20160913 呪われしTwitterアカウント

 思わず飛び起きて少し経ち、こうしてこの文章を書いている今ですら、いまだ自身の全身が微かに震えているのを、私は確かに感じている。そしてあのアイコンを脳裏に想起する度、その恐怖は再び私を打ち震えさせる。

 それでも私がこうしてカクヨムの真っ白い画面と向かい合い、たった今見たばかりの悪夢を書き記そうとしているのは、ひとえに、そうでもして何かに夢中にならなければ、夜の部屋の暗がりの中に恐るべき何かを幻視してしまいそうになるからに他ならない。実際、この明るいPC画面から僅かでも目を逸らしたならば、私は今もあの悪夢の中の恐怖をありありと思い出してしまうのだ。

 あのアカウントが夢の中の存在に過ぎないからこそ、人々は安寧の下に現実を過ごせるのであろう……否、たとえ夢の中であったとしても、あれは決して覗き見てはならぬ代物だったのだ。


 その時、夢の中の私が何をしていたのかは、ついぞ思い出す事はできやしない。恐怖の衝撃が全てを覆い隠して、それ以前の印象を朧げにしてしまったからだ。私が辛うじて思い出せるのは、その場に弟がいたという事と、その時私はベッドの上にいたという事(これが私の再びの睡眠を妨げるのだ!)だ。

 兎に角、私はベッドの上でごろごろとしながら、スレッド式Togetter、あるいは各レスがツイートになっている2ちゃんねるとでも表現すべきサイトで何かの情報を集めていた。もっともその仕様は決して使いやすいものではなく、偶に見たくもないお勧めスレッドを、押し付けがましく提示してくれるのだが。

 私がそのアカウントの存在を思い出したのも、私の本来読みたかった情報にいまだ新規更新がなく、更新を待っていたさ中、そうして表示されたスレッドの一つだった。それは本来『呪い』とは無関係なものであったのだろうが、今までも同様に表示された事があったので、何らかの経緯で途中から『呪い』の話題に移り変わっていた事を私は知っていた。

 ああ、私がこれ以上の興味を示さなければ、私が今恐怖に苛まれる事など、決してなかったであろうのに!


 それは、一つのグロ画像であった。特殊清掃の方々が目にするような光景のうち、最も凄惨で恐ろしいもの。

 普段なら私がそんなものに興味を持つ事はないはずなのに、私は不思議にも、その内容が表示されないうちにリツイートボタンを押すという悪戯を思いついてしまったのだ。表示しっぱなしなら間違いなくフォロワーが激減するが、すぐにリツイートを取り消せばいいだろう……そんな甘い考えに取り憑かれて。

 だが、私がそれを行なった瞬間、弟がこの世のものならぬ悲鳴を上げたのだった。霊が弟に取り憑いたなどという非現実的な話ではなく、そのグロ画像を弟が目の当たりにしてしまったがために。


 この時の私の戦慄は、一体いかばかりであっただろうか? 兎に角私は、ただちにこのリツイートを取り消さねばならなかった。そのためには一旦ツイートを表示しなければならないが(何故その事に私は気付かなかったのか!)、その凄惨な光景だけを隠してリツイートの取り消しを行なうために、私は枕を画面に押しつけて、件の画像を隠した状態で操作せんと試みたのだった。

 だが……何という事か! 枕を画面に押しつける手は、まるで画面から何かのオーラが発せられているかのように画面からの反発力を受け、どうにも次の作業にとりかかれない! その事がさらに焦りを生んで、画面を隠す手に入る力を奪い去らんとする。

 それでも辛うじて枕を画面に押しつけたところで、反発力は失われたようだった。あるいは単に私の精神的緊張が、体を思うように支配できなくしていただけであったのかもしれない。

 が……話はそれだけでは終わらなかったのだ。


 画面の隅に表示されるメニューから、私はツイートを取り消すボタンを探した。だが、それは奇妙な事に、グレーになり押せなくなっている。

 すぐさま私は方法を変え、別の画面からならツイートを取り消せるのではないかとページを移動した。だがその時……私はこのグロツイートの主のプロフィールページに飛んで……。

 ……あの時の恐怖をありのままにこの場所に再現する事は、恐らくは私の力では不可能だろう。だが、それゆえに私はそれをここに記すことが許されるのだと信じ、再び語る事を続けよう。


 そのプロフィールに設定されていたアイコンは、人間の顔を額のあたりから見下ろしたようなものだった。白く塗られたその顔はまるで宗教画のように無表情で、細い線で小さめに描かれた目鼻と口。額には小さな十字架が刻み込まれており、口元をよく見れば僅かに血らしき赤い線が描かれている。

 これが、死体の顔をモチーフとしている事は、誰の目にも明らかであろう。これはこれで恐ろしいのだが、このアカウントが通常のものでない証拠は、アイコンよりもその下に記されたアカウント名にあったのだ。

 通常、Twitterのアカウントを表示すると、表示名に加えて@で始まるアカウント名が表示されるはずなのだ。だが、そのアカウントに表示されていたものは……ただ一文字、「?」のみ。


 最早、私は正気ではいられない。結果、あまりの衝撃に飛び起きたのは、冒頭に述べた通りであった。その後、こうして長々と文章を書き連ねていれば、いつしかその恐怖も和らぐだろうと私は期待していたが、ふと喉の渇きを感じて冷蔵庫に向かった時、私は辺りの暗闇の中に、依然としてあのアイコンと「?」の恐怖を想像せずにはいられない。

 私は、どうしてしまったのであろうか? 大の大人が家の中の暗闇を恐れるなど、通常であれば考えられない事だ。

 私は夢で、あのアカウントに呪われてしまったのではなかろうか……それが私の想像力の産物に過ぎない事を、私はただ祈るばかりだ。

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