第4話

 僕と七海は、宇宙空間を歩く。七海は楽しそうに、歌を口遊んでいる。


「こんやはやまだぁ~♪」


 彼女は、Creatorクリエイター茅ヶ崎。そう、このSSOの開発メンバーの一人だ。

 宇宙空間を歩き、やがて辿り着いたのは月面のステージ。姿が見えない以上、迎え撃つならここだろう。


「ほんやはやまだぁ~♪」

「ねぇ七海」

「しょうへいへーい♪」

「聞いてよ!」

「なんですか? 山田さん」


 七海は振り向いて、あどけない表情で僕の顔を覗き込んだ。


「ち、近いよ七海」

「そうですか?」と言って、一歩 後ろへと下がってくれる。


 ずっと一人だったし、ましてや女の子と一緒だなんて正直落ち着かない。ゲームなんだし、動揺する僕も僕なんだけど。

 

「どうして手伝ってくれるの? 生体認証システムは改善されてないよね?」


 率直に聞いてみた。いくら開発チームだからと言って、ここでもし死亡なんかしたらアカウントの消滅だ。そりゃあ、実際に死んだりはしないだろうけども、生体認証システムバグがある以上、同じアカウントでコンテニューができない。

 アカウントの作り直しにも、リセマラ対策でもある、あのくっそ長いオープニングムービーと初期設定は溜息がでる。とはいえ、開発チームの一人なんだし、そこらへんは省略できるのかな?


「どうしてって言われても。山田さんに会いたかった……では、駄目ですか?」


 う、なんなんだ。この子は……調子狂うな。


「私、SSOに携わって、ユーザーの数が減る度に涙を流してました。ユーザー数が10人切った時にはもう涙も枯れて出てきませんでしたよ。そして遂に、最後の一人になった時、その人は他のユーザーが居なくなっても、今も尚続けてくれてます」


 七海は一歩僕に近付き、僕の目を真っ直ぐに見た。その瞳に思わず顔を赤くしてしまう。


「私は、そんなユーザーを見てみたいと思ったのです。姿や外見だけでなく、どの様な思いで、このSSOを愛してくれているのかを」

「——七海危ない!」


 僕は七海の腕を引いて、後ろへと放り出す。そして槍の切っ先を、鞘に収まった刀の先端で受け止める。

 目の前には、豚の姿をした獣人がいた。一人だけでは無い。その後ろに、ぞろぞろと槍を持って現れた。豚の獣人は三人。

 僕は強く槍の切っ先を弾き、距離を作った。獣人達は唸り声を上げて威嚇をしている。


「山田さん! 気を付けて下さい! 何か様子が変です」

「獣人——まさか、WBOのユーザーか?」

「その通りだ」


 目の前には長い黒髪と、ローブを纏った男が獣人達の横を通って歩いてきた。知っている。身に着けているメガネが怪しく光った——鈴木だ。


「俺はの魔法を扱う事ができる。この魔法は、プレイヤーを発狂させ操作不能になる、MWOの魔法の中でもバランスブレイカーだ。修正中の為、公開停止となっていたのだよ」

「…………鈴木」

「闖入者が来たと思えば、八馬太……お前だったとはな。だが、狂ってしまった豚ユーザーをプレイヤーキルできるかな?」

「鈴木、部長として警告する。こんな事は辞めるんだ」

「お前には分からんだろうな? 俺が、MWOにどれだけ時間を費やして来たのか」


 鈴木は奥歯を噛み、鋭い目で僕を睨みつけた。分からなくもない。僕だって、SSOのデータを消されたら、鈴木や田中みたいに荒れるかもしれない。——でも


「ゲーム制作部の一員として、ゲームを愛する心は忘れる事は無い! 考えを改め無いのであれば——」


 刀の柄を握り、鈴木の姿を見据える。


「豚共、遊んでやれ」

「ブヒィブヒィ!」「プギャァー!!」「ブヘヘ、袴っ娘! 袴っ娘!」


 獣人達が襲い掛かってくる。だけど僕の敵ではない。


「山田さん! 豚さんを殺しちゃ駄目ですよ?」

「分かっている」


 刀を抜き、そして。一歩強く踏み出し、一気に獣人を横を駆け抜ける——納刀。


「——居合い抜きタキオン


 瞬時にして三連斬り。納刀を終える音が聞こえると、獣人達は横たわる。


「倒せないなら、で気絶させればいいだけだろ?」

「やるな八馬太」

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