12 呼び名の難易度

 ぱちっ、と燃える木の弾ける音がした。

 瞼の隙間から差し込んできた光が眼球を舐める。微睡みの中でよい香りが漂っていることに気がついた。石鹸か香水か、安堵感を覚える柔らかな、甘い香り。寝ぼけたまま、首の向きを変えると寝台のすぐ右に誰かが座っているのが見えた。

 白い服が、次いで膝の上で組まれた手が視界に入り、その肌の滑らかさに視線を上げると、僕の意識は急速に覚醒していった。細い首、綺麗な形の顎、薄い唇、真っ直ぐな鼻筋、優しさと力強さのある灰色の瞳。


「アシュ、タヤさま」


 睡眠は人間が得た教訓を一時的に取り除く。勢いよく起きようとした僕を襲ったのは神経をちくちくと刺す背筋の痛みだった。

 その痛みに呻きそうになるのをなんとか堪え、平静を装う。だが、僕の小さな見栄を見透かすかのように、彼女は柔和な微笑みを作った。


「おはようございます、ニールさん」

「おはよう、ございます」


 応えつつ、窓の外を一瞥する。太陽の高さは見えなかったが、それほど寝坊しているわけではないことが光の強さからわかった。

「昨日はありがとうございました」と彼女は前置きもせずに言った。それが仕事だ、と返そうとして、やめる。どこか突き放しているように受け取られるのではないか、と思うと声にするのが憚られ、僕は口ごもりながら「いえ、お気になさらず」と言った。不器用な物言いにアシュタヤは笑顔をさらに深めた。


「ニールさんは見かけによらずお強いんですね」


 ああ。

 お強いんですね。僕はその一言に舞い上がりそうになる。

 あんなものはほとんど不意打ちに近く、フェンから言わせれば拙攻拙策に過ぎるに違いない。僕自身もそれはよく理解している。しかし、身体の内側から湧きあがる喜びに頬が緩むのを止められそうになかった。いい気になるんじゃないぞ、と自戒して、僕はその表情を見咎められないように顔を逸らした。


「どうかしました? 傷が痛むんですか?」

「いえ、そういうわけじゃ……」

「うつぶせになってください。薬くらいなら私にも塗れますから」

「え、いや、あの、アシュタヤさま」


 僕は固辞したが、彼女の勢いの方が勝っていて、結局、寝台の上に転がされてしまった。後ろ前に着させられた服のボタンをアシュタヤが外していく。何かやましいことをしているような気分になって枕に顔を埋めると、彼女の動きがぴたりと止まった。


「傷」彼女の発音は囁くようでもあり、噛みしめるようでもある。「ひどい、ですね……」


 背中の傷だから僕はその程度を知らない。知っているのは全面にぴりぴりとした痛みが走っていることだけだ。あの看護師もただの盛大な擦り傷と言っていたし、アシュタヤが負い目から誇張しているだけなのだろうとは思った。


「大丈夫ですよ、これく……っ」


 言葉の途中で冷たい温度が腰のあたりに触れた。横目で彼女を覗くと寝台のそばに備え付けられている棚から薬瓶を取っていたらしく、指先に白い軟膏がついていた。


「痛みますか」

「いえ、くすぐったかっただけです」

「そうですか」


 くすりと彼女は笑う。だが、その声の端にはわずかな暗さが残っているようにも聞き取れて、僕は戸惑う。

 どうしたというのだろうか。

 アシュタヤの表情はこちらの胸が苦しくなるほどに、沈んでいた。二日もあれば治る怪我だ、そこまで沈痛な面持ちになる理由がわからなかった。まるで僕のこの背中の傷が彼女の心を刺しているかのような、そんな顔。

