TRUE MIND

青朱玄白

第1話

二十三世紀。

科学技術は大きく発展し、生物学、遺伝子工学の研究もこれ以上の高みは存在しないのではないかと思えるほど進められた。そして、ついにはコンピュータのプログラムで、無から人間を生成する事さえ可能になった。

そうした人間は『ヒューマノイド』と呼ばれ、商品として販売されている。

ヒューマノイドには感情を持たない。それ故に、まるで奴隷や召使いのように世間に認知されており、またそのように扱われている。

ヒューマノイドが感情を持たない原因については多くの説が唱えられている。一番有力とされているのは、本来の生命の輪廻から外れた存在故に魂と呼ばれるものを保有していないからではないかというものだが、科学的解明がなされていないので定かではない。

これは、そんなハイテク化された世界で生きる、とある大学生の物語――


「……ター、マスター」

ぼんやりと聞こえてくるどこか温もりを含んだ声に、急速に意識が浮上し始める。

「マスター、起きてください」

目を開けると、そこには申し訳程度に俺の体を揺すりながら、俺を起こそうとする女の子、瞳の姿があった。

瞳は俺を起こすために体を揺すっているのだが、決して乱暴ではないので、それが揺り籠のようで逆に心地いい。

「ん~、あと五分……」

定番の文句を言いながら、再びまどろみに身を任せようと目を閉じる。しかし、次の瞬間――、

「朝ですよ」

大きいわけでも低い訳でもないのに、妙に腹の底に響くような声に慌てて体を起こす。

先程まで感じていた眠気は、既に一切感じない。おそらく、このまま眠り続ける事は危険だと本能が警鐘を鳴らしたのだろう。

「おはよう」

起きるという意思表示を含め、瞳に挨拶する。

「はい、おはようございます」

先程の声とは打って変わって、瞳は柔和な笑みで挨拶を返してくれる。

ふと時計を確認すると、時刻はもうすぐ七時に差し掛かろうかという時刻。毎週のことを考えると休日の土曜には、ふさわしくない起床時間だ。

「まだこんなに早い時間じゃないか。もう少し寝かせてくれよ」

「何を言ってるんですか、マスター。今日はマスターのお父様が訪ねて来られる日ですよ」

「あ、そうか」

完全に忘れていた。そう言えば今日、父さんがここに来るとか言ってたっけ。

「朝食の準備はできていますから、支度が済んだら食卓に来てください」

笑いかけるように言い残し、退室する瞳の所作は、もはや人間そのもの。しかし彼女は、実はヒューマノイドと呼ばれる存在だ。

おそらく今の瞳を見て、彼女がヒューマノイドであることに気付く人間はいないだろう。理由は単純。瞳には感情が存在するからだ。

原因はよくわからないが、瞳は他のヒューマノイドとは全く違う。感情を持たず、表情を変える事すらしない一般のヒューマノイドに対し、瞳はよく笑うし、たまに怒ったりする。

