飲み会の三角コーナー
「あぁ、えーっと私の元いた研究室のボスに相談してみるのはどうでしょう?、」
彼女もといあおは、少女もといそらの話を聞いてそういうことならと申し出た。
三十路であおというかっこいいあだ名をつけられるとは思わなかった。しかし、今日の服装もチェック柄のシャツにジーパンという少年仕様なので、まあそれもそれでありなのか。
元彼氏には幼女体型と呼ばれたその四肢も相まって、そらと並ぶと完全に小学生の遠足帰りである。
先程から電車の中ではまた、そらがさっきの話の続きを聞かせてくれた。
あおは、バームクーヘンをたべてから歩き疲れて眠かったので話半分に聞いていた。なのであまり覚えていないが、
「まあ、そんなわけで政府の関係者にこの事実を伝えて、君たちがどうしたいのか決めてほしいのだ。」
というそらの話の最後だけ聞いてうとうとしながら冒頭のように答えた。
「そうか!君のボスはそんなに顔の効くお人なのか。是非お会いしたい!善は急げだ、明日行こう、そうしよう。」
そういってそらはご両親に連絡してくるといって、子供ケータイを片手に列車のバルコニーの方に行ってしまった。さっきは急がば回れだとか言ってなかったか?と、あおは内心思ったがそれより何より眠かった。あおはそらに生返事をすると、電車の心地よい揺れと西日の暖かさにやられて、うとうと眠りにおちてしまった。
ふと目が覚めると、最寄り駅でちょうど電車が止まる頃であった。あおの左肩にはそらが頭を乗せて寝息をたてていた。少女の黒髪からとても芳醇な香りがして、あおはなんだかそわそわしてしまった。
とはいえ、次で降りなければいけないので席を立ちたい。天使の眠りを妨げるのは申し訳ないが、ここは涙を呑んで揺すり起こす。
「起きてくださーい。、私の最寄り駅に着きました、私は降りますよー」
目を覚ました少女は、
「ん、ぁ?おお、寝てしまっていたのか。...おっと、これはすまない、肩を借りていたようであるな。」
そう言ってそらは、んーっと大きく伸びをした。あおは、それではと言って席を立つ。
当然のようにそらもついてきて、2人は駅のホームに立った。
「そらさんもここなんですか?、」
「いや、君の最寄り駅であろう?今日は君の家に泊まると言っていなかったかな?」
初耳である。もしかしたらうとうとしてる時にそらがしゃべってたのかもしれない。
しかし、だ。うら若い少女が、独身三十路(ただし性別は女)の一人暮らしの家にお邪魔するというのは、そっち系の漫画で散々検証されてきた可能性ではないだろうか。あとは布団に押し倒すとフラグを回収できるのだろう?レズ展開も需要はある。どうする?まじで家に来るの?
あおの頭の中では実にコンマ2秒の間に、さまざまな思惑と憶測を捻り出して検証した後、少女の行動は不明であるという結論しか得られなかった。仕方ないので苦笑いで頷くしかなった。なるようになれである。
そんなわけであおとそらは現在、あおの家でちゃぶ台を囲み、あおが北九州市で買ってきた食材で作ったカレーを頬張っている。
「ほ、ほういえばあお、教授殿にはアポを取り付けてくれたかな?」
そらは大きめに切ったじゃがいもを飲み込みながら聞いた。
「え、ええ。さっき電話してみました。今週末に時間がとれるそうで、会っていただけるとのことです。」
「まずは日本を取り返す第一歩だな。気張っていこうじゃないか!へい!カンパーイ!」
そらはあおの冷蔵庫からとってきたビールを勝手に開けて呑んでいる。
「かんぱーい、」
あおもつられて呑んでいるわけだが、カレーにビールはなんと奇妙な取り合わせだなと思った。それよりなにより、
「それよりも!そらさん、、未成年じゃないんですか?」
そらは豪快にビールを流し込むと、そこらへんの飲み屋のおやじっぷりにぷはー!っとグラスを空けると、
「私のいた日本に未成年にお酒を飲ませていけないなんて法律はない、だからよいのだ!」
などと異世界理論を持ち出して、早くも次の缶を開けている。
「今の我が家ではさすがにお酒は呑めなくてな。いやぁアルコールに飢えておったのだ、さ!カンパーイ!」
そらがどんどん注ぐものだから、あおもつられて呑んでしまう。大学時代は小柄な割にはなかなか飲みすぎても潰れないことに定評のあったあおであったが、久々にたくさんいっきにアルコールを入れたせいか、ふわふわとしてきてしまった。
「おお!おぬしもなかなかの飲みっぷり!」
あおは、少女が感心するのでいい気分になって、またついビールを飲み干してしまった。
すかさず空いたグラスに注がれる金色の液体。
「あははー、、もうそらさーん飲めませんよー。カンパーイ!!」
「いよっしゃこい!カンパーイ!」
...
