24 分厚い扉

 ベルメイアが持ってきた料理を暖炉で温め直し、口に運ぶ。おいしい、と素直に感想を言うと彼女はまるで自分の手柄のように自慢げにした。それが何度も繰り返されたものだから腹が苦しくなったが、それでも彼女は気が治まらなかったようで、寝台の横につけられた小さなテーブルの上には数々の料理が載せられている。


 既に陽に橙が混ざり始める時間になっていた。

 アシュタヤの居室がわからなかったため、ひとまず看護師に聞こうと思ったのが間違いだった。ベルメイアとともに医務室を出てから三十分も経過していなかったはずだが、それでも看護師にとっては長かったらしい。「安静にしてください、と言いましたよね」と詰め寄られ、反論することもできず、寝台に連れて行かれてしまった。「ベルメイアさまのことに関してはいい仕事をしましたが、それはそれ、これはこれです」と先手を打たれてしまってはどうすることもできない。玉砕覚悟でアシュタヤの居場所を知らないか聞いてみたものの、予想に違わず玉砕する結果に終わった。


 治癒術士が来るのは朝と夜に決められていて、することがない。寝ようにも眠気がなく、僕はベッドに寝転びながら読書に勤しむことにした。

 機械による脳機能拡張モジュールの中、記憶ストレージには数千冊の書物データが格納されている。小説やコミック、読むつもりもないのに保存しておいた歴史書や法律書、さまざまな学術論文。千里眼クレアボヤンスを応用した視覚拡張装置に映し出すと手の中に本が出現する。外から見ると虚空を眺めているようにしか見えないが気にするのも面倒だった。


 二〇八五年に発表された小説を選んだ。超能力養成課程でも推薦図書に指定されていた本だ。『真綿の指』と書かれた表紙を捲る。僕が生まれる以前にはもう小説やコミックは絶滅しそうになっていたけれど、ヨーロッパ人作家が発表したその物語はちょっとしたムーブメントをもたらした。超能力を使って人を殺した青年の葛藤を描いた話だ。ちょうどその頃超能力を用いた犯罪がピークを迎えていて、文壇からは極めて商業的という批判もあったが、陰鬱な筆致は真に迫るものがあり、その声をねじ伏せるほどだった。

 収穫祭の喧噪と料理から漂う香ばしい匂いの中で読むべき本ではなかったけれど、静かに読み進めていった。予想通り看護師の女性は訝しげに僕の挙動を眺めていたが、安静にしていることは間違いなかったためか、彼女が何を言うこともなかった。


「あれ」と声を上げたのは、二章も終わりにさしかかったあたりでのことだ。

「どうかしたんですか?」看護師の女性の視線がこちらに向く。

「いや、ちょっと」


 何と言っていいものかわからない。本が、と説明したところで彼女からしたら僕の手の中に本はないのだから狂人の類に見られてもおかしくはないだろう。「なんでもない」とごまかして、再び本に視線を落とした。

 ページの続きがない。

 ぱらぱらと本をめくっていく。空白のページが続き、文字があっても意味をなさない羅列でしかなかった。文字化けした文章は曖昧とした不安感を募らせた。

 これから主人公の青年が二つ目の罪を犯す象徴的なシーンだったのにな、と本を閉じる。音もなく本は視界から消え去る。データが破損したのだろうか、それとも視覚拡張装置か脳機能拡張モジュールに問題が生じているのだろうか、考えても答えが見つかるはずもなかった。


 何かヒントがあるんじゃないかと思ったのに。

 嘆息し、外に目をやる。太陽が街を囲う防壁に身を隠すまでもう少しとなっていた。ところどころに光の球が浮かび始めている。収穫祭ももうじきフィナーレだ。明日からは冬へ向けた準備と生活が始まるのだろう。

