“Form their ranks for armageddon”
狩人全滅! 任務はおつかいだったゾ!
――「……の痕跡を確認。複数の精神刺激薬、又は幻覚剤を使用していた模様。だが攪乱行動の可能性は否めない」
ペストマスクを着けていると話し辛いったりゃありゃしない。鴉の嘴みたいなマスクの先に詰めてある香草だけが救いだよ……
視野は狭まり死角が増える。これは致命的なミスでしょ。加えて防弾スモークレンズは薄いし……
毎回思うんだけどコレに『拡変声機能』と『各種通信機能』を搭載できるなら、マスク外部に小型カメラでも埋め込んで内部のモニターに周辺の情報を表示させる機能を付けてくれってーの。
やはり開発班の連中はどこかズレてるわ。
折畳式衛星通信携帯型端末装置が良い例だよ。
ディスプレイと番号登録機能を付けておいて、肝心の番号表示機能とマナーモードは付いてないし……なーにが「こちらにも仕事が有りますので、標準装備以外は事前予約と別料金が必要になります。新機種に変更する事を推奨しますよ?」だ! こっちは生死の瀬戸際で仕事してるんだぞ! それぐらいの機能追加はサービスしろっての! そもそも、思い入れがあるから態々この古い型のコレを使ってんだろ! 言わせんな、恥ずかし……
《こちらHQ、了解した。『例の件』は、もう暫くかかりそうだ。上からの支援は無いと思え。お前達は引き続き侵入者を追跡しろ。見つけ次第どうすれば良いかは解っているな? 手段は問わない、やり方は任せる。私は暫く離れるが、良い報告を期待しているぞ……以上》
はいはい、いつも通り『処理』すれば良いんですね……
「こちらSW-009、りょーかい。通信を終了する……っと」
全く、もー……ほーんと簡単に言ってくれますわ。
侵入を見過ごしたのは『あの人』の責任だってのに、偉そうにしやがって……
しかも、この任務に失敗したらワタシが責任を取らされて超絶怒られるのは間違いないってんだから納得がいかない。減給処分なんて事になったら、同志を集めてクーデターを起こしてやる。
「とは言え……この作戦には間違いなく人命が懸かっている」
ワタシの行動によって救える命が、間違いなくあるのだ。
情けない恨み言を言っている場合ではないのだ。
命令通りに対象の追跡を続けるしかないのだ。
今はそう思い、自分を納得させるしかないってのが泣けるのだ……
ってか『例の件』って何だっけ?
今更、尋ねる訳にもいかないし……ま、どうせ大した事じゃないだろうし任務に戻ろう。
「複数の足跡は……やはり研究所に向かっているらしいね」
ってか思ったんだけどさー……ようやく帰宅が許されたと思った矢先に『コレ』だなんて、おかしくない?
お風呂から上がって出前が届くまで携帯電話で適当に衛星画像を見てたら、変な場所に『残り火』を発見しちゃうとか笑える……報告しないで無視すりゃよかったと切実に思うわ。
はぁ……もぅマジ無理、気分が乗らない。
今医療キットから注射器取り出した。
興奮剤を使っちゃおっと。
これは『methamphetamine』を主成分とした研究所純正品なので、さっき拾った粗悪品とは比べ物にならないくらい効き目が違う。
どれどれ、さっそく使わせてもらうとするよ。
「あぁ……疲労がボーンっと飛んでいく。鬱予防には最適だね」
おっと、言い忘れたがコレは薬袋に針が直接付いているので片手で扱える優れものなのだ!
更に使用後の廃棄物は数分で完全に分解され土壌の1部となるので、環境や任務に考量した素晴らしい1品となっているのだ!