 他人の感覚を感じ取る超能力があるとはいえ、彼女が力を使っている様子はない。

 声をかけることもできずに、狼狽しているとアシュタヤの手が再び僕の傷に触れた。彼女の指に塗られた軟膏がじくじくと、傷の輪郭を際立たせる。

 そして、アシュタヤは小さく、謝罪をした。


「ごめんなさい、私のせいで」

「え」私のせい?「アシュタヤさま?」

「おっしゃりたいことはわかっています。けれど、違うんです。あなたはあのとき、何も訊ねず守ってくださいました。もしかしたら、伯爵からも政治上のいざこざがあったと説明を受けたかもしれません。でも、本当はそれだけではないのです」


 アシュタヤは自分の胸に手を当てる。見えているのかいないのか、彼女は白い手のひらで幽界の糸を覆い隠すようにしていた。

 彼女の超能力、広範囲精神感応。

 おそらく双方向の伝達はできないだろうし、その精密性も〈糸〉の輝きの強さから鑑みるにそれほど大したものではないだろう。


「それはアシュタヤさまが昨日見せた力のことですか?」

「……ええ。私が魔法では説明できない不思議な力を持っている、ということは多くの人が知っています。小さな頃からいろいろなことに利用されていましたから」


 それから、彼女は僕の続きを促す視線に気がついたのか、ほんの少しだけ自分の過去を語った。犬探しから始まり、人捜し、果ては軍事的な利用もされていたという。事実を列挙しただけの主観を排した語りだったけれど、彼女の力がかなりの評価をされていることは明らかだった。

 だから、その能力を奪ってしまおう、と敵も考えたのかもしれない。どれほど詳細な情報が広まっているかはわからないが、一度精神の形状を覚えられたら、逃げることも難しくなる。話に尾ひれがついて彼女の能力が過大に評価されていたとしたら、なおさらだ。敵が真っ先にアシュタヤを狙った理由も納得できた。


「初めは人の役に立てて嬉しかったんですけどね……。魔法が上手く使えなかったから、私にもできることがあるんだ、って。でもどんどん事が大きくなっていったんです。十歳ほどのときには奇跡の子だって祭り上げられたりして、でも裏では忌み子だとか蔑まれたりして」


 自嘲的に笑うアシュタヤの表情に僕の胸がぎゅっと締めつけられた。異端という単語が黒いもやを纏って脳裏に浮かぶ。僕にとっては当たり前でも、彼女の周囲にとってはそうでないことは自明だ。

 背中からアシュタヤの温度が消える。咄嗟に起き上がると、彼女は悲痛な面持ちで顔を逸らした。


「気持ち悪いですよね、こんな力……」

「いや、それは全然」

「へ」


 唇を噛みしめて俯いていた彼女は顔を上げ、ぽかんと口を開いたまま固まった。毒気を抜かれたかのような反応に笑いが漏れる。

 おどけようとしたわけでもなかったし、彼女を慰めようとした嘘を吐いたつもりは毛頭ない。

 だって、超能力なんて、僕にとっては普通のことだったから。

 超能力が気持ち悪いなら、かつて僕がいた世界は大変じゃないか。気持ち悪い奴が教鞭を執り、気持ち悪い奴が気持ち悪い力で思い悩み、気持ち悪い奴に虐げられる。周囲の人間的環境にはなじめていなかったけれど、それでも僕には超能力そのものを真正面から憎む気持ちは少しもなかった。


「アシュタヤさま、言っておきますが、その力は確かにすごいですけど、別に持て余すほどのものではないですよ。こう言ったら侮辱しているように聞こえるかもしれませんが、僕の周りにはアシュタヤさま以上の能力者が掃いて捨てるほどいました」

「え」と彼女の表情が強張る。「そ、それは、あの、ニールさん、どういうことですか?」

「あれ、僕のこと、聞いてないんですか?」


 てっきり生い立ち、というか、僕がこの場にいる経緯くらいは既に伝わっているものだと思い込んでいた。どうやら彼女は僕のことをまるで知らないらしい。


「私は、ニールさんが遠いところから来たとしか……、あとは本人に聞け、と」


 カンパルツォ伯爵の仲良し政策か!

