爆死ラグナシア! エイハブの恐るべき黒焔柱





「やめて、ゆぅくん! それ以上いけな……」



「レイ准尉、戦闘不能! よって勝者、学園ピークォドのユウ選手!」



隊長が仲裁に入り、なんとか事無きを得た。


拘束を解いたゆぅくんも自由になったレイさんも、隊長の存在に今気づいたみたい。



「隊長……」



「アーミー隊長! 僭越ながら、まだ私は……」



「上官に歯向かうとは営倉行きだぞ、レイ准尉! 第一こちらに御座すユウくんを何方と心得る! 畏れ多くも『特務大尉』であるぞ、頭が高い! 控え居ろう!」



「いやでもアーミー隊長……」



「でも、じゃなーい! さっさと犬達に警備の交代を伝えてこい! でないとケツに角砂糖ぶち込んだあと軍旗に包んで薬中共にプレゼントしちまうぞ!」



「Yes Sir……」



レイさんは居住施設の方向へと、とぼとぼと走り去って行った。



「ユウくん、部下が失礼をして悪かったの。イクミにも情けない所を見せてしまったな。あそこまで教育が行き届いていなかったとは……」



「そう自分を卑下なさらないで下さい、隊長。貴方は十分に務めを果たしておられる」



そう言うゆぅくんの眼は、いつもの優しさを取り戻していた。



「そうですよー。隊長さん達のお陰で研究所は、こうして平和なんですからー」



「2人とも、有り難う……おっと、ワシは早主任に急ぎの用事あるから行かなくては! さらばだ!」



そういうとアーミー隊長は軽く敬礼し、笑いながら実験棟へと走り去ってしまうのであった――





――「……って教官から習ったけど、ここの人達は再び世界の覇権を握ろうなんて物騒なこと考えてないって訳か」



「あ、あたりまえでしょー。そ、そんなことして何になるっていうのよー。あははー、ゆぅくんってば可笑しなこと言うのねー」



「なら国家同士の戦争ってのは

? その時に使った核兵器によって文明が崩壊したって……」



「あのね、この話は機密事項なんだけど……実は『黒い者』が世界を焼き付くしたらしいの」



「黒い者?」



「うん。ゆぅくん、聞いたことない? 『ムスペルの子供達と炎の巨人』の話」



「あー……神の国を襲撃したあと『裏切りの杖』を用いて『この世界』を作り上げたって話でしょ? 知ってるよ」



「あら意外ね。教会都市で暮らしてるのに、そこまで知ってるなんて」



「有名だからね、おとぎ話として。教官は、背徳行為だからって話したがらないけど、前にデズから聞いたことがあってさ」



「そうなのね。この話が事実なら神サマの大失態だもん。教官さんが話したがらないのも無理ないわ」



「だね、信仰が揺らぎかねない話だ。事実なら世界が変わる程の……」



「でねでね! そのあと黒い者はどうなったか知ってる?」



「世界に火を放った後の行方? そういや知らないな……みぃちゃんは知ってるの?」



「あのね、昨日パソコンで昔の資料漁ってたら、たまたまスゴいデータ発見しちゃったの。いい? 驚かないでね? 黒い者は……なんと『化け鯨』に食べられちゃったんだって!」



「へー……マジか。ソレはスゴいね、スゴーい……スゴいスゴい。ゴイスー。みぃちゃんは何でも知ってる研究員なんだねー」



「あー、ゆぅくんってば信じてないでしょー? せっかく最高機密情報を教えてあげたのにー」




噴水のある中庭で、まったりした時間を過ごすって有意義だなー。


ゆぅくんと一緒にベンチで腰かけられるなんて、ここ数日寝ないで研究を頑張ったご褒美かなー。


何気ないことだけどスゴく幸せだなー。


だけど、さすがに眠気が……やばいかも。




「ごめんごめん、信じてますって。みぃちゃんが俺にデタラメ言う訳ないもんね。ってか、その化け鯨ってまさか……」



「うん……ラグナシアさんの件の『白鯨』……それで合ってると思うわ」



「だとしたら、なんで教官は……あんなにも執着して……」



「そう言うところも含めて教官さんらしいじゃない。それに……ふわぁ……」



あ、やばっ! あくびが勝手に……


しかも、ゆぅくんにバッチリ見られちゃってるし!


どうにか誤魔化さなきゃ!



「わぁ……わふー。い、いきなりだけど、コタのモノマネしてみましたー! わーい、ゆぅくん遊んで遊んでー! わふー」



良くやった私! なんとか上手く……



「……みぃちゃん、やっぱ眠いんでしょ? 千景さんの話だと、一昨日から碌に寝てないらしいし」



うわぁぁーん! バレてるー!


