解答編
4――どんでん返しは差別する
4.
「今の電話は、君のお兄さんかい?」
三船さんが私を見据えた。
あぅ~、聴こえちゃったみたい。スマホをいじってた私が悪いんだけどさ。
『先日は病院でお世話になりました、三船さん』
お兄ちゃん、爽やかに挨拶してる……。
凄いな~、全く動じてない。開き直ってるとも言うけど。
ていうかスマホをつなぎっ放しにしてた時点で、通話を咎められるのも想定済みだったのかな。
「やはり涙くんか」メモ帳にペン先を乗せる三船さん。「君には今までも恩があるから、今回も大目に見るけどねぇ」
『申し訳ありません、僕が妹に通話をせがんだんです。悪いのは僕なんです』
きゃ~、お兄ちゃんが私をかばってるっ。
私の盾になってるんだわ、こんなことされたら私、惚れ直すしかないじゃないのっ。お兄ちゃん抱いて! 子供作ろ!
「何なんだこいつは?」
語気を荒げたのは汞銀河だったわ。
予期せぬ部外者の登場に、へそを曲げたみたい。見れば、泰野洽湖も同調してイライラと指をくわえてる。
かなり神経質になってるわね。何か都合が悪いことでもあるの? お兄ちゃんに指摘されたらヤバイ隠し事とか……?
「お兄ちゃん、私は汞銀河が怪しいと思うんだけど~」
だから私、率直に尋ねちゃった。
途端に周りがザワザワとどよめいて、私を敵視する。
あ、しまった。汞銀河って人気者なのよね。迂闊に犯人呼ばわりすれば、敵意剥き出しにされちゃうのも仕方ないわ。
なっちゃんとりょーちゃんまで、私を非難する。
「あのさー、ぶしつけに名指しするのは良くないよー?」
「そうだよぉ。空気読んでよ空気ぃ」
友達二人にまで注意されちゃうとは思わなかったわ。
あいにく私はお兄ちゃん以外の男に興味ないから、汞銀河をかばう気になれないのよ。
『ルイ。ケーキの生地を作った汞銀河くんが最有力候補と思いがちだけど、それは的外れだ。生地に毒を混ぜたら、全員のケーキが毒入りになってしまう』
ガ――ン。
お兄ちゃんに否定されちゃった……私もう生きてけない。
「涙くんは誰が怪しいと思っているのかな?」
三船さんが先を促したわ。
お兄ちゃんはスマホの向こうでしばらく黙りこくったあと、わずかな呼吸を差し挟んでから開口する。溜めるな~。
『ケーキ作りを一番近くで手伝ってたのは、泰野洽湖さんですよね?』
「!」
断言しちゃった!
お兄ちゃんは汞銀河に最も親しい彼女の名を、ずばり発したのよ。
取り巻きの生徒たちも黙っちゃった。さっきと違って誰も騒がない。それもそっか、汞銀河のファンにとって、恋人は嫉妬の対象だもんね。捕まれば逆に喜びそう。
元カノの私市油見も、こんな視線を浴び続けてたのかな~。
「わたしが? ケーキに毒を? 冗談はやめてよ」
言うまでもなく、泰野洽湖は反駁した。
私のスマホに血走った視線を向けるや否や、今にもひったくって床に叩き付けそうな勢いよ。怖っ。スマホがテレビ通話じゃなくて良かったわ、お兄ちゃんと顔を合わせたら取っ組み合いになりそう。
「わたしがどうやって、サボり女のケーキだけに毒を混入したの? 毒は完全ランダム、無差別殺人でしょう?」
『殺人未遂だけどね。今どき、市販の農薬じゃ死ねないよ』訂正するお兄ちゃん。『やり方は、あなたが一番よく判ってるだろう? ケーキ屋のアルバイトで同じように客を心理誘導して、モノを買わせてるそうじゃないか』
「!」
心理……誘導?
思わぬ言葉に、誰もが耳を疑っちゃった。
唯一、汞銀河と泰野洽湖だけが、ぎくりと見透かされたような焦燥を醸し出してる。図星だった?