まあ、さすがに涙を流したところは見たことないが。というか、ヒューマノイドとはいえ、もはや普通の女の子にしか思えない彼女が泣いたりするところなんて見たくない。

しかし、瞳は最初から今のように表情豊かだったわけではない。

朝の身支度をしながら、ふと瞳と出会った時のことを思い出す。

それはおよそ一か月前。大学からの帰宅中の出来事だった。


午後の日が傾き始めるような中途半端な時間帯。俺は憂鬱な感情を抱えながら、一人で閑散とした住宅街を歩いていた。

大学でも駄目か……。

立ち止まり、空を見上げ溜息をこぼす。

俺の実家は裕福だった。金に不自由なく、望めば大抵のものは手に入る。普通なら、誰もが羨むような生活。

だけど、俺が本当に欲しかったものが手に入ることはなかった。

俺が欲しかったもの、それは誰かとの繋がり。

両親はいつも仕事で家を空けており、俺にかまってくれたことなどない。

家には家政婦がいたが、彼女が自分の世話を焼いてくれるのは、お金のためだと幼いながらに理解していた俺は、彼女に対し、心を開く事が出来なかった。

学校では、金持ちというレッテルから同級生たちに疎まれる。

誰とも繋がりを感じられなかった俺は、ただ孤独だった。

そんな状況を打破しようと、俺は大学に進学する際、実家を出て一人暮らしをすることを決意する。

しかし、クラスなどが存在せずそれぞれの関係性が薄いその空間で、今まで孤独に過ごしコミュニケーション能力を磨く機会を得る事が出来なかった俺は、自分から行動を起こすことができなかった。