 しみじみと眺めていると、弾けるような音とともに医務室の扉が開いた。


「ニール、お待たせ!」


 姿を現したのはベルメイアだ。毎回毎回両手一杯の料理を抱えて登場しなくても、と閉口する。その一方で彼女は朗らかな笑みで料理を僕に差し出した。


「あーっ、さっき持ってきた料理、食べてないじゃない!」

「ベルメイアさまは僕を太らせて食うおつもりですか」

「なんでニールを食べなきゃいけないのよ」

「フェンもさ、止めてくれてもいいじゃないか」苦言を呈したが、フェンは眉根を下げるばかりで何も言おうとはしなかった。「大体、こんなにお金使っても大丈夫なんですか?」

「お金のことは心配いらないわ。昨日と一昨日の分が残ってるもの。それに思いっきり遊べって言ったのはニールでしょ」


 それはそうだが、少し意味を取り違えているような気もする。僕は勇敢にもベルメイアに伝えたが、彼女は取り合おうとはしなかった。隣の寝台からも簡易机を引っ張ってきて、料理を上に置く。それから肉汁が滴りそうな串焼きを僕の口に押しつけるようにした。

 それを受け取り、ちょっとだけ囓る。胸焼けしているせいか、肉の脂気だけが口の中で爆発するように広がった。


 よっぽど「もういいです」と言ってしまおうかとも思ったが、危機として収穫祭の様子を語るベルメイアの姿に、僕は口を噤んだ。彼女はどこでどんな催し物があったとか、酔っ払った見物客がはしゃいで堀に落ちたとか、『水渡り』の決勝が行われたとか、そういうことをつらつらと述べていった。

 帝王学、まあカンパルツォは地方領主だから厳密に言えば「帝王」ではないのだろうけれど、それに類するものの中には演説の技術を伸ばすものもあるのだろうか、ベルメイアの話は十二歳の女の子が即興で話したとは思えないほどわかりやすかった。所々主観が混じった箇所は感情が先行して情景を想像することができなくなったものの、それでも卓越していると言っても過言ではなかった。

 看護師すら机の前で聴き入っている。

 ノックの音が響いたのは魔法劇の話がクライマックスを迎えようとしていたときだった。


「なによ、いいところなのに」


 ベルメイアが唇を尖らせる。入ってきたのはカンパルツォの私兵らしき男だった。彼はベルメイアとフェンの姿を見ると胸に拳を当てて頭を下げる敬礼をし、それから看護師に目を向けた。