 とても素敵な計らいではあるけれど、あまりに徹底しすぎていて嘆きたくもなった。これでは関係が拗れてもおかしくありませんよ、と。

 事態を理解していないアシュタヤは頭に手を当て、何か考え込んでいる。僕はベッドの端に座り直して彼女と向かい合い、これまでのことを語ることにした。


 こことは異なる世界から来たこと、この世界では考えられないほど文明が進んでいること、超能力と総称される力が発見されさまざまな技術に応用されていること、そのおかげで僕がこの国の言葉を解し、また、これは余談ではあるけれど、数え切れないほどの書物がデータとして脳の記憶デバイスに入っていること。

 それらを彼女でも理解できるように言葉を選びながら説明した。

 アシュタヤはやはり、おとぎ話を聞いているみたいに口をあんぐりと開けていたけれど、やがて荒唐無稽な出任せなどではないと思い知ったのか、観念したかのように溜息を吐いた。


「……本にしても売れなさそうなほど突拍子もないですが……」

「信じられませんよね」

「すみません、そういうわけではないんです。ただ、頭では嘘をついていないことはわかるんですが、どうにも、なんというか、身体が信じてくれない、というか」

「僕が初めて魔法って言葉を聞いたときと同じですかね。でも、アシュタヤさまも体験したじゃないですか。実際に堀を飛び越えて」

「あのときも、その超能力、とやらを使ったんですか?」


 アシュタヤは訝しげに眉間に皺を寄せる。その様子に僕の口元が緩んだ。そっと自分の眉間を指さすと、彼女は小さく咳払いをして皺を指で擦った。


「でも、……でも、私のものとはまるで異なる力ですが」

「それは種類の違いというか……魔法だって、火を作ったり、水を作ったり、色々できるでしょう? それと同じですよ」

「火も水も理論的には一緒です」

「超能力もそうですよ。感知能力も念動力も……」僕は言いながら、肩甲骨の外から伸びる若草色の幽界の糸を指し、それからアシュタヤの胸から伸びる清浄な青色の〈糸〉をなぞった。「その〈糸〉から幽界に接続して、仮想的な身体器官を形成するんです。念動力なら手とか、感知能力なら目とか耳とか」

「糸? 糸くずがついていますか?」


 アシュタヤは説明を見当外れの方向に理解したようだった。僕が示した胸のあたりに糸くずが着いているのだと誤解し、さっと何度か服を払った。それがおかしくて笑うと「なんですかもう」と彼女は頬を膨らませた。

 彼女が僕の〈糸〉についてなんの言及もしないことからもしや、と考えていたが、予想は当たっていたらしい。超能力の養成課程では真っ先に教えられる技術、つまり、幽界との接続を認識する能力が彼女にはないようだった。

 それでよくここまで超能力を使いこなせるものだ。僕は感心すると同時にアシュタヤが幽界に形成している身体器官を推測する。広範囲精神感応に使われるのでもっとも多いのが〈目〉で、ついで〈耳〉や〈鼻〉などが続くが、それらではないような気がした。ほとんど直感的に〈肌〉だろうか、と考える。

 しかし、確かめようとしたところで、彼女の焦れったそうな視線に気がついた。僕は頭を掻き、説明を続ける。


「〈糸〉というのは俗語でですね、正式名称だと恐ろしくわかりにくいので噛み砕きますが」

「一応、その正式な名前も教えていただきますか?」

「……すいません、長すぎてちょっと忘れました。話を進めましょう」


 正直に言ってしまえば脳内アーカイブに接続すればすぐにでも教えることができたが、僕はそれをしなかった。学名というのは得てして理解を阻害する。第五次元うんたらかんたら、と説明したところで彼女の超能力への理解を促進するはずもないからだ。


「超能力というのは、この世界に隣接する、普通の人間では知覚できない世界を認識し、干渉し、そこから世界に運動をもたらす力です。だから超能力者にはその次元と接続する〈糸〉が存在するんです。僕のいた世界では認識を深めるために、その〈糸〉を見る力をいちばん始めに養成していました」