相手側から近付いてくることも確かにあったが、それは金を求め俺に接触を図っただけの低俗な輩達によるものだけ。

もう、期待するのはやめよう。下手に希望を持っているからこそ、うまくいかなかったときに落胆するのだ。だったら初めから期待などしなければいい。

ポツリと伸びる自分の影に一層索漠とした気持ちが募る。

「ん?」

何気なく視界の隅に人影を見たような気がして振り返った俺が見たのは、ゴミ捨て場に一人うずくまる少女の姿だった。

彼女はボロボロの布で体をくるみ、そこに座り続けている。

それを見た俺は、すぐにその事態を理解した。

このような状況でも動じる様子もなく、何の感情も読み取れない彼女の瞳は、まさしくヒューマノイドのそれだ。

おそらく、彼女を必要としなくなった誰かが彼女を捨てたのだろう。

「……」

俺は彼女を見つめたまま立ち尽くした。

そんな俺に気付いた彼女は一瞬だけ俺を見たが、すぐにまた元の場所に視線を戻した。

その孤独な姿に俺は自分自身を重ねた。

その瞬間、彼女が他人だと思えなくなった。

お互い、孤独な状況にある。その認識が俺に生れて始めて、誰かとの繋がりを感じさせたのだ。

社会の中に繋がりを見出せない俺が、孤独であることに対して繋がりを感じるなんて皮肉な話だ。

だが、親にさえ感じる事のなかったこの感情を初めて抱けたことに、俺は歓喜した。

この機を逃したら、俺はまた誰とも繋がりを感じられなくなるだろう。もしかしたら二度とこの感情を抱く事がないかもしれない。

そう思った瞬間、俺は無意識のうちに彼女に手を差し伸べていた。

もう期待などしない。そう決意したばかりなのに、俺の心は再び希望に寄り添っていた。


家に着くといつものようにポケットから鍵を取り出し、いつものように扉を解錠する。

そんないつも通りの状況の中、一つだけいつもと異なる事があった。・・・・・・俺の隣にヒューマノイドがいる事だ。

「俺は一人暮らしだから、この家は好きに使ってくれていい。遠慮なくくつろいでくれ」

 そんな俺の言葉に彼女は質問で返してくる。

「学生の一人暮らしで、一軒家に住んでいるんですか?」

そう、俺が住んでいるこの家は、大学に通うためだけという理由にもかかわらず一軒家であった。

「まあ、金だけはあるからな。うちは」

苦笑交じりに俺は答える。

彼女の声を聞いたのは、先の質問を含めても片手で数えられる程だ。どうやら口数は多いほうではないらしい。

「そういえば君、名前はなんていうんだ?」

「私は№1103と呼ばれていました」

「それは名前ではないだろ。1103・・・・・・ひ、ひ・・・・・・そうだ、瞳なんてどうだ?」

すると彼女は少し驚いたような表情で呟く。

「瞳・・・・・・」

やっぱり、こんな語呂合わせみたいなネーミングじゃまずかっただろうか。

「気に入らなかったか・・・・・・?」

不安を覚えて恐る恐る聞いてみる。

「いえ、・・・・・・瞳・・・・・・ありがとうございます。マスター」

感情を持たないはずの彼女が、俺には一瞬微笑んだかのような表情を見せた気がした。

少し気恥ずかしさを感じた俺は、照れ隠しに言う。

「あのさ、マスターって言うのはやめない?俺は浅田武志。武志でいいよ」

「ですが、あなたは私の主ですから」

彼女の答えは、さらに気恥ずかしさを感じさせるものだった。どうやら逆効果になってしまった様だ。

「うーん、出来れば俺は堅苦しいのは避けたいんだが・・・・・・、まあいいか。好きに呼んでくれ」

そう言うと瞳は少し困った様子で呟く。

「好きに・・・・・・、私はあなたをどのように呼びたいのでしょうか。自分でもよくわかりません」

それを聞いて俺は理解した。ヒューマノイドには感情がないのだから、自分の好きな様にと言われたら逆に困ってしまうのかと。

少しの沈黙の後、俺は口を開いた。

「最初に出てきた呼び方がマスターだって言うなら、たぶんそれが瞳にとって一番しっくりくる呼び方なんだと思う。だからそう呼んでくれればいいよ」

「しかし、その呼び方は出来ればやめて欲しいと・・・・・・」

「いいって。気にすんな」

どうせ照れ隠しに持ち出した話題だ。

そう、これが俺と瞳の出会い。俺の生活が輝きを持つようになった最初の一ページ。


朝の身支度を済まし、食卓へ向かうと空腹を刺激する香りが漂ってきた。

「うん、うまそうだ」

食卓に並ぶご飯やみそ汁や焼き魚などを一瞥し席に着く。

瞳と暮らすようになって大きな変化が訪れたのは、何も俺の精神面だけに限った話ではない。生活面にも大きな影響を与えている。

最たる例が食事だ。自炊を一切せず、外食やインスタント食品に依存した不摂生な俺の食生活は、瞳の手料理により改善した。

今はこうして和のテイスト溢れる立派な朝食にありつけているが、少し前までは朝食なんて食パンで済ますだとか、ひどいときには食べる事さえしないときもあった。

瞳と一緒に朝食を食べながら考える。瞳と出会う前の俺だったら、久々に父さんに会うというこの状況に、何も感じなかったかもしれない。しかし、彼女に出会って、人とのつながりを感じる事が出来るようになった今の俺は、何か期待に近い感情を抱いていた。

