20160914 魔王/勇者システムの経済的意義
今日の夢はなにぶんカオスであった。
確か最初は、実家でやけに大量の布団や洗濯物を取り込んでいたはずだ。が、いつの間にか実家の“最寄り駅”である大船駅から実家まで“横須賀線”で帰ろうとしていて“渋滞に巻き込まれ”、運転手が“線路から外れて幾つもの線路を横切って反対車線の一番端の線路へ移動”したところ線路が崩れていて脱線し、慌ててタダでさえいびつな地形の上に必死で玩具の電車(しかも車体は拾ってきた木片で作ったいびつで不恰好なもの)を並べていたところ、近くの魔王居住のビルの一室に勇者一行が討ち入って、さらにそれを一人の老人が殲滅して新魔王となり、それと関係があったかどうかは忘れたが、「電車が復旧しないとお前も家に帰れないぞ」と脅されて「別に徒歩でも帰れるので」と返した記憶が私にはある。そして私は実際そうしたのか場面は実家から徒歩十数分ほどの場所になり、誰か狼藉者がヒャッハーしたところ勇者を詐称した海賊風の男(実家は横浜とはいえ山寄りの場所である筈なのだが)に返り討ちに遭い、海賊男は言い出しちゃった都合引っ込みがつかなくなったのか元々あった建物や地形をマインクラフトよろしく削って本当に勇者のための町的な施設を作ってしまい、そこから新魔王討伐のための新勇者一行を出そうかという話になった辺りで、一人の老人が魔王とは何か、勇者とは何かを説き始めたのである。
他の内容も十分に興味深く、また夢はもう少し先まで続きはしたのだが、私は敢えてそれらをこれ以上説明するのではなく、老人の語った、『魔王と勇者』というシステムがいかに経済的なカンフル剤として働き、人類の発展に寄与するのかという話を、もう少し掘り下げていきたいと思う。
私も含めて人々の多くは考えてみた事もないが、老人によれば魔王とは、倒される事にこそ意義のあるシステムなのだ。老人自身の言葉は本質を突いた短いものだけであったので、私は幾つかの私見による注釈を交えている。できるかどうかはともかくとして、なるべく解りやすく伝えたられれば幸いだ。
老人の言によれば魔王は、一種の富の強制再分配のトリガーそのものであるらしい。彼は人々を抑圧し、その富を奪ってゆくようには見えるが、実のところ人類の余剰資産を掠め取っているだけに過ぎないのだ。局所的には悲劇が起こらないわけではないものの、全体として見たならば、魔王は自身の富を増やすため、最も効率のよい場所を攻撃する事だろう……すなわち彼は、富裕層が貯蓄したまま社会に還元される事のない富を奪ってゆく。
第一に、人類全体の富の総量というものは、余程の大戦争なり大災害でもない限りは増え続ける。しかし人類全体の社会水準の成長ペースは、一般にそれよりかなり遅い。
この差は、投資効率は投資額が多いほどよくなるという一般原則から容易に導けるだろう。富裕層は投資可能額が大きいためにますます富み、一方で貧困層は、社会全体の富が増しているにもかかわらず、余程の幸運がない限りはその恩恵に与る事すら難しい。
幸いにも近代国家の大半は、このような格差を是正するため、ある程度の社会福祉を導入してはいる。確かにその試みは一定の成功を収め、富の総量と社会水準の解離はそれ以前と比べれば大幅に改善してはいるのだ。しかし依然、その量は十分とは言い難い。
さて、ここで我らが魔王の登場である。
魔王が専ら効率の面から、富裕層の資産の略奪を行う事は前にも述べた。しかし、この事は単に富裕層の経済的成長速度を抑制するのみならず、間接的に民衆の成長をも促しているのである。
前述の理由により、魔王による脅威は貧困層よりも、富裕層に対してより強く働いている。この脅威に対抗するため、彼らは防衛のための部分的な資産放出を強いられる事となる。無論、この散財の享受を受けるのは、傭兵、武器職人などの平民であろう。魔王討伐のための技術開発は、さらに大いなる影響を人類に及ぼすかもしれない。
かくして富は市中に出回り、部分的ではあるが富の再分配が行なわれる……しかし、真の富の再分配はこの後、魔王が倒された際に始まるのだ。
魔王を倒した勇者一行は、魔王の収集した財産の正当な後継者となる。一部は本来の所有者が返還を要求し、そのようになるかもしれないが、その際にもある程度の謝礼が行なわれるものであり、勇者が多くの金銭を得る事に違いはない。
これら大量の財産は、多くの勇者にとってはあぶく銭である。彼らの金銭感覚は、一般人と比べれば富豪的であるかもしれないが、真の富裕層ほどのものではない。ゆえに、彼らの手に余る多くの財産が、短期間のうちに市中に放出される事になる。彼らは勇者であるから、場合によっては孤児院などの最も貧困に苦しむ者たちへ、直接的に支援する事もあるに違いない。また富裕層自身も、市井で魔王討伐の祝賀会を開くなどし、それなりの財を放出するだろう。
一連の騒動により市民に還元される財は、魔王から奪還した総量と比べると確かに微々たるものであるかもしれない。が、元は長期に渡って収奪されたものが数日から数週間のスパンで放出されるのだから、その経済効果は計り知れない。
このように魔王はその死によって、人類に絶大な経済成長をもたらすのである。言うまでもなく、それはしばらくすれば穏やかに元通りにはなるが、その過程で社会全体に行き渡った富は、人類全体の生活水準を押し上げて、次なる魔王の到来に備えさせるのである。
その富は、元はといえば富裕層が、意味もなく永遠に死蔵するはずのものであったのだ。魔王は、自らの命に加え、不幸にも魔王の襲撃に居合わせた者たちと自らの力量を見誤った勇者候補たちの命のみにて、それを人々へと解放したのだと言えよう。
無論、彼の生んだ悲劇を取るに足らないものと看做す事は、決して赦される事ではあるまい。が、それでも拡大しすぎた格差を是正する方法として革命を待つよりは、定期的に魔王が表れて、それを勇者が討伐するという枠組みは、余程よくできたシステムなのだ。
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