「マイラさん、ウェンビアノさんがお呼びです」

「あら、仕事中に珍しい」マイラ、と呼ばれた看護師はくすりと笑って立ち上がる。「なんと言っていました?」

「そこまでは伺ってなくて、すみません。それほど時間はかからないとはおっしゃってましたが」

「そうですか」


 マイラは椅子にかけてあった上着を羽織り、僕に目を向ける。


「ニールくん、私は少し離れますが、わかっていますね」

「大丈夫ですよ。ベルメイアさまの話がまだ終わっていませんから」

「ベルメイアさま、フェンくん、くれぐれもよろしくお願いしますね」


 マイラは皺の目立つ顔で微笑み、会釈して医務室を出て行った。話の腰が折れてしまったからか、宙に放り出されたような静寂が落ちる。

 だが、僕がこのチャンスを逃すわけがなかった。


「さて」と立ち上がる。「ベルメイアさま、本当に申し訳ないのですが、話はまた後で聞くことにしてもよろしいですか?」

「え、ちょっ、ニール、何してるの?」

「決まってるじゃないですか。外に出るんですよ」

「外に出る、って、たった今、だめって言われたばかりじゃない」

「だめとは言われてないですよ。『わかっているか』って聞かれただけです」

「屁理屈じゃない!」

「無理が通れば道理が引っ込む、っていう諺、ご存じですか?」

「もう、フェンも何か言ってよ! 力尽くでもいいからニールを押さえなきゃ!」


 ベルメイアは隣に腰掛けていたフェンの服を引っ張る。

 フェンはじっと僕を凝視する。きっと彼には僕の意図は伝わっているだろう。

 僕はアシュタヤに会いに行かなければならない。このまま彼女を部屋に閉じ込めたままにしておいていいはずがなかった。


「……今日は朝から会議だ何だと動きっぱなしだったからな……、少し眠くなっている。お前が目を盗んで外に出ても気づけないかもしれない」

「フェン! 何言ってるの!」

「ありがとう、フェン」


 僕は立ち上がる。同時にベルメイアが僕の腕を絡め取った。


「だめよ、寝てなきゃ。それにどこに行くつもり?」

「アシュタヤのところですよ」


 そう答えると、ベルメイアは声にならない声を発した。怒りに翳りがさす。彼女は小さく「でも……」と言って僕の腕を弱々しく引いた。


「エイシャはきっと会ってくれないわ……」


 もしかしたら、ベルメイアも事情を知っているのかもしれない。彼女はおずおずとフェンの顔を窺い、肩を落としていた。

 だが、僕は言い放つ。


「そんなの関係ないですよ。会うんです」

「会うって言ったって……」


 殺人の断崖を越えたアシュタヤに声をかけられる者はきっとこの城内に存在しないだろう。向こう岸にいる人間は自身の苦しみと重ね合わせて、ベルメイアなどのこちらにいる人間はその懊悩を図りきれずにためらうに違いない。

 だが、僕だけは別だ。

 別でなければいけない。いつか堀を越えたように、その断崖を飛び越えて彼女の前に降り立たなければいけないのだ。


「お願いです、ベルメイアさま。僕にちょっと時間をください。あと――アシュタヤの部屋の場所を教えてください」


 そこからなの、と呆れた声を出して、ベルメイアは思い切り苦笑いを浮かべた。


      〇


 何度も頭を下げるとベルメイアも渋々ながら折れた。絶対に会ってきなさいよ、と文字通り僕の背中を押しすらした。

 アシュタヤの居室は六階あるバンザッタ城の居館、その五階にあるという。医務室は一階だからそこまで昇るのも一苦労だった。這々の体で階段の手すりに捕まりながら上を目指す。全速力、と言えば聞こえはいいけれど、怪我をしている僕の全速力は大した速さではなく、忙しそうに走る侍従たちに何度も抜かされてしまった。

 五階には並んでいる部屋は軍の指揮官などある程度の地位にあるものにあてがわれるものらしく、一室一室が広い。戦時であれば人影もあるのだろうが、平時の今、人の気配はまるでなかった。壁に設置されている魔法石の灯りも薄く、弱々しい光はむしろ静寂をよりいっそう重苦しいものへと変えている。


 僕はベルメイアに教えられた道順をそのとおりに進んだ。東の端、廊下の突き当たりにあるのがアシュタヤの部屋だ。彼女の部屋は他の部屋と同じように扉が閉じられていて、隙間からは一切の音や光が漏れていなかった。本当にアシュタヤがここにいるのか、不安になる。僕は息を整え、目を瞑り、意を決して扉をノックした。

 コン、コン、コンと金属のノッカーが硬い音を立てる。

 扉の内側の空気が震えたような気がした。


「アシュタヤ、いる?」


 今度は明確に気配が揺れ動いた。確信する。アシュタヤは灯りすらついていないこの部屋の中にいるのだ。扉を叩く手に力がこもる。


「アシュタヤ、いるんだろ」


 扉を開こうとするが、鍵がかけられているようで金属の擦れ合う音だけが虚しく、無造作に鳴った。もう一度呼びかける。

 話を、させてくれ。

 返ってくるのは沈黙だけだ。僕は立ち尽くし、彼女の声を待った。


     〇


 どれだけ扉の前にいただろうか。

 陽はすっかり沈み、夜の帳が降りている。冷え込みが厳しく、病衣だけしか羽織っていなかったため身体の芯に冷たい強張りが生まれていた。

 僕は座り込み、扉に体重を預けて、ときおり彼女を呼んだ。何度声をかけても返事は返ってこなかった。部屋の中にいなければそれでよかったが、そんなはずはない。僕の妄想かもしれないけれど、ベッドの上で膝を抱え、シーツを被り、幻覚に怯えている彼女の姿がはっきりと見えた。

