第四十三回 ハロウィンライジング!、およびジャック・ド・モレーにまつわるクトゥルー神話要素について【FGO】

【初めに】


 はじめましての方ははじめまして。いつもの皆さんはお久しぶりです。恒例になったFGOフォーリナー案件解説回です。

 大変なことになりました。メガネ・TS・洗脳・淫魔化・まるのみを兼ね備えたとてつもない性癖サーヴァントが来てしまいました。ジャック・ド・モレーです。勤勉で清貧を旨とした委員長タイプのお兄さんがメガネだけをそのままに破滅的なドスケベお姉さんになってしまったのです。これは調査しなくてはいけません。わかりますね?

 というわけで、今回はシュブ=ニグラスのフォーリナー“ジャック・ド・モレー”について現時点で分かっていることを解説しながら、皆さんからの情報提供や疑問・質問にも合わせてお答えしていくコーナーとなっております。

 コメントはこちらの記事のコメント欄で受け付けておりますので、気になることがあればどしどしご相談ください。

 とくに現在(2021/10/21)、イベントは始まったばかりであり、必要な情報もまだ十分出揃ったとは言い難い状況です。疑問、質問、考察、フランス語にまつわる知識など、何でも大歓迎です。ご協力、よろしくお願いいたします。


【ジャック・ド・モレーとシュブ=ニグラス】


 今回のハロウィンで登場したジャック・ド・モレーはシュブ=ニグラスによって送り込まれたフォーリナーと見て間違いないでしょう。

 第三再臨の宝具詠唱においても

「いあ、いあ! 森の王、豊穣の担い手よ! 夜の虚ろに現れ、星海の淵ぞ至りて讃えん!いあ、千の仔を孕みし森の黒山羊よ! 我が生贄を受け取り給え! 『13日の金曜日ヴァンドルディ・トレイズ』!!」

 と宣言しており、この『千の仔を孕みし森の黒山羊』というのがシュブ=ニグラスの別名であることから、これは確定です。


 シュブ=ニグラスについては以前、この作品の記事にまとめたので、こちらを参考にしてくださると幸いです。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054880900124/episodes/1177354054880926754


 ではそんなジャック・ド・モレーが何故シュブ=ニグラスによってフォーリナーにされてしまったのか。それについて説明していきましょう。


【シュブ=ニグラスとバフォメット】


 シュブ=ニグラスの信仰は地球上の地母神信仰と深く関係しています。地母神とはギリシャのデメテル、エジプトのイシス、イザナミのような、万物の母たる女神のことですね。多くは豊作や子孫繁栄を祈願する女神です。こういった地母神信仰は多神教の文化圏だけにはおさまりません。実は唯一神を信仰するキリスト教の中でも、聖母マリアに対する信仰が、伝播した土地の女神信仰と混交する形で育まれ、独自に発展したことが確認されています。これらは黒い聖母と呼ばれ、土地ごとの地母神への信仰が他の宗教の影響を受けながらも消えずに残っていた証拠とされます。シュブ=ニグラスの異名である『千の仔を孕みし森の黒山羊』というのも、こういった黒い聖母への信仰が元になったのではないかと推測されます。

 

 とはいえキリスト教において、そういった信仰は異端の存在。時には生贄などを伴った血なまぐさい儀式も当然ありました。特に豊作を願う儀式は生贄や性的な要素を含むものが多く、キリスト教の倫理にはそぐわなかった為、多くは悪魔崇拝とされ、土着の地母神たちも悪魔として貶められていきました。こういった地母神たちは、先程言った通りシュブ=ニグラスのモチーフたちです。英語圏ではヨーロッパ(例えばイギリス)の片田舎やのあたりを流浪したジプシーたちの間で信仰されていました。


 一方でバフォメットは黒魔術で人気でした。多産の象徴、両性具有、角、翼、古いヨーロッパの宗教儀式の要素も織り交ぜながら、それらはオカルトの象徴として受け入れられます。タロットの悪魔もバフォメットなくらいですからね。

 そしてそれらは大地母神の信仰や黒き聖母に繋がり、シュブ・ニグラスにつながっていった訳です。アメリカの有名な悪魔崇拝者アントン・ラヴェイは

「Many pleasures revered before the advent of Christianity were condemned by the new religion. It required little change-over to transform the horns and cloven hooves of Pan into a most convincing devil! Pan’s attributes could neatly be changed into charged-with-punishment sins, and so the metamorphosis was complete.」

