僕は見つける
僕がスクールカウンセラーとして、派遣された学校は地元では1番の進学校だった。
そのため、進学校ならではの悩みを抱えた生徒は少なくなかった。さらに、最近は親御さんへの対応にもあたらなければいけないことも多く、非常勤講師扱いとはいえ、かなり忙しい日々を送っていた。
だが、長期的なカウンセリングが必要な生徒はあまりおらず、いじめや自殺などの大きな事件もなかったため、徐々に仕事量は軽減していった。そして、赴任して3ヶ月ほど経つと、かなり仕事に余裕ができるようになっていた。
だが、余裕ができると同時に、この学校の生徒達の品行方正さに、つまらないという感情をを
面倒な事件や問題がおきてほしいわけではないが、人生への漠然とした不安や人間関係、青春まっさかりな悩みを抱えている子達がもう少しいてもいいのではないだろうか。それともただ、僕は、その悩みをさらけ出すには値しない相手と判断され、僕の前では、心に仮面をしているだけだろうか。
このままでは、僕がスクールカウンセラーになった意味があまりない。
カウンセラーとしての能力をもっと磨かなければいけない。
僕はそもそも、多種多様な人間の心理を、人の心を観察したくて臨床心理士になった。
さらに言えば、臨床心理士として、企業と契約があるにも関わらず、スクールカウンセラーにもなったのは、歳の離れた妹と、話しをする時に役立つかもしれないと思ったからという理由だけである。こんな不純な動機を誰にも話したことはないが、勘のいい生徒は、僕の根底に優しさや慈愛なんてないことを感じているのかもしれない。
僕には、生徒達に心の底から寄り添うなんて真似到底できない。
慈愛なんてものは、持ち合わせていない。
本音を言えば、思春期の子供なんてプライベートでは関わりたくない人種でしかない。
だけど、そんな僕がカウンセラーでいる事ができるのは、その優しさを持っている、と装うことのできる仮面を持っているからだ。
この仮面こそが、僕が磨くべきカウンセラーとしての能力。
トン、トン、トトン
僕の相談室に軽快なノック音が響いた。
「こんにちは。今、お邪魔していいですか?」
「こんにちは。どうぞ、ご遠慮なく。」
そう言うと、彼女は、一瞬で偽りの困り顔を解除した。相変わらず、切り替えの早い人だ。
彼女の名前は宮下まり。この学校の国語教諭で、2年2組の担任を受け持つ24歳の新米教師。僕のカウンセリングを受けている
彼女がここに来るときは、必ず僕に厄介な仕事を持ち込んでくる。今日も何かを抱えてきたに違いない。
「それで、宮下先生。今日はどんな面倒がおきたんですか。」
「ちょっと!面倒とはなんですか。仮にもあなたカウンセラーでしょ!」
彼女はプンプンという、ありきたりな擬音が似合う表情をうかべていたが、すぐに切り替え、真剣な表情で話し始めた。
「私のクラスに、
「三倉屋?あの
彼女はたしか、この学校で男子生徒、女子生徒、そして教師からも良い評価を、入学時から受け続けている
「その三倉屋さんです。た、たしかに美少女ですけど…まさか!ダメですよ、生徒に色目を使うなんて!」
本当に「まさか」だ。
僕が妹以外の女子高生に興味を持つなんてありえない。心外である。
確かに彼女の心理模様については、興味を持っているが。
「色目って。先生以外に色目なんて使うわけないじゃないですか。」
「え、それってどういう…」
真顔で発言した事が功を奏したようで、宮下先生はそう言ったきり思考の渦にのまれていったようだ。
切り替えの早い彼女にしては珍しい。
こういった分野には
僕は決して、宮下先生以外とは言っていない。
「そ、そんなこと話しにきた訳じゃなくて!三倉屋さんの話しを聞いてあげてほしいって事を言いに来たんです。」
やっと気を取り直した彼女の話は、三倉屋さんがいじめを受けているかもしれないのでそれとなく話を聞いてほしいというものだった。
「少し考え事をしている事が多くなったように見えるんです。それに1度、靴下や制服がが少し汚れていたのを見かけて…。」
「それだけで僕を使うなんて、自分の生徒に過保護なんですね。そんなに始めから
切り替えの早い彼女だが、切り替える先々で何かにぶつかるタチである。
「私の取り越し苦労ならそれでいいんです。とにかく、三倉屋さんには明日の放課後ここに来るように言ってありますから、よろしくお願いしますね!」
とはいえ、彼女は意外と鼻がいいのだ。
三倉屋あかりが、いじめを受けているとは思えないが何かがあるのは確かだろう。
それに、三倉屋あかりは、僕もヒエラルキー上層部の中でも特に注目していた人物だ。
彼女は、上層部にはいても、決してトップになろうとはしない。それは、立ち位置だけでなく、勉強やスポーツにおいてもだ。
それが僕には不自然に見えたからだ。
自分以上の人間はいるが、優秀と見られる最低限のラインを常に保ち続けることはそう簡単ではない。
これを意識的にやっているというのなら、彼女は相当な切れ者だ。
そんな人物が抱えているものに、感じていることに、触れられるのならば、僕にとっても、とても収穫のある仕事になる。
この学校も案外、面白いじゃないか。
先程まで感じていたつまらなさなど吹き飛び、明日への期待で僕の心は満たされていた。
「あ、あと、私にも色目を使うのはダメなんですからね!だけど、ご飯くらいなら一緒に行ってあげなくはないです…そ、それじゃあ失礼します!」
顔を真っ赤にして去っていくあたり、確かに彼女は初心なのだろう。
だが、彼女の神経は案外図太いようだ。
冗談のチョイスには、気をつけなければいけない。
そーしゃるwithドロー悪 のつわ なごみ @aikia
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