 あのとき、きっとアシュタヤは精一杯の虚勢を張っていたのだ。僕を守るために、彼女は笑みを作り、殺人への恐怖をまるでないものかのように装っていたに違いない。だが、彼女は僕と同い年の女の子だ。憎むべき敵と言えど、命の蝋燭の火を吹き消した罪悪感を一昼夜で拭い去れるとは思えなかった。


「ねえ、アシュタヤ」顎を上げ、天井を見ながら囁くように言う。「きみは僕に早く去って欲しいと思っているかもしれない。でも、それ以上に僕はきみと向かい合いたいんだ。……ここは冷える。扉、開けてくれないかな」


 やはり、声は返ってこない。

 だめ、か。

 人は一人で煩悶し、一人で決着をつけたいときもあるだろう。彼女を救おう、というのはあまりに傲慢なエゴかもしれない。

 そう思った瞬間、衣擦れの音が僕の鼓膜をくすぐった。遅れて柔らかな足音。思わず跳ねるように立ち上がり、全身に充満する痛みを堪えながら、僕はもう一度彼女の名を呼んだ。


「……アシュタヤ」

「どうして」


 消え入りそうな声が扉の隙間から這い出てくる。重苦しい、悲痛な声だった。


「どうして、一人にしてくれないんですか」

「……よかった。ちゃんと中にいたんだね。いなかったらどうしようかと思った」


 少しだけ間が空き、内側からかすかな振動が扉をつたって僕の肌を叩いた。すすり泣きの音がすぐそばで聞こえる。


「一人にしてください……ニール、あなたには見られたくない、聞かれたくない……」


 嘘だとすぐにわかった。いや、彼女は本心を口にしているつもりかもしれない。

 だが、僕には確信があった。

 アシュタヤは無意識下で助けを求めている。心のどこかで寄り添ってくれる誰かを欲している。そうでなければ僕の呼びかけに反応しなかっただろう。いくらしつこいとはいえ、怪我人の僕がいつまでもここにいられるわけがないのだ。少しの間耐えていれば再び一人になれるのはアシュタヤ自身知っているはずだった。

 僕はそのことに喜びを覚える。救いを求める声なき声、それがはっきりと聞こえていた。


「アシュタヤ、絶対にきみを一人になんかさせない。僕は知っているんだ。暗い部屋の中で膝を抱えていたって何も変わらないんだって」


 僕自身がそうだった。かつてあちらの世界にいた頃、僕も同じようにしていたことがある。自分のふがいなさと世界の理不尽さを嘆いて蹲っていた。

 時は感情の傷を癒やさない。痛みは消すかもしれないけれど、それだけだ。ふさがったと思い込んで日々を過ごしている内に化膿することもある。

 傷を消すのは一人ではできないんだ。


「……やめて」

「やめない」

「ニール、お願い、帰って……」


 僕は息を吐き、ゆっくり扉から離れる。背中が壁につき、冷たい感触が伝わった。


「帰らないよ」


 じっと扉を見つめる。肩甲骨の後方十六センチメートル、そこにある幽界との接続器官を強く認識する。視界の端で若草色の〈糸〉が強く光り、広がり、一瞬世界を覆い尽くした。

 昔、超能力について学んだとき、聞いたことがある。僕たちが幽界と呼んでいる世界はすべて同一のものである、と。個人で別の場所に接続されているのではなく、全員が同じ場所に接続していて、取りだしているものが違うだけなのだと。

 だから、きっとこの僕の〈糸〉も彼女に通じているのだろう。この世界にどれだけ超能力者がいるか、知らない。でも、一つだけ断言できることがあった――


 ――この街にいる誰よりも僕は彼女のそばにいる。


〈腕〉は感情に呼応し、大きく翻る。ゆっくりと、慎重に操作し、僕の〈腕〉は扉の取っ手を握りしめた。

 知っているだろう、アシュタヤ。僕はきみの前で鉄格子を壊してみせた。僕にとってこんな扉なんてないも同じなんだ。だから、きみが部屋の中に閉じこもっていることなんて意味のないことなんだ。