「キリスト教の新しい教えによってパンのひづめと角は悪魔の象徴に変えられてしまった」

 と指摘しましたが、これはまさしくその通り。なお、パンはシュブ=ニグラスの化身として後の時代にクトゥルー神話の中に取り込まれています。パンの大神という作品ですね。パンの大神を書いたアーサー・マッケンにそんなつもりはなかったのでしょうが、これも一つの無辜の神格……でしょうかね。


【特異点の舞台について】


 そういえば、今大事な単語がでました。中近東です。今回の特異点ですね。クトゥルー神話的にはネクロノミコンが生まれた土地であり、無名都市が存在する重要な土地です。

 この辺りではシュブ=ニグラスを崇拝するジプシー(ロマ)の存在が描写されています。ドナルド・タイスン先生の『ネクロノミコン アルハザードの放浪』です。彼らは年に一度は人を殺し、淫靡な儀式で神を讃え、霊を見る力や豊穣を祈るとされています。

 クトゥルー神話的に重要なのは7~8世紀のイエメンのあたりなのですが、今回はゼノビアがメインストーリーに関わってくる関係で彼女の居た3世紀の中東(おおむねシリアのあたり)が舞台になっているのだと思われます。


【バフォメットとジャック・ド・モレー】


 さて、テンプル騎士団がとりあえず異教を悪魔扱いする為に使われた名前が“バフォメット”です。マホメットをもじったものではないかとも言われています。こちらも異教の預言者への祈りを歪めたものになります。

 ところがこれが大きく取り扱われたのがテンプル騎士団を破滅に追いやる際にフランスと教皇によって着せられた冤罪の罪状の中なのです。

 いわくテンプル騎士団はバフォメットを信仰している。ジャック・ド・モレーは悪魔に魂を売った、と。実際、異教の兵士に捕まった際の拷問や尋問に備える為に、そういった疑われるような訓練を行っていた可能性は否定できませんが、現実的に考えると、テンプル騎士団のお金周りがしっかりしていたのが権力者としては邪魔だったのでしょう。日本では厄介になる前にお武家さんがお金を借りて(返すとはいっていない)いたので、割とこの辺りはえげつないなりに大事にはなりづらかったようです。どこの国もそこらへんは一緒ですね。


 さて、このバフォメットが時代が進むに連れ、山羊のイラストや錬金術、悪魔崇拝に取り入れられ、十九世紀の頃には現在の我々が知る山羊頭のバフォメットになります。そもそもバフォメット自体が最初は非常に曖昧な概念で、姿もはっきりしなかったのですが、テンプル騎士団の崩壊に疑問をいだいた人々や、彼らが悪だったことにしたい人々が「両性具有の像」などを持ち出して、山羊や蛇といった今日の悪魔バフォメットにつながる姿を生み出しています。

 大地母神とのつながりもそういった過程で出てきています。少なくとも最初のバフォメットに両性具有などのニュアンスはなかったはずなんですよ。


 というわけで無辜の性転換、本当に後の歴史が作った無辜の両性具有だった訳ですね。ところでこのモレーちゃん、無辜の怪物がありますよね。女性判定とはいえ、無辜ってても良いのではないでしょうか。どことはいいませんがほら、ね。そういうのも、今回はありじゃないでしょうか。


 なお、シュブ=ニグラスのモチーフとなった大地母神の神官も、男性の場合は女装をして仕事に当たる事が多かったそうです。やっぱりせっかくの無辜なのでモレーちゃんもありじゃないでしょうか。

 ちなみにキリスト教においては異性装は禁忌です。真面目苦労人銀髪メガネお兄さんがTSドスケベメガネ巨乳黒肌サキュバスなんてそんな……もっと盛ろうぜ! 個人的にはもっと無辜っていってほしいところです。


【まとめ】


 まだまだイベントは一日目。ひとまず基本的内容について簡単に説明してみました。ジャック・ド・モレーは歪められたものであり、バフォメットも作られた悪魔であり、シュブ=ニグラスはバフォメットをモチーフとしており、これらの相性は一つのキャラの中に詰め込むのに非常に相性が良かった訳ですね。

 宝具やスキルなど、まだ話したいことは数多くあるのですが、これから出勤しなければならないので一旦筆を置きます。

 今のうちにコメント欄などで気になったことや考察など情報を寄せてくれると帰ってから読んで記事に反映できますから、ぜひ応援お願いいたします。


 それでは次回までくれぐれも闇からの囁きに耳を傾けぬように。

 そしてブックマーク、星3つ、応援コメント、いいね、などを入れてくださるように。


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