「、、んん。」
あおが気がつくと頭がとても痛かった。まぶたもすごく重い。そういえば、昨日はそらと飲み明かしていたことを思い出した。大学を辞めてから四国をふらふらしていたときに、物珍しさから買いまくった芋焼酎やらなんやらが結構あったはずだが、昨日はそれをそらが見つけて、2人でがっぽがっぽと空けまくってしまった。一升瓶を2つ
重いまぶたをこじあけて薄目で周囲を確認してみる。カレーを食べていたちゃぶ台をは何故かひっくり返っていて、しかしカレーのお皿は台所に放り込まれていた。近くには冷蔵庫のありったけのビールの缶が転がっていて、無数の空き瓶がそこらじゅうに立ち並んでいた。カーペットの上には無数のお菓子が散らばっていて阿鼻叫喚である。
ふと右腕に素敵な感触を感じてそちらを見やる。
まだ発展途中の小さな丘が、2つ見えた。それは空色の可愛らしいキャミソールに包まれていて、ゆっくりと上下していた。
その丘を下るとキャミソールのはしから真っ白で触ったら気持ちが良さそうな
スラリと伸びたこちらも触ったら気持ちよさそうな2本の足は、どうやらあおの足と絡んでいるようで、それでやっとあおは、自分も下着しか装備していないことに気がついた。
なにも理解出来なかったが、よく分かった。二日酔いも一瞬で吹き飛ぶほどに。
とりあえずそらの寝顔が天使のようであった。
「っつー、頭がー。うぬ?ああ、おはようあお。いやー久々に飲みすぎたな。」
あおが状況を理解出来ないでいると、そのうちそらも目が覚めたようだ。
「お、おはようそらさん?その、、昨日はご迷惑を、、?」
「お?いや、私もそんなに覚えていないが。まあなんだ、とても楽しかったぞ?」
そらの断片的な話では、
まずふらふらと酔っ払ったあおは、3本目の一升瓶でバッティングをし、野球挙を迫ってきたという。それから元カレの愚痴、お菓子で節分、キス我慢大会、etc....
「君はあれかな?女の子ともこう、深い関係になったことがあったのかな?...なかなかだったぞ。」
少女は透き通った頬をうっすらと朱に染め、目線が泳いでいる。
あおにそんな経験はなかったはずだが、もしかして昨日少女と深いところまでいってしまったのだろうか。ほんとにレズ展開に発展してしまったというのか?!
「いやいやいや!そんなことないです!、それってもしかして、、そこまでいっちゃったやつですか?!あの、すいません!」
そらは相変わらず目をそらしたまま答える、
「いやいや!そのような謝られる筋合いはないぞ。私もその方面の知識はあまり持ち合わせてなくてな。まあ、...なかなか良いものだった...」
しばらく2人のあいだに沈黙が流れる。
朝を告げる小鳥のさえずりが聞こえてきた。
下着姿の少女と三十路の無職に朝日が差し込んでいた。
あおはふと、断片的な記憶が戻ってきたのでそらに聞いてみた。
「...そういえば、、そらさんもたしか、持ってきた三角コーナーを窓の外に遠投してませんでしたっけ?」
「なに?!私はそんなことをしていたのか?」
そらは慌てて窓の外を覗く。
このアパートの窓の外には、すぐお隣の家の垣根になっている。そこには三角コーナーが見当たらなかったので、おそらく垣根を飛び越えてお隣の家の敷地内に転がっていってしまったと考えられる。
「あれがないとさすがにまずいぞ。ちょっと探しに行ってこなくては。」
そう言って玄関を飛び出していきそうになるそらを、あおは慌てて捕まえると、
「そ!そらさん、さすがにそのまま外に出るのは、いろいろ宜しくないと思いますよ!、」
「おお、そうだったな。私は寝ると服を全部脱いでしまう癖があってな、ここまで君が着せてくれたのだろう?」
つまりそれってどういうことだってばよ!!
あおは心の叫びの語尾がNARUT○っぽくなるほどに動揺してしまった。酔っ払っているあいだに、いったい私は何をしでかしてしまったのかと。
そんなあおの葛藤もむなしく、そらはそこら辺に散らばっていた自分の服を拾い上げて、ちゃっちゃと身支度を済ませると外に出ていってしまった。残されたのは頭を抱えた下着姿の三十路であった。
「ふぅ、危なかった危なかった。あともう少しでこの三角コーナーを廃品回収にもっていかれることろであったぞ。まったく、日本の半分がかかっているというのに、もっと丁重に扱わんか。君もそう思うだろう?」
しばらくすると、そらは三角コーナーを抱えて帰ってきた。
もっとも、丁重に扱えというなら酔った勢いで三角コーナーを遠投したそら本人に言うべきである。あおもそう思ったが、心の大地震から復旧作業が間に合っておらず、適当な相づちをうつ以外の思考が追いつかないでいた。
「さあ!三角コーナーも戻ったことだし、早くボスのところに案内してくれ。時間は限られているぞ?」
あおは、なかなか復帰してこないおんぼろデスクトップの如くうだうだしていたが、そらに急かされてようやく重い腰を上げた。驚きの余り彼方へ追いやっていた二日酔いが再来して正直しんどくてもうひと眠りしたかった。どうやら異世界人には二日酔いという概念が存在しないようだ。まったくタフにできていやがると、あおはため息をついた。
二人並んで歯を磨き、冷蔵庫から瀕死の卵を見つけて目玉焼きにし、パンを焼いて朝ごはんにした。
時刻は11時を過ぎた頃。2人はあおの元研究室のある、
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