「河合レリー」の家にようこそ!
神凪紗南
第1話
「桜、きれいですね」
僕は、上を見上げます。
「なんたって、何十年も俺達生徒を見守ってくれているからな」
僕の前に座っている少年も、同じように見上げます。
前髪をかきあげていて、活発に運動でもしていそうな、爽やかな好青年です。実際、バスケットボール部に所属していると言ってましたっけ。
「明さんは、よく知ってますね」
「まあ、1年もこの学校に通ってたらなー」
確かに、1年間は、それなりに長く、色々な物事を知るのに、十分な期間です。
一方の僕は、先日、この私立神流(かんな)高校に転校したばかりで、教室の場所すら把握してない、体たらく。
彼、この夕空明(ゆうくあきら)さんは、そんな僕の初めての友達です。
転校早々、かなり緊張して、周りから少し浮き気味・・・。
変なことは、してませんよ。ええ、してませんとも。
自分の紹介時に、激しく転んだくらいで。
とにかく、僕は教室に居づらくなって、この場所。たくさんの木々や花が植えられたこの中庭で、一人で昼食をとってました。
まさか、この僕が、ぼっち飯をするなんて。ううっ。
それで、今後の学校生活に少し憂鬱な気分になっているときに、彼が現れたのです。
『へえー。この場所、俺しか知らないと思ってたけどな』
そんな声が、上からしました。そして、見上げると、彼が幹に寄りかかって、太い枝の上で寝転がっていたのです。
まさか、先客がいるとは思わなかったので、驚きで目を見張りました。
『ん?』
その様子を見て、彼も不思議そうに、首をかしげながら、僕を見つめていました。
そして、枝から、トンと、降りてきました。
それなりの高さがあったので、その軽やかさも、僕が目を見張る原因でしたね。
彼は降りてから、僕の方に近づいてきました。あともうちょっとで、くっつくぐらいに。
そして、じーっと、僕を見つめてきました。
『あの、僕の顔に何か・・・?』
やっと、頭が働いて、言葉を出せたので、尋ねました。
彼は、その言葉にはっとしたようで、後ろに下がりました。
『いやー、悪いな。ちょっと、知ってる奴に似てたもんで』
そう、彼は笑いながら、答えました。
『あ、そうなんですか』
僕も笑って、返しました。
『ちなみに、お前、兄貴とかいる?』
彼は、そのノリのまま、聞きました。
『一応、いるには、いますが・・・』
とは、言っても、僕はあの兄に似てないことは、自負しています。ぶっちゃけ、あの人と本当に兄弟かどうか、甚だ疑問です。
と、僕は一人考えこんでいたのですが、
『ふーん、あいつのね・・・』
彼は、そうつぶやいてました。兄と知り合いなのでしょうか?
『あ、こっちのことだから、気にすんな』
僕は、気になって、しょうがなかったのですが、このときは、初対面。切り込む勇気がなかったんですよ。
『お前、見かけないよな。新入生?』
『いえ、転校したばかりで。2年です』
『2年って、俺と同い年じゃん。タメ口でいいぜ』
『いえ、これは僕の癖で』
『なんだよ、それ。変わった奴』
彼は、そうカラカラ笑います。
おお、これは手応えあり。なかなか、テンポよく会話できています。
『これから、昼飯なのか?』
『は、はい!』
一緒に、お昼を食べるチャンスでは!
『よかったら、お昼・・・』
キンコーンカンコーン。
時間は、無慈悲に過ぎていたのでした。
ああ、せっかくのチャンスが。
僕はうなだれました。
『くくっ』
その様子を見て、彼は笑ってました。彼、笑い上古なのでしょうか?
『残念だったな。昼飯抜きで』
それもそうですが、僕が重要視していたのは・・・。
『俺、いつもこの時間は、ここにいるからさ。明日から、一緒に集まろうぜ』
『いいんですか!?』
僕は、がばっと起き上がります。
『だって、お前と過ごしてたら、飽きなさそうだからな』
彼は、僕に手を差し出して、
『俺は、夕空明。よろしくな!』
『僕は・・・』
「おーい、どうしたー?」
明さんが、手を振っています。
「はっ」
そして、意識が戻りました。
「やっと、気づいたか。何やってたんだよ」
「いやー、僕たちの出会いを」
「出会いって、まだ、1週間ちょっとだろ」
「でも、僕にとっては、大切なものなんですよ!」
僕は、力説します。
「はあ」
明さんは、少し引き気味です。
「それに、こんなことになって。それでも、僕を受け入れてくれたの、君だけですから」
「確かに、最初は、驚いたけどな。でも、友達の言うことだし」
「明さん・・・」
「こんなおもしろいことが起こるなんて、俺の目に狂いはなかったってことだな」
「ちょっと!」
ダンと、机を叩き立ち上がる。僕の感動を返してほしい。
「ははっ。それで、そいつはいつ来るんだ?」
「購買行ってからだから、もうすぐだと思うけど」
「おまたせ~」
来た。
今回の昼食は、僕ら2人だけじゃない。
この僕らの騒動の当事者。
後ろを振り返ると、黒髪で、顔立ちがちょい草食系で、平均的な身長の少年がいた。
その瞳に映る僕の姿は、背の低い、ふわふわしたくせっ毛の茶色いロングヘアーのとびっきりの美少女だ。
「河合レリー」の家にようこそ! 神凪紗南 @calm
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