【6】
――数日後。
『アトロポスの街の治安維持』と称して、クロト城を脱走してモイライの街にやってきたイシュタルは、セーラの部屋のベッドの上に寝転がっていた。
頭の上で手を組んで何かを考えていたイシュタルは、上半身を起こすと、ベッドの隅にちょこんと腰かけているセーラに向かって演説口調で語りはじめる。
「セーラ! これははっきりいってチャンスよ! この前の様子だと王子は確実にアナタのことを気に入っているわ! モイライの王妃さまもセーラくらいの年齢のころ国王様に見初められて、その数年後にご成婚したそうよ。だからセーラだって将来のモイライ王国のプリンセスになるチャンスがあるってことよ!」
「で、でもセーラはラビニアちゃんみたいな貴族じゃないんだよ?」
プリンセスになるとかそういうのは少し大袈裟かもしれないが、王子とはもっと仲良くなりたいとセーラも考えていた。しかし、たとえ王子と『お友達』になれたとしても『身分の差』という越えられない壁があるということはセーラでも知っていた。
「確かにセーラはあのイヤミ縦ロール女みたいに貴族じゃないけどさ、ママは王国でも有名な学者だし、天国にいるパパはモイライ王国の歴史にその名を刻むほどの勇者だったんだよ。王子がセーラのこと気に入ってくれれば、超玉の輿も夢じゃないわ!」
「そ、そんなものかなぁ……」
未だ見習い召喚士のままで特に何の取り柄もないセーラは、偉大な両親を引き合いに出されてすっかり萎れてしまう。
「ああっ、でもホントにセーラが王子と結ばれてモイライ王家のプリンセスになったら……ワタシは公務でセーラ一緒にいることができるのよ。そうなったら最高じゃない!」
「で、でも別にセーラがプリンセスにならなくても……イシュタルちゃんはセーラと一緒にいられるよね。今だってそうだし……」
セーラの発言など聞く耳もたないと言わんばかりに、イシュタルは立ち上がると拳を振り上げる。
「いい、セーラ! まずはなんでもいいからとにかく目立つことよ。例えば……そう! 王国で最強の召喚士になればいいのよ! それくらい有名になれば別に貴族や王族なんかじゃなくても、きっと周囲も認めてくれて王子と付き合うことができるわ! そうとわかったら特訓よ! さぁセーラ行くわよ。」
「ええっ!? 今から特訓?」
「そう! 早くセーラが一人前の召喚士になれるように、このワタシが稽古つけてあげるから」
イシュタルは、無邪気な笑みを浮かべると半ば強引にセーラを外に連れ出す。
どうやら、イシュタルは本気でセーラをモイライ王子の許へ嫁がせるつもりのようだ。
それは、小さな召喚士と王国騎士団紅一点の女騎士が、勇者アンキセスを蘇生させるためにラケシスの塔の頂上を目指すちょうど一年前の出来事であった。
END
Little Summoner ~セーラの初めてのおつかい~ みすみみくま @m_mikuma
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