電脳呪い

hikageinu: 電脳呪いって知ってる?

yuki_neko: 知らない

ushihaya: 俺も知らないな。どんな呪いなの?

hikageinu: さあ? わからないから聞いてみたの

ushihaya: なるほどね

yuki_neko: なんかの噂?

hikageinu: うーん、なんかそういう単語をみたってだけ

ushihaya: www

- system: wooden_sheep が入室しました

yuki_neko: あー、でもたしかにそんな単語どっかで見た気がする、どこだっけな

ushihaya: こんー

wooden_sheep: こんちは 何の話?

hikageinu: こんにちは

yuki_neko: こんこん

ushihaya: 電脳呪いの話

hikageinu: 電脳呪いって知ってる?>wooden_sheep

wooden_sheep: 電脳呪い・・・? あー

yuki_neko: お、なにか知ってそう?

ushihaya: kwsk

wooden_sheep: 小耳に挟んだ程度だけど

hikageinu: なになに

wooden_sheep: なんでも、電脳を通じて仕掛ける呪いらしい

ushihaya: そのまんまだ

wooden_sheep: 俺も詳しくは知らないんだけど、ウィルスファイルとかっていうわけじゃあないらしいんだよね

hikageinu: なんだろ マルウェア的な?

wooden_sheep: そういうのとも違うみたい 別にファイルがあるわけじゃないらしい

yuki_neko: ファイルがないなら呪いようがなくない?w

ushihaya: だよねえ

wooden_sheep: だから呪いなんて言われてるんだよ

hikageinu: なにもないから?

wooden_sheep: うn

yuki_neko: うーん、信じがたいなあ

wooden_sheep: 俺も見たことがあるわけじゃないから信じてないんだけど

ushihaya: あれか、キッズを怖がらせるためのデマか?

yuki_neko: それはありそう いまの電脳が快適すぎてウイルスとか知らない子ふえてるもんねー

hikageinu: ほんとね

wooden_sheep: 電脳ダイブネイティブってやつだね

yuki_neko: それそれ

ushihaya: いつの時代も痛い目見ないと学習できないかんなー 昔は馬鹿発見ツールってのが

wooden_sheep: あーそんなのあったらしいねw

yuki_neko: 何そのツール

hikageinu: わたしもしらない

ushihaya: まあこれは知らない人もいるか

wooden_sheep: 100年くらい前に流行ってた個人ログサービスみたいなのらしいよ

hikageinu: ふーん

yuki_neko: そんな昔のはさすがにしらないなー

wooden_sheep: ところでこの前うちの倉庫を整理してたら古いアナログゲームが出てきたんだけど、今度やってみないか? 開けてみたらコンポーネントがめっちゃ良く出来てたんだ

hikageinu: アナログゲーム?

ushihaya: 電源使わないゲーム、だったかな 電脳化以前の旧式の遊びらしい

yuki_neko: へー、そんなのあるんだ

hikageinu: うーん、さすがにダイブのないゲームを遊ぶ気はしないなー つまんなそう

yuki_neko: ダイブすれば大抵のことできるのにわざわざリアルのおもちゃつかう必要ないよねw

ushihaya: それは同感

wooden_sheep: んーそうか まあそうよねー

ushihaya: 史料館とかに寄贈したら案外高く売れるかもな?w

wooden_sheep: それもありだなw

yuki_neko: ゲームといえばこの前SPACE CRAFTの新しいパッチきてたねー

ushihaya: おーそういえば

wooden_sheep: おっと、ちょっと呼び出しくらったから落ちるわーまたこんど

ushihaya: おつー

yuki_neko: おつかれ〜

hikageinu: おつかー

wooden_sheep: おつおつ

- system: wooden_sheepが退室しました

hikageinu: すぺくら、最近やれてないなあ・・・

ushihaya: 今回のパッチで新しい星人がポップするようになるんだっけ?

yuki_neko: そうそう


ーー


「ふう……。電脳呪い、か」

 電脳からログアウトし、現実に戻った俺は起き上がって自分の部屋をゆっくりと見渡した。そこには真っ白な壁と真っ白な天井、そして窓が一つだけしかなかった。部屋に置いてあるものといえば寝返りするたびにきいきいと軋むベッドくらいなものだ。

 一昔前に電脳化技術が確立されてから、人々の暮らしは非常に豊かになった。食品生産以外のありとあらゆる活動が電脳城で行われるようになった結果、現実世界で必要となる空間や物資が最小になり、その結果として無駄な移動や生産が省かれたのだ。

 学校も電脳上に設立され、ほとんどの仕事も電脳上で完結する。電脳にさえつながれば娯楽も一瞬で享受できる。電脳上には人を不快にさせるものはなく、国民満足度は電脳化以前とは比較にならないほど向上した。


「ほんと、言い得て妙だよな」

 電脳のチャットルームで友人たちがしゃべっていた単語について思いを巡らせる。

 果たして誰が言い出したのか、その言葉を思いついた人は本当に現実をよく見ているな、と思う。この、電脳化によって幸福になったと、全ての人類が救済されたと言われる世の中で、電脳化そのものが人類にかけられた呪いであるなどと、そんな風に思える人がまだいたなんて。

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或る主題、或る描写。 酉ノ余一 @rtshaaaa

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