初恋ギミック

のつわ なごみ

私-プロローグ-


初めて男の子と手をつないだのは幼稚園のときだった。

初めてラブレターをもらったのは小学生のときだった。

初めて告白されたのは中学生のときだった。


初めて、恋に堕ちたのは高校生のときだった。








私は、将来の夢や目標を持って、日々を過ごしている様に見られたかった。良くも悪くも平凡という自分の在り方を肯定できなかった。内気で、内弁慶。ナイナイずくしの癖にプライドは高め。そんな自分が嫌いなのに、無理矢理、理想の自分を演じていることも癪にさわる。自分から積極的に他人に関わりにいくこともなく、声も小さい。極端に可愛いわけではないが、不細工でもない。これで、見た目も個性的であればクラスの暗くて怖いやつという平凡以外の望まぬ評価と注目くらいはされただろう。運動部に所属し、派手でない程度の成績を残していたことで、ギリギリ平凡でいられた。そんな私が中学時代の3年間という短い間に自分の殻を打ち壊すことも、もちろんできなかった。だから、受験だけは背伸びをした。母親のしている介護の仕事に影響を受けたふりをして、介護分野など、幅広い専門的な授業を自分で選択できる単位制の高校を受験した。しかも、早々に受験を終わらせた勝ち組になろうと、推薦入試を選んだ。成績まで平凡な私の合否は、完全に面接にかかっていたが、これまでの流れで誰もが想像できる結果しか得られなかった。共に受験結果を見に行った人達の中で、受験に失敗したのは私だけ。友達と呼べるくらいには交流のある人達からの同情の目線が辛かった。その場で泣くことができない自分にもっと嫌気がさした。私の心がガラスなら、すでに原型を留めていなかっただろう。


内弁慶なわたしは、家が大好きだった。なにも、はりつめるものがない。この家があるから、私のすべてを見ていても愛情を感じさせてくれる家族がいるから、私は学校というノルマをこなすことができていた。

だから、家では、母親の前では、受験失敗の挫折感を涙で表現することができた。そして、一晩泣き続ける私を慰める母の言葉を聞いて、この母親には自分の醜い魂胆など、すべてお見通しだったと気付かされた。

「頑張ったね。だけど、あなたに介護職はむいてないよ。今は、そう思い込んでるだけ。ちゃんと考え直すいい機会よ。」

母の言葉が、頭の中でこだましていた。私の見栄をわかっていて、付き合ってくれている。決して裕福な家庭ではないのに、そんな見栄の為に希望した受験費用をなにも言わずに払ってくれている。今までの生活を振り返っても、衣食住に何一つ不便を感じさせられたことはない。当たり前として受けていた生活や愛情に気付かされる。だけど、それと同時に母の私を見透かした正しい目を見れば、心が捻れるような感情も湧き上がる。

あぁ、なんて私の心は醜いの。傲慢で我儘で陰気で嫌になる。それでも、きっと私はそんな自分を変えられない。いつの間にかまたこの贅沢な日常を当たり前に過ごして甘えて生きていく。


それが、私が私である為の生き方だから。









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