第100話

 いきなり私でも知っているような妖怪が出てきてビックリ。

というか、風神、雷神って妖怪なの?

だけど…。


「水樹、どうすんだ?」

天大の心配を他所に、私は皆に指示を出した。

「雛ちゃんは、いつでも治癒出来る準備しておいて。」

「はーい。」

「天大は手出し無用。皆に被害が及びそうな時は逃げて。」

「お、おう…。」


「黒爺は…。」

「ん?」

「私がやり過ぎないように見てて。」

「はぁ?」


黒爺は珍しく驚いた顔をしていた。

「水樹殿…。まさかお主…。」

「まぁ、そういうこと。」

そう。私は二人の実力を見切ってしまった。

一気に霊力を上げ、青いオーラを纏った。

これだけで風神、雷神は恐ろしく警戒し始めた。

大きく息を吸い込む。


「「「平伏しなさい!!!」」」


言の葉の力に、風神と雷神は怒りの形相を見せた。

まさか武器も構えず、口先だけで自分達を抑えこもうとしたからだ。


だけど…。


二人は意思に反してぎこちなく片膝を付いていく。

「ぐぬぬ…。」

そう、私の力は彼等を軽く超えてしまっていた。

それも結構な実力差があるみたい。

そうよね。

私より実力があるなら、魔物化しても関係なく、さるとらへび退治に出撃してるはず。


二人は私の前を開ける。再び陛下の顔が見えた。

すると直ぐに霊力が一瞬だけ高まると、再び何かを召喚した。

私でも知っている。


仁王像の阿形あぎょう吽形うんぎょうだ…。

霊力を高め朱雀を抜く。風神、雷神よりは力は上だと視えた。

「親衛隊5番隊、阿形!」

「そして吽形参る!」

一気に番号が飛んでるよ…。


だけど…。

私は再び深く息を吸い込んだ。

………。

風神、雷神達と同じようにしようとしたけど、私には二人の心の中が少し視えた。

なるほどね…。言の葉の力を止める。


逞しい肉体からは霊力が溢れでている。

私は朱雀を構え、皆に「さっきと同じようにしてて。」とだけ伝え攻撃体勢に入る。


阿形と吽形は武器を召喚しなかった。

素手で私に立ち向かうつもりみたい。だけど…。

「それが慢心というものよ!!!」


一瞬で阿形さんの顔の前に現れる。

怒りの表情のまま驚いている様子だった。

私は朱雀の刃ではない背中側で首を強打した。

所謂、刀背打ちってやつ。

彼は一瞬の出来事に対応しきれず白目を向いて倒れた。

ドスンッ…


吽形さんは、その様子を冷静に見ているようだった。

私は朱雀を鞘に収め、彼と同じく素手で構える。

「!!」


これだけだが、彼のプライドを傷付けたみたい。

静かながら心に秘めた怒りの力で襲いかかってくる。

小回りの鋭い足払いから右手で殴りかかる。


それを完全に見切り交わすと、突き出された右手を持って背負投げのようにして頭から投げ落とした。

ドスンッ…


吽形もまた、白目を向いて倒れこんだ。

「そこまで。」

陛下が戦いを止めた。

そうだね、これ以上、何番隊が出てこようともだいたい先は見えているかも。

これでは、さるとらへび退治は無理な話しよね。


「すげー。」

天大が訳も分からず、ただ驚いていた。

雛ちゃんは阿形さんと吽形さんの治療にあたる。

黒爺は私と同じ感想を持ったみたいだね。


「見事です、水樹殿。私の親衛隊長になっていただきたいぐらいです。」

「いえ、私は彼等の指南役をしたいと思います。」

その提案に陛下は少し驚いていた。

「ほぉ…。それも良いですね。」

静かにニッコリ笑われた陛下とは対象に、雷神さん、風神さん、目を覚ました阿形さん、吽形さんは顔を見合わせながら苦虫を噛んだような顔をしていた。


私の提案を受けたという事実に、一つ分かったこともあるよ。

それは今だ妖怪の脅威があるということ。

陛下が襲われる可能性があるってことだよね。

そうじゃなければ、彼等でも十分務めが果たせるはずだもん。


「水樹殿は将来、何かやりたい仕事があるのですかな?」

突然の言葉に、私はちょっとだけ考えてから答えた。

「はい!地元の活性化がなるような仕事がしたいです!」

「なるほど、そうですか。岐阜県代表、安藤 岐阜守 水樹という肩書きもありますから、少しだけ便宜を計らせてください。」

「いえ、私は実力で仕事に…。」

「勿論、直接手を出すつもりはありませんよ。妖怪達との共存・共栄、それはつまり自然保護などにもつながっているのです。なので、そういった部署を各市町村レベルで協力してもらえるよう言ってみましょう。」

