20211226 高度な完全没頭型VRは夢と区別がつかない

 長らく御無沙汰になってしまったが、あまりにも驚くべき夢を見ることになったので恥を忍んで久々に更新しようと思う。


 ひょんな事から私は、Minecraft――ブロックを掘って建築するあのゲームだ――のプレイ動画を見ていたはずだった。だが……よくよく見ると何かが違う。プレイヤーのサイズがブロックと同じだったり(普通は2ブロック分あり、しゃがまないと1ブロックサイズのトンネルは潜れないはずだ)、彼は右下方向に掘り進めていたのだが辺で斜めに隣接するブロックに移動できたりする。通常のマイクラにはありえない動きだ。

 だが、その理由を私はすぐに思い出すことになった。ある程度掘り進めた後は左上に戻り、そこから水平に左に進んだプレイヤーは、今度は今戻ってきたばかりの道を丸い穴に整えて、光沢感のある水色の撥水剤で塗り固めはじめたではないか! もちろんマイクラに1×1の穴の角を丸くする機能なんてないし、『塗料を塗る』なんてアクションもない。できるとすれば『角部分に細かく段差のついた撥水剤ブロック』をトンネル内面に配置するだけだ。これはこのゲームがMinecraftだからではない。Minecraftと、略称がMDだか何だかという都市サバイバル型一人称視点3Dアクションゲームのコラボレーションなのだ。

 このコラボは、とあるビルの地下に用意されたイベント施設で行なわれていたものだった。参加者は全身を覆う特殊な機械スーツを着込み、まるで地下工場を思わせる巨大な金属扉の先に向かう。そこで都市地下のインフラ空間を模したイベント会場を探索しながら……壁を掘ってマイクラができたりするわけだ。

 しかし、鋭い人はそこで疑問に思うことだろう……いかに専用施設とはいえ、壁を何十メートルも好き勝手掘り進めることが許される施設なんて作れるのだろうか? そもそも、よく考えれば最初の視点は、土の中からトンネルを掘るプレイヤーを俯瞰するものだった……そんなこと、現実世界でできるわけがないではないか。それができるとしたら簡単なことだ……この施設はMD×マイクラの世界を再現した施設ではなくて、着込んだスーツが着用者に適切な刺激を与えることで完全没頭型VRを実現する施設なのだ、と。

 私は最初、スーツ着用者以外は立入禁止とされている扉の先が、VRを実現するための空間になっているのだとばかり思っていた。だが、プレイは完全に他人に任せてモニターで閲覧するだけのつもりだった私が思わず扉の先に踏み入れてしまっても、特におかしなところは見当たらない。恐らく、しばらくは実際に作られた施設を探索することになり、ある程度進むとシームレスにVRモードに切り替わるのだろう……そう考えて、上手い作りだと感心した私だったが……実は、どうやらそうではなかったようなのだ。


 最初見ていたプレイヤーが、マグマに突入して焼死した。そこで彼はセーブポイントからのリスポーンを選択せずに『ログアウト』を選んだようなのだが、彼は扉からではなく、扉の手前を通る無機質な廊下――先に進むと別のMDステージに繋がる扉がある――に忽然と現れたではないか!

 VRは扉の先から始まっていたのではない。私は“既にVRの中にいた”。薄緑色の塗料に塗られた重々しい大扉も、その手前の私のいるコンクリート剥き出しのホールも、最低限のライトに照らされた薄暗い廊下も、私が地上に帰る時に使うはずのクリーム色の防火扉の先の非常階段も、全てがVRの中に再現されたものだったのだ!

 ……いいや、そのVRを与える環境そのものも、真に実在するものではなかった。何故なら私はその後すぐに、全てが夢の中の出来事だと知ったからだ。


 夢から醒めた私はまず、どこからあのリアリティ溢れるゲームの夢がどこから来たのかを知るために、MDなるゲームを検索することにした。すると……ああ。やはり実在する、そこそこ有名なゲームのようだ。あのポップな「の」の中央の線を上に繋げず右の線を繋げて丸くしたようなオレンジ色のロゴも、私が夢で見たものだ。私はこのゲームを、どこかで名前を見たり、ゲーム系記事や動画が目に入ったりしたことで印象に残していたに違いない。それが別途よくプレイ動画を見るマイクラと一緒になって,夢にまで出てきたのであろう……。


 ……という夢。

 夢中夢を見たのは久々だ。だが、完全没頭型VRというものをある種の白昼夢として認めるのであれば……もしかしたら私は、夢中夢中夢を見ていたのかもしれない。

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幻夢郷を彷徨いて @tomotomo_sakura

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