孤独から解放され、充実感を覚える日々。それは俺がずっと望んでいたもので、けれども、決して手に入れられないだろうとも思っていたもの・・・・・・。

こんな日常がずっと続けば・・・・・・しかし、光があれば影が出来る。そして、俺のこの生活にも影が落ちる事になる……。


父さんが俺の家に着いたのは、午後一時を回った頃だった。

俺と一緒に出迎えた瞳に気付いた父さんは、俺に尋ねた。

「武志、その方はどなただ?」

その質問に俺が答えるよりも先に、瞳が口を開いた。

「わたしは、ヒューマノイド№1103、瞳といいます」

「ヒューマノイド?」

父さんは少し驚いた様な表情をする。

「あ、上着をお預かりします。あと、何か飲み物を用意しますね。二人はコーヒーと紅茶、どちらがいいですか?」

微笑みながらに瞳が言う。

「私はコーヒーを」

「俺も」

そして、瞳が淹れてくれたコーヒーを飲みながら俺は父さんに大学での近況を話した。

しかし、父さんは心ここにあらずといった様子だった。心なしか瞳の事を気にしていた様に思えたのは俺の気のせいだろうか。

このときの父さんの真意を知る事になったのは、次の日の日曜日の事だった。


「マスター、朝ですよ。起きてください」

いつものように俺を起こそうとする瞳の声が聞こえる。

「うーん、今日は昼まで寝てるよ・・・・・・」

そう言って起きようとしない俺に、瞳が頬を膨らませる。

「また昨日夜更かししてたんですね。生活習慣は乱さない様にいつも言ってるじゃないですか。もう、せめて朝食だけでもちゃんと食べてください」

しぶしぶ俺は体を起こす。その様子に満足してか瞳は、食卓の方へと戻って行った。

朝の身支度を終えた俺は、席に着き朝食を摂った。相変わらず、瞳が作るご飯は美味しい。

朝食に舌鼓を打っていると、不意に呼び鈴が鳴った。

私が出ますと、瞳は席を立とうとしていた俺を引き止め、玄関へと向かう。

瞳の言葉に甘え、箸をすすめていた俺が耳にしたのは、瞳の助けを求める声だった。

俺は焦燥感に駆られて慌てて玄関に向かう。そこで俺が見たのは思いもよらない人物だった・・・・・・父さんだ。

そしてその後ろには、瞳を力づくにでも車に引き込もうとしている背広の男たちがいる。

「父さん、こんなところで何してるんだ?瞳が連れてかれる・・・・・・止めないと」

俺は震える声を絞り出し、すがる様に父さんに言う。

だが、父さんから返ってきた言葉は、意外なものだった。いや、十分に予測し得た事だが、信じたくなかったのだ。

「何を言っている?お前だって既に気付いているのだろう?彼女を連れて行く様に指示したのは私だ」

俺は表情に驚きの色を隠せなかった。不意に頭の中が真っ白になる。

ただ、体は無意識のうちに動いていた。瞳を連れて行こうとしている男たちに拳を向ける。

しかし、一人の男が俺の前に立ちはだかったかと思うと、何をどうされたのか、一瞬の内に関節を極められ、地面に押さえつけられた。

「マスター!」

瞳が心配そうに声を上げる。

父さんが俺の方に歩み寄ってきて言った。

「このまま何の説明もしなければ、お前も納得すまい。理由は話そう。ヒューマノイド制作プロジェクトの最高責任者である、この私が」

・・・・・・父さんがヒューマノイド制作プロジェクトの最高責任者?今まで父さんは自分の仕事について、俺に一切を語ろうとしなかったから知らなかった。まさか、今の時代の最先端技術に関わっていたなんて・・・・・・。


父さんが告げた理由、それは瞳がどう見ても感情を持っているという事実に対する探求だった。

そう、元来ヒューマノイドは感情を持たない。しかし、今の瞳は明らかに感情を持っていた。

俺からすれば、瞳がどういう理屈で感情を持ったのかなどというものは、どうでもよかった。彼女が傍にいてくれるだけで、それだけで十分だったから。

だが、父さんにとっては、ヒューマノイド制作プロジェクトの最高責任者にとっては、看過など出来ようはずもない希少なイレギュラー。

「探求って・・・・・・何をするつもりなんだ?」

父さんの立場から考えれば、今回の様な行動を起こしてでも事態の解明を試みようとすることも分からなくはない。だからといって、はいそうですかとそれを受け入れるつもりはなかった。父さんの取る手段如何によっては反抗も辞さないつもりだ。

「なに、大したことではない。感情というものは、今の科学技術でも把握しきれないものだ。出来る事は限られている。だから、解剖して脳を徹底的に調べるだけだよ」

「っこの!!」

父さんの冷徹な言葉で頭に血が上った俺は、自分を取り押さえる男を振りほどこうと腕に精一杯の力を込めた。男は気を抜いていたのか、この不意の抵抗で呆気なく俺は解放される。

そして、一度は男に向けた拳を今度は自分の父親に対し、振るおうとする・・・・・・が、その刹那凄まじい衝撃が脇腹を襲った。先まで俺を取り押さえていた男から、蹴りを受けたのだ。