「お兄ちゃん、心理誘導って?」
『アルバイト先のケーキ屋、接客上手で好調らしいね。接客は話術だ。客に狙った商品を選ばせるよう誘導するテクニックは、実際にあるよ。あるある』
誘導するテクニック~~っ?
「例えば、どんな?」
三船さんが興味をそそられたのか、すかさず催促したわ。
こうやって先を促すよう言葉を要所要所で区切るのも、話術だったりする?
しかも三船さんの催促が優先されて、泰野洽湖の反論は遮断された。うまいタイミングだわ。ここまでお兄ちゃんは計算してたのかな?
お兄ちゃんは語る。心理誘導の神髄を。
『例えば浪川奈津さんは、星型チョコが乗ったケーキよりも、ハート型チョコが乗ったものを選んだそうだね』
「あー、そーだけどー」
なっちゃんが面食らいつつも相槌を打ってる。
『これが誘導です、三船さん。似たようなトッピングを並べて比較させれば、奈津さんは自分の趣向に合った方を選ぶに決まってる。人はモノを見比べたとき、馴染みのあるモノへ手を伸ばす習性があるんです、あるある』
「へぇ……」
『ルイもそうだったね』
「え、私?」
私、自分で自分を指差しちゃった。
『ルイは手近なケーキの中から、地味でも豪華でもない中間的なケーキを選んだね? 最も無難なケーキを』
「うん、そうだけど~……」
『これは心理学で「極端回避性」と呼ばれる作用だ。人間は選択に迷ったとき、極度に新し過ぎたり古過ぎたりするモノを避け、最も当たり障りのないモノを取る。手品でも、見物客にカードやペンを選ばせるとき、派手な絵柄やデザインよりも目に馴染んだ市販品を手にする傾向があるのさ。あるある』
ほぇ~、知らなかった。
確かに私、三つあるケーキのうち、トッピングのないケーキでもなく、チョコペンで派手につづられたケーキでもなく、普通の星型チョコを選んだわ。
『洞本涼花さんは、白い皿のケーキを取ったらしいね?』
「えぇまぁ」
りょーちゃんが怪訝そうに私のスマホを見すえる。
『配膳にはいろんな皿が使われたようだけど、白い皿に乗った黒いチョコケーキは、色合いが対照的だ。白と黒……コントラストが鮮やかだね。これはそのまま「コントラスト効果」と言って、人は見栄えのする方になびかれる心理があるのさ。あるある』
「じゃ~お兄ちゃん、ケーキは各自ランダムに取ったように思わせて、実は全部、手に取る皿を心理誘導するレイアウトに並べられてたってこと~?」
『そうなるね。さらに聞いた話では、泰野洽湖さんがアルバイトするようになってから、商品棚のレイアウトを大幅変更したらしいじゃないか。これもまた、人にモノを買わせる心理誘導が応用されてたに違いない』
「あ~! それで業績が伸びたのね!」
『泰野洽湖さんは、バイト経験から「売れる法則性」を身に付けたんだろう。思い通りに商品を手に取らせる心理誘導……いや、もはや人心操作だ』
「人心操作……!」
『一方、汞銀河くんは話し方に特徴があったね、あるある。最初は早口でまくし立て、疑問形で末尾を閉じる。矢継ぎ早に情報を出し、徐々に語気を
あ~、そう言えばそうね。
ケーキを皿に取り分けたときも、汞銀河は最初だけ早口で能書きを垂れて、次第にゆっくりと言説をまとめてたっけ。語尾を疑問形にして、やんわりと――。
『これは心理学を利用した常套手段だよ。長ったらしい商品説明をダラダラ聞かされても客は飽きるから、出だしは早口でさっさと済ませるんだ。テンポが良ければ客の印象も良くなる。その後、ゆっくり丁寧に買い物を迫るのさ』
汞銀河も、心理誘導を利用してたのね!