「と、いうことはニールさんは初めから私がその超能力者であることがわかっていたんですね」

「ええ、アシュタヤさまの認識器官は、胸の部分に……、そこから青い〈糸〉が伸びています」

「色がついているんですか」と彼女は胸の前の空間で手をひらひらと動かした。「ちなみにニールさんのも同じ色ですか?」

「僕のは若草色の、アシュタヤさまのよりも太い〈糸〉ですね」

「その違いはどこから生まれるのでしょう?」

「太さや光の強さは力の強さですが、色までは僕も詳しく……研究段階のものだったはずです」


 そうですか、とアシュタヤは寂しげに呟く。

 その理由は僕にも少しだけわかる気がした。この世界では魔法がある。自然界に、あるいは生物に対して干渉し、力を生み出す技術は絶対的な存在に違いなかった。きっと彼女の力もその枠に当てはめられて考えられてきたのだ。だが、超能力と魔法はおそらく別の力で、その枠組みで説明できるはずもない。

 この世界にはない、尋常ならざる力――その力にアシュタヤは懊悩していたのかもしれない。誰からも理解されない力を持ち、行使することを強要され、そのたびに、悩んでいたのだろう。

 自分は何者なのか、と。

 だからこそ、彼女の落胆はひどいものとなってしまったのだ。彼女にとって僕は長年待ち侘びた答えを持っている人物となり得たはずだから。

 僕は唇を噛みしめる。僕の持つ知識ではアシュタヤの持つすべての疑問を解決することはできない。答えを与えようにもその答えを持ち合わせていない。だが、それでも僕は――彼女が抱いているだろう夥しいほどの不安を何とか解消してやりたかった。

 生まれ持った力に振り回され、苦悩する彼女の姿が、かつて一人で膝を抱えていた小さなニール・オブライエンと重なったのだ。


「アシュタヤさま」


 囁くように声をかける。俯いていたアシュタヤの視線が僕の瞳とぶつかる。


「僕はあなたからその力を聞いていない、そして、カンパルツォ伯爵やウェンビアノさんからも本人のことは本人に聞けと言われている、それをあなたが理解している前提で話します――あなたには、人の……、精神の形状がわかるのではないですか?」


 その瞬間、アシュタヤの顔が凍り付いた。

 目を見開き、驚愕を露わにした彼女が僕を見つめる。


「どうして……」

「僕に精神感応は使えません。使えるのは制御のきかない〈腕〉だけ……。でも、あなたの力くらいは説明できるんです。だから」


 あなたが超能力を恐れる必要なんて、ない。

 たとえ人とは異なっていても、少なくとも、僕とあなただけは同じなんです。


 僕がそう伝えると、彼女は目を瞑り、それから、何も言わずに顔を下げた。肩が、震えている。

 泣いているのか?

 そう気付くと同時に僕は大いに狼狽した。涙を流す女の子の慰め方など知るはずもない。恋愛だとか友情だとかそう言った人間関係から遠ざけられて育ってきたのだ。当たり前じゃないか! いくら物語の中で弱々しく泣き崩れる女の子を慰める男の姿を見てきたとしても、そんなものは役に立たない。