「かっ、は・・・・・・」

あまりの激痛に悶絶しそうになる。だが、ここで倒れてしまうわけにはいかない。

「連れて行かせない・・・・・・。瞳は・・・・・・俺の大切な家族なんだ!」

今にも崩れ落ちそうにふらつく足元・・・・・・しかし、その言葉だけはとても力強いものだった。

「ふん、ヒューマノイド相手に何を言っている、愚息め。少しきつめのお灸を添えてやる必要があるな。おい、お前たち。」

父さんの指示に従い、男たちが俺に襲いかかろうとする。

しかし彼らの行く手をふさぐ者がいた・・・・・・瞳だ。

「マスターに、これ以上手出しはさせません」

そう言い放つと、瞳は男たちがいる方へと向かって手のひらを突き出した。

それは空を切っただけのはずだったのだが、男たちの体が吹き飛ぶ。

その出来事に、瞳以外の誰もが驚愕した。

「帰ってください。でないと、命の保証は致しません」

凛とした表情で、父さんと男たちを見据えている彼女の左目からは、陽炎が揺れているかのように青白い光が噴出している。

父さんはこの一連で俺たちの方に分があると悟ったのだろう。怪訝そうな表情をしながらも、引き揚げるぞと男たちに告げ、その場を立ち去った。

「・・・・・・」

俺はしばらくの間その場に立ち尽くした。目の前で起こった出来事を整理できなかったからだ。

瞳はその反応を自分に対する拒絶だと感じたのだろうか。

「やっぱり嫌ですよね。私みたいなこんな化け物・・・・・・」

そう言う彼女の表情は、見ているだけでこちらまで悲しく思えてくるほど悲痛なものだった。

「化け物・・・・・・?どういうことだ?」

未だに状況を把握しきれていない俺は、瞳に問いかける。

「この事を知ったら、マスターはたぶん私の事を嫌いになります・・・・・・。でも、もう今さら隠し通せないですよね。」

そう言って瞳は語り始めた。

「私が感情を持てたのは、マスターのおかげなんです。よく言うじゃないですか、大切にしていたものには魂が宿るって・・・・・・それと同じですよ。他のヒューマノイドたちが人外の扱いを受けている中で、あなたは私を人間として、家族として扱ってくれました。だから私には魂が宿ったんです」

俺は何も言わず、ただ瞳の話に耳を傾ける。

「でも、それっていわゆる九十九神って言うものなんですよ。妖怪の類です、化け物の類です。さっきみたいに妖術みたいな技だって使える・・・・・・。でも、それってヒューマノイドよりも更に人間から遠のいた存在です、マスターとはかけ離れた存在です。そんな化け物と一緒にいたいと思ってくれる人なんているわけないじゃないですか」

瞳の声にはだんだんと嗚咽が混じり、頬に滴が伝っていく。

その姿に、先ほど父さんたちを追い払った時の力強さは微塵も感じられない。触れただけで壊れてしまうほど儚い存在にも思える。

そんな女の子が化け物なんて、あるはずがない。俺に初めてぬくもりを教えてくれた存在が化け物なんて、思えるはずがない。

俺はそっと瞳の体を抱き寄せた。

「馬鹿だな、人間じゃないからって、自分とは違うからって、そんな理由で俺がお前の事を嫌いになるわけないだろ」

瞳の存在が俺にどれだけの光をもたらしてくれたのか彼女は理解していないだろう。むしろ、瞳が俺にとっての光そのものと言っていいほどだ。

瞳がどういった存在かという事実よりも、彼女が辛そうにしている顔を見ているほうがずっと苦しい。

自分の思いをどう言葉にすればいいのだろうか、いやきっと言葉ではこの思いは伝えられない。そう判断した俺は、瞳を強く抱きしめる。思いが伝わる様に・・・・・・。

「じゃあ、これからもマスターの傍にいてもいいんですか?」

瞳は小さく肩を震わせながら、すがる様に俺を見つめる。

「当たり前だろ。むしろこっちからお願いするよ。ずっと一緒にいてくれ・・・・・・瞳」

瞳を抱きしめる腕に、よりいっそう力を込める。

「・・・・・・はい。ありがとう、浅田武志、マイマスター」

涙を流しながらも微笑んだ瞳の笑顔は、今まで見たこともないほど幸せに満ち溢れたものだった。

彼女が泣いているところなんて見たくない。そう考えていたが、こんな涙ならたまにはいいかもしれない。強く強く瞳を抱きしめながら、俺はそんなことを思った。

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