決して誰かに教わったわけじゃない。彼らは職場経験を元に、自発的に編み出したんだわ。それがたまたま心理法則と一致しただけ。
何という『偶然の一致』!
人の心って、結局は同じ概念に
(人間は皆、普遍的無意識で一つに繋がってる――)
確か、思考の共有だっけ? 以前も話してたことあったわね。
「お兄ちゃん、こいつが妙にモテるのって、人心掌握する話術や仕草が得意だから? 自覚なしに、自然とそういう行動をしちゃってるのかな~?」
『あり得るね、あるある』
鷹揚に頷くお兄ちゃんの姿が、私には見えた気がした。
スマホ越しでも想像できるもん、お兄ちゃんの一挙手一投足。いつも見てるから判る。
『汞銀河くんは、シシちゃんにこそ邪険だけど、ケーキ作りは一級だった。ルイは彼を少し見直したはずだ……それすらも心理誘導だと知らずにね』
「え~、そうなのっ?」
『これは「認知的不協和」と言う。汞銀河くんは性格最悪だけど、作業の進捗はしっかりしてる……この相反する事象に、心は整合性を持たせようとして一つの錯覚をもたらすのさ。汞銀河くんは性悪だけど根は真面目なんだろう、ってね。好感度が上がるんだよ』
「不良が捨て猫を拾ったら良い人に見える的な? あれも心理作戦なのか~……」
「ば、馬鹿なことをぬかすなよっ?」
汞銀河が心外そうに抗議してる。がなる口調でも、最後は疑問符で終わってた。
彼は私のスマホに掴みかかろうとしたけど、慌てて三船さんと浜里さんが押さえ付けたわ。体を張ってくれてありがと~。
お兄ちゃんがさらに舌鋒を極める。
『君たちはケーキ屋で培った心理誘導を、家庭科でも実践した。まんまとシシちゃんの左利きを逆手に取って、皿の左側にフォークを配膳したモノを選ばせた』
「あ」
そ~か。
左利きに配慮した皿が、一枚だけあった。左利きのシシちゃんは当然、それを選んじゃうに決まってる。
毒入りケーキは最初から、シシちゃんにピンポイントで渡るよう誘導されてたんだ。
他の班員は違う皿を手に取るよう仕組まれてたから、横取りされる心配もない。
(実は無差別なんかじゃなかったんだわ!)
そう思い込まされた、心の罠だったのね。
『このように、ケーキはランダムで選んだように思わせて、実は仕掛け人の思惑通りに選ばされただけ……心理学ではよくある技巧さ、あるある』
「だとしたら、わたしの動機は何よ!?」血相を変える泰野洽湖。「今までサボり女とは何の接点もなかったのに!」
『君はシンデレラ・コンプレックスだ』
さっきも述べてた心理学用語だわ。
『君は汞銀河に心酔し過ぎてる……依存してると言ってもいい』
「だから何よ!」
『アルバイトも彼と同じ店を選ぶほどの、立派な依存症だ。しかも彼のケーキを多売すべく、接客話術も我流で極めた』
「そ、そうよ」
『それほどまで溺愛する彼氏を、かつて傷付けた者が居た……そう、元カノさ』
元カノ――。
二年一組の才媛、私市油見よね。
私はほとんど話さないけど、なっちゃんが仲良しなんだっけ。
『朔間学園は成績順でクラスが決まる。一組は優等生クラス、二組は次席だ。一組の私市さんは、二組の汞銀河くんを見下した。あまつさえ進学志望ではなくケーキ屋の跡継ぎだと知り、激しく侮蔑した』
「それがこの事件に何の関係があるんだっ?」
当の銀河もついにキレたわ。
失恋の古傷を蒸し返されたら、誰だって怒る。
『汞銀河くんは学歴コンプレックスに陥るほど、私市さんがトラウマだった。その憎しみを、泰野洽湖さんはシシちゃんにぶつけたのさ』
「は?」
お兄ちゃんの推測に、汞銀河は声を裏返した。
な、なんで私市さんへの怨嗟を、シシちゃんにぶつけるの? 二人は丸っきり別人なのに――。
「待って。キサイチって誰よ?」
――と思ったら。
泰野洽湖が、これまた面妖なことを問いかけたじゃないのよっ。
いやいや、キサイチって言えば、私市油見しか居ないでしょ。あなただってケータイのメールをさらしてたくせに。
『泰野洽湖さん、汞銀河くんの元カノを読み上げてみて』
お兄ちゃんがそそのかすと、泰野洽湖はもう一度ケータイを取り出した。メールの差出人に記載された『私市油見』を音読する――。
「
…………。
…………。
「えっ?」
「えっ?」
みんなが異口同音に呻いちゃった。
シシ? はぁ~?