 目の前にいるのは他の誰でもないアシュタヤだ。

 この世界で出会った、優しい、か弱い、超能力を持つ少女。

 僕の中にあったのは、声をかけてやらねばならない、という拙い思いだけだった。


「アシュタヤさま、あの、元気を出してください」


 アシュタヤは涙を拭いながら、顔を上げる。だが、その端から涙がこぼれ落ちていた。彼女はしゃくり上げながら、泣き笑い、みたいな顔をした。


「ニールさん、ありがとうございます……私、嬉しくて、どうにかなっちゃったみたい」


 理解者の不在。

 その檻から解放されたかのようにアシュタヤは笑い、彼女の頬に涙が転がる。そのさまは僕が今まで目にしたものの中でもっとも美しいものに思えた。


     〇


「久しぶりに思い切り泣いちゃいました」


 照れながらアシュタヤは長い黒髪を弄っていた。

 普段はベルメイアの姉として、あるいはバンザッタの街を守るカンパルツォの客人として自制を強いられていたのだろう。彼女はすっきりとした顔つきではにかんだ。


「あの、ニールさん、もしよければ今後も私の、その、超能力、ですか。それについて、教えてもらえますか?」

「僕でいいなら」

「あなただから言ってるんです。……ああ、早速一つ聞きたいことができてしまいました」

「なんですか?」


 僕が促すと、彼女はいつか見せた悪戯っぽい笑みを作った。


「あのとき、私のことを『アシュタヤ』と名前だけで呼んでくださいましたよね」

「え、ああ」そういえば、そうだったかもしれない。「すみません。無礼でしたよね。謝ります」

「いえ、それはいいんですが、それならどうして今『さま』をつけて私を呼んでいるのですか?」

「え?」

「わざわざ呼び方を変えなくてもよくはありませんか?」

「あ、いや、そ、それは」


 それは、超能力と関係ないじゃないか!

 大体、あのときは必死だったし、人に「さま」をつけて呼ぶことを慣れていなくてつい忘れてしまっただけだ。言うなればあのときが異常なだけで、今が正常なんだ。

 しどろもどろにそのようなことを言ったが、彼女はそんな弁解などどこ吹く風で、「やっぱり敬称をつけて呼ばれるのは肩が凝ります」だとか「一度呼んだんだからもう変わりませんよ」だとか言って僕をさらに慌てさせた。


「アシュタヤさまだって、僕のことを『さん』ってつけて呼ぶし、ずっと敬語じゃないですか」


 咄嗟に出てきた反論は極めて脆弱なものだった。彼女は図っていたかのように口角を上げ、言い放つ。


「じゃあ、ニール……これでいい?」

「あ、う……」

「ほら、ニール」


 逃げ場がない。彼女はまるでずっとそうしてきたかのように僕の名前を呼び捨てにして、早く、と促すように袖に触れてきた。顔が近づく。香りが鼻腔をくすぐる。

 どうして、と思った。

 どうして、女の子はこんなにいい匂いがするのだろう。石鹸の違いだろうか。領主の客人ともなれば高級なものを使っているに違いない。だが、それにしてもこの体臭の違いはなんなのだろう。香水か? ああ、もう、頭が煮えるようだ!

 ぐるぐると着地点を見失って回転する思考の中、僕はこの場を切り抜ける妥協点を、ようやく発見した。なんとか顔を上に向け――ああ、全身が熱い、燃えるようだ――ぎこちなく、言葉を返す。


「アシュタヤ、さん」

「……よく聞こえない。目を見てくれないと」

「いや、ほら、だって、僕はずっと『さま』づけて呼んでいたわけでしょう。あなたはずっとさん付けだった」

「あなた?」

「……『きみ』はさん付けだった。そのきみが呼び捨てにするということは一段階進んだと言うことで、その論理で言えば、僕が一段階進めばさん付けになるということでしょう」

「ニールは往生際が悪いのね」

「しょうがないじゃないですか!」


 僕は声を大にして、アシュタヤの目を覚まさせようとする。だが、彼女はやはり、意地の悪い目つきを変えることはなかった。今さらながら、悟る。カンパルツォの上を行く、と言っていたときから薄々思っていたけれど、アシュタヤは底が知れない、というか、常識の上にいない人物なのだ。

 結局、僕は根負けし、「アシュタヤ」と呼称することを強要された。蚊の鳴くような声で試すとアシュタヤは本当にうれしそうに頬を綻ばせた。別に忌避感はないのだけれど、抵抗感はあって堪らない。

 女の子の名前をこんなふうに呼ぶのは初めてのことだったから。

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