第3話
「よかったいつものSSOだ」
見慣れた宇宙船の景色に、ほっと口から息が漏れる。つい先ほどまでWBOやMWOの惨劇を目の当たりにしていたため、出現ポイントが豚小屋になっていないかひやひやしていた。
「こんにちは、Cracker山田さん。本日のログインボーナスが届いていますよ。早速チェックしてくださいね」
SSOへのログインが完了すると同時に、案内役のお
「ログインボーナスは300チャリンと回復薬が一つか」
回復薬の受取先をポーチではなくアイテムボックスに変更し、ウィンドウを閉じる。
正直このレベルにもなると、普通の回復薬なんてボックスの肥やしにしかならないんだよなあ。
「って、呑気にゲームやってる場合じゃねえ。田中と鈴木のやつはどこに行ったんだ」
ユーザーリストには僕のCracker山田の他に、Crazy鈴木とCrasher田中の二人の名前が並んでいる。しかし、マップを見てもプレイヤーの居場所を知らせるマーカーは存在していない。
チートを使って姿を消しているのか、それともすでに別のエリアに移動してしまったのか。
だとすると、いくらレベル7684を誇る孤高のキ○ガイプレイヤーの僕だとしても探し出すのは不可能に近い。
たくさんの世界とステージが広がるSSO、シリウス社の看板を背負うはずだったSSO。一度遊んでみれば、クソゲーだなんて感想は出てこない。
答えの見えない疑問に考えを巡らせていると、再びお琴の声が脳内に聞こえてきた。
「Cracker山田さん、通算ログインボーナスが届きましたよ。早速チェックしちゃいましょう!」
「通算……ログインボーナス?」
もう長いこと聞いていなかった懐かしいその響きに、目頭が熱くなる。最後に通算ログインボーナスを貰ったのはいつのことだろう。
「一人で頑張ってきた僕に向けられた、特別なプレゼントかあ」
目を輝かせながらUIを操作していくと、プレゼントには刀のアイコンが付いていた。
アイテムを受け取って刀を元の装備品と交換する。腰に付いていた刀のデザインが更新され、見たことのないものに変更される。
「まだ持ってないやつがあったんだなあ」
柄を握って、艶消し加工がされた黒色の鞘から刀身を一気に引き抜いた。銀色に輝く切先が空を切り、うっすらと並んだ刃紋が光を反射する。
それは今まで使ってきたどんな刀よりも軽く、そして格好良かった。
「特注品なんですよ、それ」
「誰だっ」
突然、背後から女性の声がした。急いで振り返って刀を構えるが、そこには各ステージへと繋がるゲートがあるだけで、誰の姿もない。
「レベルがカンストすればプレゼントするつもりだったんです」
今度は右から。慌てて視線を向けても、宇宙のテクスチャが貼られた窓がそこにあるだけだ。
近づいてくる大型の宇宙船が頭上を通り抜けると、僕の乗っている宇宙船は大きく揺さぶられた。
「まあ、サービス終了が先にきちゃったんだけど」
「見つけた!」
視界の隅で何かが煌めいた。
目を凝らしてみると、それは髪の毛だった。流れる毛先が右へ右へと移動していく。
「強化された目で追えないものは無い!」
「えへへ。やっぱり山田さんはすごいんだね」
その声の主は、スピードを緩めることなくぴょんと飛び上がり、視界から消える。顔を上げて姿を追うも、次の瞬間には僕の真横に着地していた。
「んなっ」
「ちゃんと私を見ててよ」
不意に耳元で囁かれ、痺れるような刺激が全身に広がっていく。その声は透き通るように綺麗で、でもどこかあどけなさの残るそんな声だった。
少女は後ろ向きに宙返りし、僕の傍から距離を取る。その軌跡に、アッシュブラウンの髪が舞っている。
彼女が音もなく着地すると、艶やかな髪がワンテンポ遅れて下りてきた。
「さっき、一瞬私を見失った……よね?」
前かがみになって顔をにやつかせる少女は、初期装備の袴に身を包んでいる。
襟元から覗く肌の薄い橙色が、袴の灰色を際立たせていた。
「言ったろ、僕に追えないものは無い」
「うう嘘ばっかり! 絶対見失ってたもん」
そう言って顔を不満げな表情でいっぱいにすると、小さな体をバタつかせる。
「わかった、わかった。飛び跳ねたとき、一瞬だけ見失った」
「やったやった! 山田さんに勝った」
「で、君は一体誰なんだ? あまり見かけない顔だなあ」
見かける顔なんて、ずっと無かったんだけど。
「おお、では答えてやろうじゃないですか」
少女は飛び跳ねるのを止め、無い胸を堂々と張る。
息を大きく吸い込むと、高らかに語り出した。
「私の名前は
茅ヶ崎は溌剌とした表情でブイサインを作る。
「茅ヶ崎……もしかして君は――」
「そう、私がかの有名なCreator茅ヶ崎よ」
「……誰?」
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