「それ、シシじゃなくて『
私、こわばった頬を必死に動かしたわ。
シシちゃんと私市さんの『苗字が同じ』だと思ってたの?
泰野洽湖が気まずそうに黙る。やれやれとお兄ちゃんが溜息を吐く。
『沖渚の愛称は「シシちゃん」だった。それを聞いた泰野洽湖さんは、元カノと同じ響きだと思ってストレスを感じたんだ。あるある』
ないわよ、お兄ちゃん。普通ないわよ。
「変よそれ~。シシちゃんは二組で、私市油見さんは一組。この時点で別人だと気付くでしょ~?」
「そんなこと判ってるわ!」歯ぎしりする泰野洽湖。「同じ呼び名というだけで、わたしの中で憎悪がたぎるの! その響きを聞くだけで心の制御が効かなくなるの!」
『自白したね』ギシッと安楽椅子にもたれる音。『私市をシシだと思い込んだ勘違いが、ここまで歪んだ状況を生み出した……これだから心理は面白いよ』
「わたしは、ギンガが元カノを思い出しかねない要素を排除したかったのよ。そのために漂白剤をスポイトへ仕込んだのに!」
『ケーキを皿に切り分けたときだね?』
「ええ……ケーキに最も近付ける機会は、その作業時だったわ。家庭科室の漂白剤をあらかじめ別のスポイトに注入しておいて、沖渚が選ぶ予定のケーキに添えたのよ」
彼女が制服の袖をめくると、内側にテープで貼り付けたスポイトが数本あったわ。
ひぇ~っ。あれ全部、チョコソースに見せかけた漂白剤なの?
事前に隠し持ってたのね。予備まで何本も……。あのとき周囲の生徒は汞銀河に注目してたから、誰も泰野洽湖の仕込みに気付かない。ミス・ディレクションってやつね。
『汞銀河くんは学歴コンプレックスで、沖渚を嫌悪してた。それを見た泰野洽湖さんは、元カノに似た呼び名が彼を苛立たせてると勘違いした。あるある』
誰もシシちゃんの本名を呼ばなかったから、勘違いに気付けなかった――。
「なるほどねぇ」メモを取り終える三船さん。「ガイシャのケーキに漂白剤と除草剤を仕込み、無差別犯罪のように偽装することで、容疑から逃れようとしたんだねぇ」
「え、最後のは違います!」かぶりを振る泰野洽湖。「わたしが入れたのは漂白剤だけですよ! 除草剤なんか知りません!」
『……何だって?』
お兄ちゃんが一人、ぴくりと声を震わせてた。
警察はもはや聞く耳すら持とうとしなかったけど。
「往生際が悪いねぇ。農薬だけ否定する意味が判らないなぁ。だろう、浜里?」
「そうっすね! さぁ泰野さん、ちょっと署までご同行願いましょうか!」
「違うの! わたしは本当に――」
刑事二人に腕を引かれる泰野洽湖の後ろ姿を、私たちは呆然と見送ったわ。
汞銀河さえも、恋人の衝撃的な別れに、身動き一つ取れてなかった。
*
「お兄ちゃんただいま~っ。あぅ~、もうクタクタだよ~。抱っこして~」
「お帰り、ルイ。入室するなり僕に抱き着くのやめなよ。制服にしわが付くぞ」
「いいんだも~ん、制服美少女が抱き着いたら嬉しいでしょ?」
「あるある、自分で自分を美少女とか名乗ってしまう自己暗示、以前もあった」
「今日は警察に付きっきりで疲れたの~。もっといたわってよ~。お風呂で私の背中、流していいよっ。お兄ちゃんになら、私の生まれたままの姿をさらせるから!」
「遠慮しとくよ」
「即答っ!?」
「それよりシシちゃんの容態は?」