あくびのバカバカー!



「そ、そんなことないわ。全然へーきよ?」



「強がらなくて良いよ、退屈な話させちゃってゴメンね。無理しないで部屋に戻……」



「やだやだー! 折角ゆぅくんが居て、こんなに天気も良いのに……それに、寝てる間にゆぅくんが居なくなっちゃいそうで……怖いの」



急に襲ってきた眠気のせいで、うまく思考が回らなくて、つい思っていた言葉を口にしちゃった。



「そっか……なら俺の『ココ』使って良いから少し休みな」



そう言うとゆぅくんは、私の頭に優しく手を回し、自らの太股へと誘ってくれる。いわゆる膝枕というやつだ。


その枕は少し固いけど安心感がスゴい。


日々訓練で鍛えている逞しい足の筋肉を布1枚を隔てて感じる……



「ゆぅくん……」



嬉しくて、恥ずかしくて、顔が熱い。


今の私の顔は真っ赤っ赤だって鏡を見なくてもわかる。


もう……ゆぅくんは何の下心もなくこういうことするからズルいよ……頭を撫でてくれてるし……



「大丈夫だよ、みぃちゃん。こうすれば俺は動けないでしょ? だから安心してお休み。俺はどこへも行かないよ」



「……ほんと?」



「うん、本当だよ。今の俺は、みぃちゃんだけのものだ」



幸せ……本当に幸せだなぁ。


生きてて良かった……


傾き始めた太陽に影を落とす鴉の群を視界の端に捕らえ、私はゆぅくんに髪を優しく撫でられながら微睡みに身を任せるのだった――









――そして付近の残骸から鑑みるに、どうやら昨晩は『お楽しみ』だったらしいね。低俗な行為だ……SW-193、周辺の鴉を追い払っておくれ。



了解、Siriusを起動し……



待ちな! そんな物騒なもの使うんじゃないよ! 良いかい? こういう風に近付いて、少し脅かしてやればいいだけさね……さぁ、そんなもの食べてないでさっさと研究所へ帰ん……なんだい、この『アンプル』は? 馬鹿に沢山転がってるけど……未使用のもあるね。



硼珪酸ガラスを用いているようです。他のガラスに比べて二酸化珪素の割合が大きく……



違う、そうじゃない……聞き方が悪かったね。うん、反省反省っと。今ワタシがアンタに投げ渡したアンプルには何が入っていたのか判るかい?



……解析完了。残留液より『精神刺激薬』と判明。



はぁ……やはりか。いや待てよ、ただのカフェインという線が残っているね……詳しく説明しな。



残留液より『間接型アドレナリン受容体刺激薬』と判明。



ほぅ、それで?



説明は既に終了しています。



……え、説明アレで終わり!? いやビックリしたわー。確かに詳しくって言ったけど、まさかソコだけ詳しく説明するとは予想してなかったわー。しかも説明が超ザックリしてるし。



貴方ならば、御存知のはずです。



いや、確かに知ってるけどね。こーいう時は、その……何て言うか、雰囲気的にアレを述べるのが定番じゃないかい。ワタシが求めているのが何かわかる?



中枢興奮作用を持つ『Alpha-methylphenethylamine』通称『Amphetamine』は『西暦』1887年に『Romania』の化学者 『Lazar Edeleanu』が……



もー待ちな、ワタシが悪かったよ。今の説明で『アンフェタミン』ってのは解ったけど……いいかい? 今、必要な情報だけで良い。主な使用用途とか、どんな作用があるのかーとか。



本来は注意欠陥多動性障害に適応されるのですが、医療用として使用するにしては高濃度低品質です。



やれば出来るじゃないかい。つまり不良品もいいとこって事だね……その調子で続けな。



恐らく素人の手によって配合されたのでしょう。使用者に幻覚や幻聴をもたらし、運動機能、知覚、感情に著しい障害を与えます。残念ですが手作り珈琲ではありません。



やはり人間性を殺す薬……か。低濃度でも十分効果が有るってのにねぇ……勿体無い。そんな粗悪品を、焚き火を囲んで大量に使用した形跡がある。つまり……



医療及び保健指導を司る医療従事者の回診……と回答するつもりなのでしょうが、熟練の『狩人』にしては聊か合理性に欠ける結論の至り方です。もう一度、初めから考え直すことを提案します。



あのさぁ……そんな馬鹿みたいな結論付けをする訳ないでしょ?! これ程のゴミと『成人2人分の肉付き骨』を医者が荒野に放置するとか明らかに状況がおかしいじゃん! 馬鹿なの? 死ぬの? ねぇアンタ、さっき言ったよね? 『殺害された後、7人に捕食されたようです』って! それを……寝るなぁ!! ――





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