珈琲

 砂糖を少し入れる。甘く甘くするために。どれだけ入れてもわからないから、誰にも知らずに入れられるから。美味しいなんて思っても無いから、苦いフリして珈琲を飲むの。

 憎しみを少し入れる。甘く甘くはならないのに。私の中にどれだけ入れても、誰にも気付かれないでいれるから。お腹にたまってもたれちゃうのに、吐かなきゃダメだってわかっているのに。

 辛さを少し入れる。甘く甘くはならないのに。私の外にはおいとけないから、見えないところに溶かして混ぜる。喉のとこまで戻ってきてても、きっとみんなは知らないんだから。

 でもミルクは入れちゃダメ。黒くなくなってしまう。そしたら、きっと、苦くないことが知られてしまう。苦い珈琲を飲まなきゃいけないから、ごまかしたらいけないって言われているから。

 でも吐いてしまうのもダメ。片付けは誰もしてくれない。そしたら、きっと、戻した臭いでまた吐いてしまう。苦い珈琲を飲むためには、慣れるしかないって言われているから。

 私は、苦いフリして甘くする。そうしなきゃ飲めないから。

 残したらダメなんだって。

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或る日記 若草 優人 @garde_SYT

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