「 ……まぁそこらへんに捨てる訳にはいかないのけどさ!」
分解メカニズムに関しては余り解らないけど、ワタシが開発班に『助言』して作らせたから高性能と言うのは言うまでもない。
「……にしてもアレだねぇ」
こうして荒野に居ると、自然豊かな『森で囲まれた』研究所が如何に恵まれているのかを痛感する。
水分に飢えた強風が吹き荒ぶ、砂埃塗れの何も得るものが無い見捨てられた大地で暮らしていたら気が狂っても不思議ではない。
現に、このマスクと革手袋と特殊加工を施した『フード付コート』で出来るだけ素肌を隠さ無いと瘴気に晒され正気を失ってしまう……らしいのだ。
そう考えれば、この動き辛くて不便でダサい装備1式に感謝しなければならない。
「おい『SW-193』。後任の為に、ここまでのログを『Head Quarter』に転送しておきな。それと日没までの猶予は?」
ワタシの護衛という大義名分で戦闘用新型Android『Slave Wraith』の何度目かの動作テストをさせられているのだが、この『SWシリーズ』はいつ見ても不気味だ。
表情からは何を考えているのかさっぱり解らない。何も感情を読み取れないと言うべきか……
研究所に居る『他の奴ら』とは大違いだ。
コイツには頭髪も無いし……せめて服を着せろと毎回思う。
この名前と見た目から、今まで捕虜にした人間の内蔵を取り払い、生理機能等を調整する為に電算機や、その他諸々を腹と頭にぶち込み、206の骨を原子核転換により超重元素へと再構築した改造人間がSWシリーズの正体だと軍人達は噂しているが……まさかな。
「……」
こうして遥々絶対防衛線を越えて、地雷原で神経を磨り減らさにゃならんなんて……
危険手当ても残業手当ても出ないし、これじゃ誰が『奴隷』か解らない。
とほほ……さっさと終わらせて家に帰ろう。
「おい、SW-193。聞いてるのかい?」
SW-193は瞼を閉じていて、時折痙攣するだけでワタシに反応しない。データリンク中か?
「……」
いや、これは……
「寝るんじゃないよ!」
えぇい、またか! コイツの後頭部を開いて再起動させるのも面倒だと言うのに。
「……System activating safe mode……Neural network……Online……」
「起きたかい?」
「おはようございます。どうかしましたか? 『Hunter』よ」
SWシリーズ特有の、単調で抑揚のない話し方がワタシの神経を逆なでする。
こいつは戦闘用モデルだから仕方ないとは言え……どれを取っても腹が立つ。
「なーにが『どうかしましたか?』だ。アンタは暫く寝てたんだよ」
「……あぁ、申し訳ありません。深刻な問題が発生したので再起動を試みていました」
「これで何度目だい? 施設を出てから600秒も経過していないっていうのに……」
これでは720秒の運用試験に耐えたという、開発班のレポートに対しての信憑性を疑う。無能共めが、本格的に恨むぞ……
「先程の再起動を含めると8回目になります。それで『Windy』よ、何か問題が?」
「だ! か! ら! 恥ずかしいから、その呼び方はしないでって……ごほん、するなと言ってるさね」
つい熱くなってしまった。薬の影響で情緒が不安定になっているのかもな。
周りに誰も居ないから良いものの、2つの意味で恥ずかしいったりゃありゃしない。
「なら何と呼べば? 前にも言いましたが、作戦行動中にパートナーを呼ぶ時はコードネームを使えとプログラムされています」
「なら愛称を使うな……アンタ、アンドロイドってよりオンボロイドだね」
「質問の意味が解りません」
このポンコツめ……ワタシを馬鹿にしているのか?
折角、渾身のギャグを披露してやったんだから少しくらい笑えと思ったが無理な話だったな、物理的に。
「はぁ……もういい、ワタシが悪かった。さっさと予測到達地点に向かうよ」
「はい『Sorrow・Wind』よ、急ぎましょう。でないと絶対防衛線を越えられてしまいます」
「あのさぁ……」
おまえのせいで遅れてるんだろうが! 帰ったら鉄屑にしてやる……
「音声から生体機能の歪みを検知。些か神経が昂っている様に思えます。興奮剤を使用したのですか?」
「ご明察。アンタと居ると、どうにも調子が狂うからね……使わずには要られないよ」
64時間以上寝てない上に興奮剤を使ったとは言え、機械に対して感情を昂ぶらせてしまうとは情けない。
「空間転移直前に投与した新薬の副作用でしょう。依存性や幻覚作用は少ないと報告されていますが、過度の摂取は……」
コイツはワタシの話を聞いていないのか? 今さっきも使ったと言っただろ……
「はいはい、わかりましたよ。健康管理までしてくれるなんて、さすが丹野教授の最高傑作だけの事はあるね」
「有り難うございます」
「褒めとらんわ!」
えぇい、この任務を終えたらレポートに『イヤミ』検知機能の必要性をまとめて、開発班に提出してやる。
「周囲の音波振動解析の結果、有意差は認められませんでした。さぁ『弔風の狩人』よ、任務を遂行しましょう。座標をデバイスに転送しました、確認を」
やはり話が噛み合っていないらしい。ワタシが悪いのか? いや、考えるだけ時間の無駄か。
「はぁ……もう良い」
あぁ……家に帰って小次郎と遊んでベッドで寝たい。
そう切実に思いながら、空間転移システムを起動させる為、左手甲に着けたデバイスを操作するのだった――
奇蹟の犠牲者 渡烏 @slave_wraith
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