エピローグ
隼人は自転車に乗って、大きな道を走っていた。
昨日は結局プールに行けないまま終わってしまった。帰宅するなり、ずぶ濡れになった隼人を見て驚いた聡子にシャワーに追い立てられ、そうこうしている内にお昼になってしまったのだった。だから、今日こそ陸太と一緒に市民プールへと行くのだ。
プシュケの散歩は、早起きしてまだ涼しい時間帯に終わらせてしまっている。だから聡子にもプシュケにも気兼ねすることなく、プールへと向かうことができた。
交番へと差し掛かる。お巡りさんがいるかどうか確認しようと思って目を走らせたとき、隼人はその交番前に自転車が停まっているのを見つけた。
誰かいるのかな。昨日の件、どうなったか聞いてみたかったんだけど。
また今度にしようと隼人が交番の前を通り過ぎようとしたとき、中から少女とお巡りさんが出てきた。
「もう。いくら遅刻しそうだったからって、お弁当忘れないでよね」
「ごめんごめん」
お巡りさんは少し困り顔だ。そして、隼人に背を向ける少女の対面にいたせいか、隼人の存在に気が付いた。
「やぁ、君か。おはよう」
隼人は結局お巡りさんの前で自転車を止めて挨拶した。
「おはようございます」
少女が振り返る。黒く長い髪が靡いて広がり、甘い香りが隼人の鼻腔をくすぐった。隼人と同年代だとは思うが、整った目鼻立ちがやや大人びて見える。どこか見覚えのある、とても可愛らしい少女だった。
既視感を覚え、隼人の思考が止まった。
「あれ? 知り合い?」
お巡りさんの声で、隼人は我に返った。
少女は不思議そうに首を傾けると、首を横に振る。
「ううん。お兄ちゃんの知り合い?」
隼人は目を見張った。
この二人が、兄妹!? 全然似てない!!
「まぁ、な。それに、昨日は犯人逮捕にも協力してもらった」
「えっ?」
少女が驚愕の表情で隼人を見つめてくる。隼人は顔を引き攣らせた。
「いや、偶然だよ、偶然……」
しろどもどろの隼人を見て、お巡りさんは笑いながら少女に昨日の事件を説明した。
ついでにその後の話も聞いてみる。お巡りさんの話によると、やはりあの男がひったくり事件の犯人だったらしい。あの後すぐに自供し始めたため、しかるべき人たちに引き渡したそうだ。
「今からどこか行くのかい?」
「市民プールです」
お巡りさんの質問に隼人が答えると、少女がまた驚いたように口を開いた。
「え? 私も今から行くんだけど……」
「じゃあ、一緒に行ったら?」
お巡りさんの提案もあり、隼人は少女とともに自転車を漕ぎ始めた。
この状況、昨日遭ったこと、陸太に何て説明しようか。隼人は少女と話しながらも、頭の中では親友の無邪気な笑顔を思い出していた。
青い空の下、今日も蝶がひらりひらりと舞っている──
ある日、どこかで 長月マコト @artisan_xxx
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