第5話 嘘と悲惨
古城 談話室
談話室というのはふさわしくないかもそれないが、ここではエリスト達が作戦会議をするときに使う。暖炉があり、大きな机が置かれ、そこにパルテンの地図がある。今そこにはテッダムに収集されたエリスト達が集まる。数人が談笑をし、数人が黙り込んでいた。その中に無事エリストとなった、ノーマンがいた。しばらくすると、テッダムが木製の門を開け談話室に入ってくると、談話室は静かになる。
「では、始めよう」
全員の顔つきが変わる。先程までを話していたとは思えないくらいに。
「今回はキザ王国奪還である」
キザ王国とは比較的新しくできた王国であり、ネサルトの魔の手から外れた、数少ない国であった。しかし、最近王国が奪われたといわれるようになった。
「キザ王国はまだ奪われて、そうも経っていない、しかし気を抜くなよ」
「ハッ!」
「我が隊はひとまず森に待機しているキザ王国軍と合流をし、奪還を果たす」
「ハッ!」
「合流は4日後である、 以上だ」
「ハッ!」
テッダムは談話室を出て行く。そしてそれに続き次々と談話室から出て行く。
「王国軍はなにをしてんだか」
トークがノーマンの後ろでつぶやく。ノーマンはすぐには答えられなかった。
4日後
テッダム率いるテッダム隊はエリストの本拠地を離れ、馬を引き連れキザ王国軍との合流地点を目指す。ノーマンは30人ほどいる列の真ん中付近におり、隣にはトークがいる。
「ついてないな」
「何がです」
「お前、まだ白魔法使いこなせてないだろ」
「ああ、テッダムさんに一応見てもらったんです。そしたら"上出来"とだけ」
「上出来!? すごいなお前」
「お世辞だと思ったんですが」
「作戦を決行するってのにお世辞は言わねーだろ」
二人が馬に揺られながら進んでいると、いきなり列が止まる。
「なんだ」
周りの空気が重くなりだす。
「構えろ」
テッダムは近くにある木陰を指す。隊員達は剣を刺された方へ向け、構える。すると、木陰からいきなり人影のようなものが現れる。
「きたぞ!!」
テッダムは木陰からの影を白魔法で押し付ける。それを合図に横からも影が攻めてき、隊員達が立ち向かう。襲ってきた影を剣でつき刺すと影の荒々しい雄叫びが、ゼェーゼェーという弱々しい息音に変わる。攻撃が止み、あたりは静けさを取り戻す。
「まだ、構えていろ それと衛兵、彼の手当てを」
男が一人倒れていた。さっきの奇襲で矢の攻撃を受けたのである。テッダムは倒れた男から離れ、押さえつけた"もの"の方へ向かう。
それを見ていたノーマンもテッダムの方へ向かう。
「構えていろと言ったはずだが」
「すいません、、」
「だが、敵を知っておくべきでもあろう」
テッダムがそう言うと影の正体が明らかになった。
「これは」
「ズゴドだ」
影の正体はズゴドであり、顔が細長く、目つきからは喰い殺すかのような殺意が漏れ出していた。
「どこから来た」
「ゼゼぜ」
ズゴドはどうやら弱っているようであった。これは白魔法の効力によるものであると、ノーマンは分かった。
「皆殺し皆殺し皆殺しみなごっ」
テッダムがズゴドの首を刺す。
「構えやめ、全員馬に戻れ 合流地点はまだだ」
隊員達は馬に戻る。しばらく進むが、襲ってくる気配もなく、あっという間に日が沈み始める。
「今日はここで休む 火をたけ」
日が落ちると、空には追い切れない数の星が輝く。火は三箇所に焚かれ、交代での見張りがあり、食料が配られる。ノーマンは今、焚かれた火に手を向け、じっと見つめている。
焚かれた火が何度もあの恐ろしいものの顔を作っているように、ノーマンには見えた。ノーマンが火を眺めていると、トークが支給された食料を持ってくる。
「これを食ってると、普段の食事の方が百倍マシだと思える」
ノーマンも口にしてみるが、食感はパサパサしており、味はわずかに感じ取れる塩のような味のみであり、とても美味しいとは言えるものではなかった。
「これは、パン?」
「エリスト特製のな」
トークは呆れているような顔をする。
「なぁ、お前はなんでエリストになったんだ、、故郷でも失ったのか」
「ええ、まぁ トークも故郷を」
「やっと口調が柔らかくなったな、ああ住んでた王国が襲われてな、そんで力になりたくて」
そう話していると、トークに誰かが話しかけてくる。
「トーク、テッダム隊長が呼んでるよ」
話しかけてきたのは、赤髪の女性であった。
「おうおう今行く」
トークが立ち去り、変わるかのように赤髪の女性が座ってきた。
「私はアーシャ、あなたがノーマンね」
「ええ、はい よろしくお願いします、、でもなんで名前を」
「トークが言ってたわ」
しばらく沈黙が続き、焚かれた火のパチパチという音が際立つ。
「トークは明るくしてたけど、悲惨な思いをしてきてね、エリストにはそういう人達が多くて、みんなネサルトに身内を殺されて」
アーシャは火に目を向けるが、火が出す光はアーシャの瞳の奥には届いていないようであった。
「悲惨、、一体どんな」
ノーマンは言葉が詰まる。
「告げ口みたいだけど、、トークは王国出身じゃなくてある村の出身なの」
ノーマンはさっきの会話を思い出す。
「トークは隠して明るく振舞ってるの」
するとトークが忍び込むように二人の会話に入る。
「そうか、ばれちまったか、、ハハ」
トークの表情は暗い。火が作る影のせいで余計、暗がりを増す。
「俺の村は10年くらい前に襲われてな」
トークが口を開ける。
「俺たちは避難所で隠れてた、大人たちが武装してて怖かった。そんで隠し通路で外出てさ、みんなそっちに向かって、俺もかーちゃんと妹とさ向かったんだ」
ノーマンがいる火の回りにいる者たちの数人が、耳を傾ける。
「とーちゃんはいなくて、避難所を出たら炎が見えた、あれが多分、村だったんだな。かーちゃんは俺らにそれを見せないようにしてたよ、かーちゃんたち自身も、見ないように下向いてたし」
いきなりトークの表情が変わった。眉間にしわを寄せ地面を睨む。
「逃げてたらあいつらがきやがった、、、あいつらが数人弄ぶように殺して、その後、押さえつけて無理やりなんかを飲ましてた。飲まされたやつは、悶え苦しんでてなぁ」
トークの怒りが上がってくるのが伝わった。
「なったんだ、悶え苦しんでた奴が 、あいつら"ズゴド"に」
すると誰かが"黒水"か、と呟く。
「そんでなった奴らが、仲間を殺し始めてなかーちゃんが俺に逃げろって言ってきて、妹と」
トークが涙を流す。話はそこで終わり、皆は寝つき始めた。
「みんな、こんな想いを」
ノーマンが布団の中で呟いた。
パルテン物語 H.H.giger @5120
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