「ありがとうございます!」

深々と礼をし、仲間と共に帰ることにした。

陛下は立ち上がって、優しい笑顔で手を降って見送ってくれました。


「結局、今日のは何だったんだ?」

ある意味、拍子抜けした天大。

まぁ、てっきりもっと荒々しい顔合わせだと思っていたよね。


「まぁ、簡単に言ってしまえば、妖怪を束ねるはずの天皇家を含めた組織の弱体化が著しいってことじゃろうな。なので、巫女の力の強い者に協力を仰ぎたいところじゃろう。京などに配置されている守護妖怪達もあのざまじゃ…。陛下も心許なかろうて。」

黒爺の分析に異論はないよ。


「なるほどですねー。私はてっきり水樹ちゃんが可愛いから会いたいのだと思っていました~。」

雛ちゃんの甘い口調に軽く引くよ…。

いや、ドン引きだよ…。


「私は、陛下が何者かに狙われているのかもって思ったよ。」

「それもあるかもな。敵は国内ばかりではなかろうて。まぁ、水樹殿が素直に協力に応じるとは思わなかったがの。」

黒爺は冗談を言いつつ笑っていた。

まぁ、岐阜は京からも案外近いし、そこで騒ぎがあれば、直ぐに人事ではなくなると思ったからだよ。

だったら自分で守った方が早いっていう思いもあったかも。


「水樹ちゃんがあんなお仕事がしたいなんて知らなかったです。私も一緒にやりたいです!」

雛ちゃんはいつまで私を狙うつもりなのかな…。

苦笑いしながらも、でも彼女が割りと本気でそう思っていたので突っ込まないことにした。


「まぁ、俺はまだ決めてないけど、取り敢えずは走り続けてみるかな。」

「応援する!」

私の笑顔に彼は照れていた。ふふふ…。


 こうして朝廷とのつながりをもち、更には妖怪達の岐阜県代表としても頑張ることとなった。

高賀山の妖怪達はそれを自分達の事のように誇ってくれたのが嬉しかった。

巫女が代表を務める県は少数ながら他にもあると、白狐さんが教えてくれる。

いつか、そういう人達にも会ってみたいな。

もちろん、県を代表するような妖怪さん達も…。

そして半年に一度は京都や主要な神社などに行き、そこを守護する妖怪達の戦闘指南をする。


そうこうしているうちに高校を卒業、そして大学で地域振興に関することを天大と一緒に学び地元に帰ってきた。

大学生の間も何度かの妖怪退治はあったよ。

そこから国外からの脅威を知ったし、他県の仲間とも少しだけど知り会えたりした。


大学卒業後は地元に戻り、市役所に務めることとなる。

その年から新設された自然保護・環境観察課という、名前からは税金の無駄遣いなんじゃないかと突っ込まれそうな課に配属された。


これが陛下が言っていた協力するということなんだと思った。

あまりにもタイミングが良すぎるよ。

私はここで色んな地域振興になるようなイベント、例えば星空観察ツアーや歴史に関するツアーなんかを計画したりして奮闘中。

日々妖怪さん達とも親交を深めてもいて、忙しいけどとても楽しい毎日を過ごしています。


 雛ちゃんは、陛下との対面後での言葉通り、私と一緒の部署で働いている。

トラブルメーカーでもあるけど、それでもひたむきに努力する姿や、私が気づかない視点で助けてくれたりと、周囲の期待を裏切りつつ頼りになってる。

容姿や守ってあげたくなるような性格で、結構モテるのだけども、未だに私に興味があるらしく、私が結婚するまでは男に興味は出ないと言って、幾度もあった告白を全て断ってた。

うーむ、これでいいのかな…。


 天大は大学在学中に短距離100m走で日本一になったよ。

彼の絶え間ない努力が実を結んで本当に良かった。

しかも、世界陸上という大舞台でも記録を塗り替え世界一に!


数年後に控えるオリンピックでも期待されていて、今まさに輝いてる!

今やスポンサーもついてトレーニングに励んでいるよ。

だけど地元をメインにしているから、いつでも会えて良かった。

私も嬉しいよ。


 黒爺こと、藤原の高光様は高賀神社の近くのいつもの祠に棲みながら、高賀山周辺の安定に努めてくれているよ。

さるとらへび退治の時よりも笑顔が増えてるのがとっても印象的だった。

彼は平和を誰よりも望んでいたんだよね。

それに、彼の下す公平公正な判断に、今は妖怪さん達の信頼がとても厚いよ。


こうしてさるとらへびにまつわる闘いは幕を閉じました。

このまま平和な時を刻むのかと思っていたけど…、色々あって大変です。

そんな苦労話は、またお時間がある時にでもお話ししたいと思います。


結局、天大との恋はどうなったかって?


それはご想像にお任せします!




こうして、さるとらへびを中心にして起きた、一連の妖怪騒動は幕を閉じた。

透き通った美しい板取川が流れる洞戸には、今日も水樹の元気な声がこだまする。

その声は、天大や雛や黒爺、そして妖怪達にも聞こえていた。

高賀山は静かに、彼らを見守っていく-----

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さるとらへび しーた @sheeta

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