 力を込める。〈腕〉はまるで筋肉があるように隆起する。

 今度は僕がきみを助ける番だ。

 歯を食いしばり、思い切り強く〈腕〉を引く。木材がみしみしと音を立て、金属が歪む。

 次の瞬間、七歩先にある扉がはじけ飛んだ。

 ぱらぱらと木の板の破片が地面を叩き、引きちぎられた扉が轟音を立てて壁に衝突する。

 暗がりの向こうには恐怖と悲痛で崩れ去りそうな表情のアシュタヤがいた。彼女は中と外とを隔てる扉が消失した事実に呆け、扉があった空間を朧気に見つめていた。


「アシュタヤ、きみを一人にはさせない」


 静かに歩み寄る。彼女の唇がかすかに震える。

 見ないで、と聞こえた――来ないで、ではなく。

 病的に青白い彼女の頬に涙の跡がある。ひどいクマが目の下にある。肩は震え、全身から怯えが滲み出ている。

 僕は怪我のことなど忘れ去り、ゆっくりと彼女を抱きしめた。冷たい肌を暖めるようにかき抱く。


「アシュタヤ、きみは僕を守ってくれた。だから、僕もきみを守りたいんだ」


 僕のせいで、とは言わない。それはきっと彼女への最大の侮辱だろう。僕を守るために倫理観や恐怖を捨て去ろうとした彼女を突き放す一言に違いない。

 僕がすべきことはアシュタヤを受け止めることだ。

 しばらく抱きしめていると耳元で涙に滲んだ声が聞こえ始めた。アシュタヤは僕の肩に顔を押しつけるようにして嗚咽を漏らしていた。


「……怖いの」


 アシュタヤはぽつりと呟く。


「目を閉じれば、あのときの感触が甦る、あの声が聞こえるの。あの人が私に手を伸ばしてくる。炎の中で私を呪いながら、この世のものとは思えない形相で睨んでくるの……どれだけ振り払おうとしても、こびりついて消えないの」

「……うん」

「感情がね、あの人の感情がね、飛び散った血と一緒に肌に染みついて、私の中に滲んでくるの。あの人の感情の形が目から焼き付いて離れない……私を刺し殺すくらいに尖りきった気持ちがまだ目の前にあるのよ。頭がおかしくなりそう……」


 かたかたと、彼女の全身が揺れている。僕には決して見えない幻覚が絶えず彼女を襲っているのだ。その震えを消し去ろうと僕は腕に力を込める。


「ごめんなさい、ニール。あなたにこんなところ見られたくなかった。あなたにだけは弱みを見せたくなかった。あなたが知ったら、きっと責任を感じてしまう。……私も、こんな風に甘えてしまうってわかってたの。……あなたが怪我をして安静にしてなきゃならない、って聞いたとき安心した。治るまでにはこんなひどい顔してなくなってるだろうって思ったから」

「アシュタヤ、寂しいこと言うなよ。前も言ったじゃないか……僕から幸せを奪わないでよ」


 アシュタヤの涙が服に染みこみ、肌に当たる。僕たちの体温はとても似通っていて、抱きしめていると切り離せない一つの存在になっているかのように思えた。


「誰もがきみに罪はないと考えてる。僕を守るためにやったんだって。……でもきっときみがそう思えないことも僕にはわかってる。……だから、強くなってみせるよ。もう二度ときみにあんなことはさせない」

「ニール、私、私……」


 恐怖か、悔恨か、あるいは開放か、震える声で彼女は呟く。


 赦されるのかなあ。


 僕は応える。

 きみは罪を犯してすらいない。でも、もし、きみが罪を犯したと考えるなら……赦すよ。この世界で僕だけは、絶対に、何があろうときみを赦す。

 だから、きみの背負っているものを、僕にも背負わせてくれ。

 僕はきっと、きみを守るためにこの世界に来たんだ。

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