるなんて芸当はできない。なにせ義手以外は生身の身体なわけだから、もしそんな力を使えるとしても身体が追いつかない。

 それにたとえば何かを投げるとして。野球選手のような肩を使ったやり方では普通の力でしか投げられない。肘の曲げ伸ばしによる反動を使った投擲方法がいいだろう。ただそれでどれだけの力が出せるかわからない。もしかしたら思ったよりも力が出せないかもしれない。一応、他の手も考えておいたほうがよさそうだ。たとえば難しいけれどナイフか何かで目を潰す、とか。こっちの方法も機械義手のリミッターを取り外せばなんとかなるかもしれない。


「これだ」


 義手の中のコード束から赤いコードを見つけた。リミッターだ。これを引き千切ればいいはずだ。


「誰かナイフか何か切る物持ってないですか?」


 他の三人に聞こえるように声をかける。


「マルチツールなら……」


 そう言って立ち上がったのは意外なことに夏凛ちゃんだった。彼女はボクの腕を見て多少驚いたようだったけれどこっちまで近づいてきてくれた。そしてパーカーのポケットから銀色の物を取り出した。

 マルチツール。十徳ナイフとも呼ばれるそれは、ナイフやコルク抜き、ドライバーなどが一つになった道具だ。確か警視庁が災害用に所持を推奨していた物だったはずだ。

 でもこの歳の子が持っている物だろうか。不思議な気はしたけれど、差し出されたマルチツールを受け取った。


「借りるね」

「はい」


 さっそくナイフを引き出して赤いコードを切断する。小さな機械音がしたが気にしないことにする。

 これでいいはずだ。これで普通より力が出せるはずだった。

 試しに洗面台の蛇口を思いっきり握った。蛇口の真ん中が潰れた。リミッター解除には成功したみたいだ。あとはこれがスペース・アンノウンに通用するかどうかだけだった。


「それでどうするつもりなの?」


 厳しい目つきで真琴が聞いてくる。その目を直視できなくて、ボクは目を逸らしてしまった。


「……外の二体を誘き寄せるために使う」

「やっぱり囮になるつもりなんだね」

「これしかないと思うんだ」

「他にもあるかもしれないでしょ?」


わかっている。でも今はこうする他ないんだ。


「あったとしても考えてる時間なんてない」

「……、」

「大丈夫だよ。死んだりなんてしないから」


死ぬわけにはいかない。だって死んでしまったら責任を果たせなくなってしまう。真琴を守れなくなってしまう。たとえ死ぬとしてもそれはみんなを安全な場所まで逃がしてからだ。それまでは絶対に死んだりなんかしてたまるか。


「……約束して」


真琴が呟くように言った。


「絶対に死なないでね。約束破ったら、絶交だから」

「うん、わかったよ」


この約束は絶対守らないと。真琴と絶交するのは嫌だから。

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元サブヒロインが返り咲く方法 水無月ナツキ @kamizyo7

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