「ぶ~ぶ~。シシちゃんはもともと命に別状ないよ~。念のため検査入院するけど」
「そうか。すっかりルイと仲良しだね。昨日の敵は今日の友、よくある展開だ」
「え~。あいつとは因縁があるだけで、友情なんて芽生えてないよっ」
「ははは。まぁ容疑者も建前上は捕まったし、表向きは一件落着だ」
「建前上? 表向き? 何その不穏な響き……ひょっとして、最後に泰野洽湖がほざいてた『除草剤』が引っかかってるの?」
「まぁね。泰野洽湖さんは漂白剤しか混ぜてないのに、除草剤も検出された……そこで僕は気付いたんだ。ルイには少々、心が痛む話かも知れないけど」
「え? なんで?」
「ルイを傷付けたくないから、僕はあの場で発表しなかったんだよ。多重解決構造……真相の『別解』をね」
「別解~? 泰野洽湖以外にも犯人の目星があるってこと?」
「あるんだよ、あるある。だがこれは、僕の個人的な憶測……いわば思考実験に過ぎないよ。すると、ルイと親しい人間が『真犯人』として浮かび上がった」
「誰よそれ~!」
「泰野洽湖さんの他に、除草剤を入れた第二の犯人が存在した。切り分けたケーキを皿に盛る作業、泰野洽湖さん以外にもう一人、やってなかったかい?」
「……なっちゃん!?」
「そう、浪川奈津さんだ。その子は私市油見さんとも友人なんだよね?」
「確かにそう言ってたけど~」
「浪川奈津さんは、私市油見さんから別れ話を聞いてたんだろう。私市油見さんは汞銀河くんをこっぴどく振ったけど、そんなゴミ同然の彼をいたわる泰野洽湖さんの存在も、邪魔で仕方がなかった。ありそうありそう」
「私市油見の私怨がからんでるの~?」
「うん。私市油見さんは泰野洽湖さんを
「私市油見がなっちゃんに依頼して、シシちゃんへ毒を盛ったの? それを『泰野洽湖の勘違い犯罪』に演出すれば、自分に容疑がかかることもない――?」
「ああ。だが異物混入は偶然、泰野洽湖さん自身も実行した。浪川奈津さんが画策するまでもなかったんだよ。本当にたまたま、二人は同時に決行したんだ」
「偶然……たまたま……って『思考の共有』? 同じ心情を持つ余り、普遍的無意識を介して精神が通じた共感現象?」
「今回は『シンクロニシティ』だね。行動が完全に一致してる」
「シンクロニシティ! 前に話してたやつ……!」
「赤の他人が、偶然にも同じ行動を取ってしまう心理状態だ。あるある」
「そっか……なっちゃんは室内の流し台が混んでたから、屋外へ洗い物に出たのよね。そのときに、外の園芸用ロッカーにあった除草剤を持ち出したんだわ! スポイトも一本くらいなら拝借してもバレないだろうし~……そして、人目を盗んでシシちゃんのケーキに振りかけたのね」
「ルイ、友達を犯人扱いして済まない。飽くまでこれは、僕個人の思考実験だよ」
「お兄ちゃん、私どうすればいいの? 明日から友達に、どんな顔で接すればいいの?」
「ごめんよ、僕のせいで。一眠りして目が覚めれば、気分も晴れるさ。だから今日はお休み。君が望むなら、寝るまで手をつないでてあげるから――」
第十一幕/迷宮入り(表向き解決)
湯島涙は可能性を述べたに過ぎません。真相は藪の中……人の心の数だけあります。あなただけの解答を考えてみて下さい。
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